042. 闘技場と約束
誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。
なんとも変な話になってしまった。これは全部エルナのせいだ。いや、これは俺が事実では無い事を話した事に対するエルナなりの抗議なのかもしれない。
「アラン、無茶です! あれほどの人数と戦うなんて!」とセリーナ。
「そうです! いくらアランでも、あの人数は多すぎます!」とシャロン。
「心配してくれるのは嬉しいが、模擬試合だし、これは多分、必要な事だと思う。まぁ、俺も伊達に魔法を練習してきた訳じゃないさ。大丈夫だよ」
冒険者ギルドにはすぐに着き、受付に見知った職員がいたので声を掛けた。
「こんにちは、アミィさん。闘技場って空いてますかね?」
「アランさん、今日は随分と大人数ですね! 空いてますよ。一時間で良いですか?」
「はい、一時間でお願いします」
「では、百ギニーになります。知っているとは思いますが、的を壊したりすると追加料金が発生しますからね」
「了解です。では、これを」
百ギニーを支払い、闘技場の鍵を受け取った。
「さて、どんなルールでやったらいいんだ? エルナ」
「そうですね、どうしましょうか? クレリア様」
「まず、当然だが木刀を使用する。アランは攻撃魔法は使用禁止、対して近衛側は魔法の使用は自由としよう」
「クレリア様! それでは到底公正な勝負とは言えません! いえ、最初から公正な勝負ではありませんが…」
「いや、これでも私はアランに対して甘すぎると思っている。アランには攻撃魔法は使用禁止と言ったが、アランが魔法を使わないと言った訳ではないぞ」
「それは一体どういう意味でしょう?」
「つまり、何らかの魔法を使うという意味だ」
「クレリア様は本当にアランに甘いです。私ならば、アランは魔法は全て使用禁止。しかも木刀は無しにします」
「ノリアン卿、ふざけているのか?」
「私は、この条件でも勝てないと思っています」
「…… なるほど。それほどまでの相手ということか」
みんな闘技場にあった木刀を選び、思い思いに素振りしている。うーん、エルナが余計な事を言ったせいでみんな凄く気合が入っているな。怪我しなきゃいいけど。
「半月の陣でいく。相手は一人だが油断するな」
「隊長、私に先陣を切らせてください。十秒ぐらいは時間を稼いでみせます。その間に態勢を整えてください」
「それはどういう意味だ?」
「すぐに分かります」
「… いいだろう、やってみろ」
十秒か。エルナの奴、大きく出たな。
「両者、準備はいいか? 用意… 始め!」
「ウィンド・カッター!」
始まりの合図と共にエルナが魔法を放ってきた。これは当然予想していた。
「なに!?」
通常のウィンド・カッターより極端にスピードが遅い! エルナはウィンド・カッターの刃の後ろに隠れるように走り込んできている。なるほど、これは面白い手だ。避けるのは簡単だが、どう動くのか興味がある。少し付き合ってみよう。
ウィンド・カッターのスピードは流石にエルナが走るスピードよりは速い。それで魔法に気を取られているとエルナが近づいて来て剣でバッサリと切られるということだろう。
ウィンド・カッターは避けるしかない。魔法が使えれば相殺するところだが、魔法は使用禁止だ。
カッターの速度が遅すぎて避けるにはまだ早い。いま避ければ、エルナはカッターの軌道を変えて当てにくるだろう。
「エア・バレット!」
嫌なタイミングで魔法を使ってくるな。魔力の流れからすると三方向同時に放ってきていた。正面と俺の左右だ。エア・バレットは加速して避けるしかない。上だ!
加速した途端に気づいた。加速して空中にジャンプした俺をめがけて、エルナは発声せずにエア・バレットを放っていた。恐らく上にジャンプすると読んで放っていたのだろう。辛うじて体を捻って避けたが全ては避けられずエア・バレットに吹き飛ばされる。しかし、なんとか両足で着地することができた。
「ええ!? エア・バレットに当って、その程度のダメージですか?」
「いやー、びっくりした。やるじゃないか、エルナ」
「あぁ、最初で最後の勝つチャンスだったのに…」
「いくぞ、エルナ」
加速して一瞬にしてエルナに迫る。エルナはまだ反応できていない。エルナの木刀を跳ね上げると小手を狙いエルナの木刀を叩き落とした。
「つっ!」
これでエルナは戦線離脱だ。
ここ二週間ぐらいの魔法の練習で、俺はこの常人では有り得ない加速を手に入れていた。こんな風に動ける訳は勿論、魔法だ。
エリダー星系の第二サルサの犬に似た生物が魔力を使用しておこなっていた、目にも留まらぬ動きを俺なりに再現してみたものだ。本家のように目にも留まらぬという訳にはいかないが、ナノムの計測では通常の動作の三倍程度のスピードで動くことが可能だ。
当然、このような動きを連続して続ける事は出来ず、一回の加速で行動できる時間は最大で二秒間くらいだ。それ以上続けると体の筋肉や腱が耐えられない。初めてこの魔法に成功した時は、調子に乗って動き回って酷い目にあった。一回加速した後は、治癒魔法で軽く修復する必要がある。その為、連続して加速することは出来ず、一回加速すると五秒間くらいのインターバルが必要だ。
二秒間だけとはいえ、相手の速度の三倍の速度で動ける事は、はっきり言って剣の世界では反則だ。相手に近づき加速すれば、剣で負けることはないだろう。
「なんだ! あの速さは!?」
近衛の人達が騒ぎだした。もうさっさと終わらせてしまおう。一番近い人から順に近づいては加速して、木刀を叩き落としていく。
「なんだこれは!? どうなっている?」
次々と木刀を落とされていく仲間を見て、もう半ばパニック状態だ。そんな人達を相手に木刀を落としていくのは容易かった。
「そこまで!」
一五人全員の木刀を叩き落とすとクレリアが終了を宣言した。
ほとんどの人が腕を押さえていて、膝をついている人もいた。全員の腕を仮想ウインドウでロックオンすると治癒魔法を放った。全員の腕に光が降り注ぐ。
「こっ、これは治癒魔法!?」
「そう、これはアランの魔法」とクレリア。
沈黙が辺りを包む。
「すっ、素晴らしい! これが女神に愛された者の力!」
クレリアがセリオ準男爵と呼んでいた老人が、感極まって泣きそうになっている。
近衛の人達もやっと我に帰ったようだ。
「そんな、馬鹿な…」
「いったい、なんだあれは!」
「信じられない」
「こんなものではないぞ、アランの実力は。面白いものを見せよう」
そう言うとクレリアは、俺の前、十五メートルの所に立った。えーっ、あれをやるのかよ。あれ、おっかないんだよな。
クレリアは手をかざすと、いきなりファイヤーボールを俺に向けて放った。
「「「おおっ!」」」
近衛の人達が驚く声が聞こえる。
俺は飛んでくるファイヤーボールに向けてファイヤーボールを放った。魔法は相殺され消滅する。
次はファイヤーボール三発同時だ。同じく俺もファイヤーボール三発で対応し、魔法は消滅した。
次はフレイムアロー三本だ。同じく俺もフレイムアローで対応するが、ファイヤーボールよりもスピードが速いため、魔法が消滅したのは俺の三メートルくらい先だった。怖っ。
またもや、沈黙が辺りを包む。
見渡すとみんなポカンとした顔をしていた。
「凄い… まさしく神に愛された者。あぁ、間違いない…」
セリオ準男爵はもう涙を流していた。
近衛の人達は、呆然としている人や何やら叫んでいる人などで大騒ぎだ。
「姫殿下! アラン殿は凄すぎですが、殿下の魔法は?」
「私とエルナは、毎日アランに魔法を教わっているのだ。なかなかの腕前だろう?」
「なかなかどころではありません。筆頭宮廷魔術師よりも凄いではないですか!」
「そういえば、さっきのノリアン卿の魔法も凄かった」
「アラン殿! 私にも魔法を教えてください!」
「私にも!」
もう収拾がつかなくなってしまったが、しばらくすると、やっとみんな落ち着いてきた。
「姫殿下、たしかに神に愛された者の片鱗を見せて頂きました。このような方と巡り会うとは、さすがは姫様です。ルドヴィーク家の強運を間違いなく受け継いでいらっしゃる」
「セリオ準男爵もそう思うか。私もアランに会えた事は、正に僥倖であったと思う」
「このような方が御味方してくださるのであれば、我らの行く末も明るい! もう女神ルミナス様を味方につけたようなものよ。おぉ! 年甲斐もなく、なにやら血が滾ってまいりました!」
「「おお! 私もです!」」
「では、早速宿に戻って計画を詰めるとしよう。そのほうがいいでしょう? アラン」
クレリアが目を細めて怖い目で俺を見ている。やばい! 相当怒っているようだ。そういえば、さっきのフレイムアローもいつもよりスピードが速かったような気がする。
「そ、そうだな。そうしようか」
闘技場の鍵を返してギルドを出た。一部屋か二部屋ぐらいはなんとかなるだろうと、ダルシム隊長とセリオ準男爵には豊穣へ泊まってもらうことにした。
「アラン、さっきは凄かったです!」
「本当に! 魔法であんなことが出来るなんて。早く私も魔法を使ってみたい!」
セリーナとシャロンは魔法が見られて大満足のようだ。俺はこの後、クレリアと話す事を考えて憂鬱だった。
宿に着き、丁度二人部屋が空いていたので、ダルシム隊長とセリオ準男爵の分の部屋をとった。俺のただの知り合いと言うと宿代はちゃんと受け取ってもらえた。
みんなの視線が俺に集まる。
「悪いんだが、まずクレリアと二人で話をさせてもらえないだろうか?」
「… わかった。まずは私が話をしよう」
クレリアを俺の部屋に案内する。そういえば二人きりで話すのは久しぶりだな。
「クレリア、まずはさっきの事を謝る。勝手に計画があるみたいな事を皆に話してしまって、すまなかった」
「いったい、どういうつもりなの? アラン」
「本当に申し訳ない。あんな風に話をしたのは、この状況をなんとか自分のやりたい事、やらなければならない事に利用出来ないかと思ったからなんだ」
「どういう事? アランは私の国の事には関係ないでしょう? アランのやりたい事って何?」
「クレリア、俺は、いや、俺達は、この大陸に国を興そうと考えている。いや、国を興す」
「え!? … 国を興す?」
「そうだ、俺達は国を興す。これは絶対にやり遂げる。そうした考えがあったから、本当に勝手ながらクレリア達の状況を利用しようと考えたんだ」
「俺達って、セリーナ達と一緒にという意味?」
「そうだ。セリーナとシャロンと俺だ」
「そんな… たった三人だけで?」
えーと、イーリスや汎用ボット、ドローンの事はなんて言おう。
「あぁ… 他にも協力してくれる者達がいる」
「… 何人くらい?」
「はっきりした数は分からないが、どちらかと言うと支援してくれる側の者だな」
「…… そう、自分が国を興したいから、私に従ってくれる者達を使って国を興こす。そう言っているのね?」
「… そうだ。しかし、多分クレリアの想像している事とは少し違っていると思う。
まず、俺が国を興す。これに関わりたくなければクレリア達は関わらなくていい。
ただ、クレリア達には俺が作った国の民になって欲しいだけだ」
「アランが作った国の… どうやって国を作るつもりなの?」
「実は、最初の拠点作りにはもう取り掛かっている。まずはその拠点に人を集め、街を作る。それから徐々に拡げていくつもりだ」
(イーリス)
[はい、艦長]
(拠点作りはどれくらい掛かりそうなんだ?)
[始めたばかりで正確な期日は分かりませんが、推定で一年です]
(そうか、結構掛かるんだな。分かった、ありがとう)
「拠点って何処に?」
「魔の大樹海という所だ」
「アラン! 魔の大樹海がどういう所か知っているの!?」
「勿論、調べたよ。でも、ああいった場所でないと新しく国を興すなんて出来ないだろう?」
「… そうかもしれない。でもあんな場所に拠点なんて作ることができるの?」
「作れるさ。それは全然心配していない。俺の協力者は、なかなか有能なんだよ」
「その拠点はいつ頃できるの?」
「大体、一年後だ」
「私達がいなかったら、国の民はどうするつもりだったの?」
「それは考えていたところさ。貴族になるのもいいかもしれないと考えていたよ」
「それで今朝、聞いていたのね」
「そうなんだよ。魔物を倒すのは訳ないと思うけど、有名で国民に人気っていうのがなぁ」
「そうね。アランならどんな魔物でも、きっと倒せるわね。…… アラン、申し訳ないけどアランの国の民になる話は断るわ」
「… 理由を聞いてもいいか?」
「まず第一に、魔の大樹海を切り開いて街を作ったとしても、そこの暮らしが平穏になるとは思えない。
恐らくとても厳しく辛い生活になると思う。そんな所に私について来てくれる人達を連れて行く訳にはいかない。
第二に、私に従ってくれるという二千人の人達は、伯父上の譜代の家臣達で、彼らはアランの国に住みたがっているわけではないわ。
伯父上と仲間達の復讐、それに自分達の土地を取り返す事を願って私についてきてくれる人達のはず。そんな人達の意に反してアランの国に連れていく訳にはいかない」
「… これは言ってなかったが、俺は国を作って、この大陸に覇を唱えるつもりだ」
「ええっ!?」
「スターヴェーク王国、いやアロイス王国だったか。その国が欲しければクレリアに譲ってもいい。勿論、それがいつになるかは分からないが、クレリアが生きている内には渡せるはずだ」
「アラン! 本気で言っているの!?」
「本気も本気さ、これ以上本気な事は無いぐらいだ。拠点に住むって話も、拠点を見てから決めてもいいんじゃないか? 拠点を見て、ここには住めないと思ったらやめればいい。それから判断しても別に状況は変わらないし、悪い話じゃないだろう?」
「アラン、国を興す理由は何なの? アランは権力を求める人間じゃないし、物欲や支配欲があるわけでもない。私にはアランが国を興す理由が分からない」
「… これは信じてもらえるか分からないけど、この大陸に暮らす民のためだ」
「民のために国を興して、大陸に覇を唱えるというの?」
「その通りだ。誓ってもいい」
「… 具体的には国を興して何をするの?」
「教育だな。民に自分の周りの事、この世の理を知ってもらい、幸せに生きて人生を全うしてもらう。俺が望むのはそれだけだ」
「つまり、アランはこの大陸の民の幸せのために国を興すと?」
「そう言っていいだろう。信じられないか?」
「俄には信じられないわ」
「俺が豹変して暴君になるとでも?」
「そこまでは言わないけど…」
「そういうことなら、俺が作る国はクレリアとの共同統治という形でもいい」
別に統治の形なんて何だっていい。俺は国民、いや帝国臣民に科学を効率よく学んでもらえればそれでいい。
「きょ、共同統治!? それは、あの、つまり… 私とアランが?」
「そうだ、二人で力を合わせて国を治めていく。しかし、予め言っておくが民に教育をする方針や方法、教育に関する法なんかは、全て俺に任せてもらう。あと、可能な限り早く大陸を統一するという方針も譲れない。これ以外の事柄であれば、クレリアが決めてもらって構わない」
クレリアは急に顔を真っ赤にしてあたふたしている。どうしたんだろう?
「ア、アランは私でも構わないの?」
ん? どういう意味だろう? あぁ、頼りないけどそれでもいいのか?という意味だろうな。俺がこんなことを言う相手は気心が知れたクレリアぐらいだ。他の人間にこんな重要な事を任せるなんてことを言うつもりはない。
「勿論だよ。こんな事を言うのはクレリアだからだ」
「そ、そうなの? 全然気づかなかった。少し考える時間が欲しいのだけど…」
「そうだろうな。俺は席を外そうか?」
「いや、アランはそのまま座っていればいい」
クレリアは、目を閉じて真剣な顔で考え始めた。五分ぐらい経った頃に目を開けて微笑んだ。
「アラン・コリント殿、先程の御話、御受けしたいと思う。しかし、三つの条件がある。
一つ目、話にあった通り、アラン殿が用意しているという拠点の状況がこちらの考えているものと異なり、住むに耐えない状況の場合、この話は無かった事にして頂く。
二つ目、これから作る国は話にあった通り、私との共同統治とし、民の教育と大陸統一以外の事柄については私の合意の上、統治していく事とする。
三つ目、仮に国がアロイス王国を手中に収めた場合、その領地の扱いは私に全面的に任せて頂きたい。
これら三つの条件を守って頂く限り、私は全てを捧げてアラン殿に全面的に協力することを約束しよう」
「クレリア・スターヴァイン殿、私はその三つの条件を守る事を約束しよう。…… えーと、文書か何かにしたほうがいいのかな? クレリア」
「もう! せっかく厳粛で真面目な雰囲気だったのに、台無しじゃない! 文書なんか要らない!」
「いや、こういった事は全然分からなくてさ」
「アランは、跪いて『全ては君の言う通りに』みたいな感じの事を言えばよかったの!」
「そうだったのか、よし、もう一回やろう!」
「もういい! とにかく話はまとまったわ。アラン、必ず約束は守ってね」
「勿論だよ。約束だ」
俺は手を差し出した。あれ? この惑星には握手の習慣はないのかな? 人類惑星の七割以上の星では握手の習慣があるんだけど。
「この手は何?」
「俺の国では話がまとまった時には手を握り合うのさ」
「そうなの? とても面白い習慣ね」
俺とクレリアは、初めての握手を交わした。




