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◆24

◆24


 その日の夕方、ランドがハウエルのもとを訪ねてきた。

 彼からの要望で、ローザとトンプソンも集まった。

 報告は簡素で。

「コスミーと婚約をしました」

「おお……!」

「まさかそこまで進展するなんて、すごい!」

 トンプソンとローザは驚いているようだが、ハウエルからみれば「ああ、それはそうもなるだろうね」といった様相だった。

「これも相談に応じてくださった皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。これからもコスミーとはともに歩んでいきたいと思います」

「うん、それはよかった。末永く仲良くね」

 ハウエルは手短に返した。

 しかしトンプソンは感動もひとしおだったようで。

「ランド、時にはケンカすることもあるだろうが、最後には少し譲るのだぞ。二人の縁というものは、常に絶やさないように努力しなければならん。いつでも思うままにではいかんのだ」

「分かっています。幸せをずっと続けてみせます」

 説教臭いトンプソンの言葉を、しかれどランドは確かに受け止める。

「本当に、ありがとうございました」

 ランドは頭を下げた。


 ランドもトンプソンも退出したが、ローザはすぐには下がらなかった。

「主様、ランドは幸せそうでしたね」

「そうだね。充分すぎるくらいにね」

 ハウエルは実際に幸せいっぱいの二人を見ている。

「私も幸せになりたいものです。でもなかなか上手くいかないんですよね」

「おっ、なにかしているのかい?」

「ずっと試みています。でも……いつもその『機会』はそっぽを向いているんです」

 ローザはぽつぽつと、少しだけ元気のなさそうな声で話す。

「私はハ……いい人の唯一の伴侶になりたいと、ずっと思っています。でもいつも、私はにぎやかし担当で、荒事担当で、戦力でしかないんです、きっと」

 彼女は柄にもなく悲しそうな表情。

「ローザ……」

「私は面白おかしく生きるしかないんです。その『機会』は、きっとずっと私に気づくことなく、近くにあっても遠くにいるように、視線をくれはしないんです」

 まれにみる、真剣で悲しげなローザ。

「……きみが悩んでいるのは分かった。きっと恋の話をするだけでも苦痛だっただろう。ランドの話に巻き込んですまなかった」

「そうじゃない……そうじゃないんです」

 ローザは、まだ晴れない表情ながらも、じっとハウエルを見る。

 そして。

「――なんて、私が恋の話を嫌いなわけないじゃないですか! いい娯楽ですよ!」

「お……おお」

「まだこの領地には娯楽が少ないです。それをどうにかするために、私も頑張ります!」

「そうか」

「娯楽が多くなれば、きっとみんな笑顔になれますよ。色恋を追うのも一つの生き方ですけど、それはそれとして、色恋だけじゃない娯楽を提供できれば、人生も豊かになります」

「そうだね」

「だから主様、一緒に頑張りましょう。私がついていますから」

 そう言うローザの笑顔には、ハウエルはどこか曇りを感じたが、すぐにその引っ掛かりは消えた。


 ほどなくして、自警団が飛燕地方への救援から帰ってきた。

 ハウエルも渋々出迎えた。

 もちろん、そのわずらわしさは、表面上おくびにも出さずに。

 ディレク村の広場に集まった二百人の青年……とも言い切れない、中年や老兵が混じった「地元の勢力」。脱落者は今回はいない。

 彼らを前に、ハウエルが簡単に訓示する。

「皆、帰ってきて本当によかった。こたびの救援への協力、本当に感謝する」

 彼は素直に頭を下げる。

 ……内心?

 恩義などかけらも感じていないに決まっている。領主の命令、もとい要請に、必ずしも従うとは限らない武装勢力など、邪魔きわまりない。領主の権威が充分に及んでいない武力、それがどれほど厄介か、ハウエルは見積もれない愚物ではない。

 しかし、それを露骨に見せるほどハウエルは短慮ではなかった。この場はあくまでも感謝とねぎらいの言葉をかけなければならない。それが筋というものだ。

 とはいえ。

 いっそのこと、今後は武力蜂起を少しずつ、さりげなく助長しつつ、立ち上がったところで、ハウエルに対する一定の忠誠は期待できる機動半旗でぶちのめすのも、一つの手ではある。痛い目を見ないと、自警団は心から服従しないだろうという予感があった。

 それに、機動半旗が兵力ではるかに上回るとはいえ、自警団も二百はいるのだ。なんらかの手段で完全に取り込んで、きちんと領主に従う戦力として扱えるようにする……いずれは、蜂起を意図的に起こさせえるかどうかはともかく、そうしていかなければならないだろうという予感があった。

 ただでさえ勇者カーティスがなにか悪だくみを始めているのだ。早めに「独立的な勢力」をどうにかしないと、勇者に足元をすくわれかねない。

 複雑な考えをめぐらしながら、ハウエルは訓示を締める。

「ともあれ、諸君、お疲れであった、退屈な話はそこそこに、ゆっくり休んでほしい、これにて解散する!」


 ハウエルは思う。

 機動半旗は優秀な戦力である。

 災害救援の心得こそ不十分なものの、凶賊団や流浪の強者といった出自に由来するのか、個々の腕前が比較的高い。合戦は集団でするものであり、そのために個人戦や賊の乱戦にはない戦い方を訓練する必要があるが、そもそも戦い自体には慣れているため、それほどその訓練を苦にはしていない……ようにみえる。

 忠誠心も、現在の自警団よりはずっと期待できる。凶賊の罪を不問にし、公の正規軍にまで取り立てたのだから、これも当然の帰結であり彼の思い通りである。いかなるときにも離反も士気低下もしない鋼の忠誠心……までは持たずとも、とりあえず軍紀に従い命令通りに動く、それだけでも御の字である。

 これに少しずつ銃の装備と訓練が加わり、徐々に機動半旗の戦闘能力は上がってきている。

 しかし不安がある。

「銃には欠点があるんだ」

 彼は、なんだかんだで信頼しているローザ、何かと物知りであり頼れるトンプソン、そして内政事務方の責任者の位置にいるアントニーに言った。

「確かに、いくつか欠点がありますよね」

「私めはそれほど戦いには詳しくございませんが、あるとは聞いたことがあります」

 ローザとアントニーがそれぞれ答えると。

「雨と装填速度ですな」

 トンプソンが核心を突いてきた。

「その通り。銃は雨に弱い。晴れた日しか運用できない。そして弾込めに時間がかかるんだ。これを少しでも改善しないと、銃をそろえる意味が薄まる」

「集団戦ではともかく、一騎討ちや少人数の戦いでろくに使えない理由ですね。雨が降っていたら火薬が湿気て使えませんし、晴れた日でも弾込めの時間を確保する護衛が必要になってしまいます。あとは夜は銃弾が命中しませんけど……まあ夜戦は特殊ですから」

「ローザ、今日はまともなことを言うね」

「うぅうー!」

 ハウエルは腹心をからかいつつ。

「これを解決する方法は、大きく分けて二つあると思う」

「ほう、二つでございますか」

 トンプソンが「一つではない、と」などと目を丸くする。

「私めも、一つなら思い浮かびましたが」

 アントニーも答える。

「戦い慣れしていないアントニーでも心当たりがあるんだね、それは何かな、アントニー」

「先ほどローザ様がおっしゃったように、少人数の戦いではできないことをするのです。弾込めや雨天時の間を持たせる別の兵科、例えば天気に関係のない弓弩ですとか、護衛となる歩兵を配置するのです」

「それが普通の措置だと私も思います!」

「左様、どこの軍を見ても銃だけに頼った編制はしていないように思えまする」

 ハウエル以外の三人は互いにうなずき合っている。

 しかし。

「もう一つ方法が考えられる。銃そのものを改良するのはどうかな」

 今度は三人とも目を見合わせた。

「確かに、それができれば問題は解決しますけど……」

「いや、仮にそうだとしても、極端な編制はできませぬぞ。戦いは銃のみで行うものではありませぬ」

「それはそうだよ。私としても銃に編制を全て振るつもりはないよ。だけど編制だけで補うのは限界があると思うんだ。せっかく銃の生産体制を確立したんだし、最大限それを活かすことをしたい。よそに売るときも、強みになるからね」

「なるほど。主様のご意向は承知しました。で、具体的にどうするおつもりで?」

「それなんだよね。職人とも相談するしかない。それで何も出てこなければ、この話は終わりだ。だから、ローザとトンプソンには職人との相談に同席してほしい」

 銃を作る側と、それを使う側、双方の知恵を組み合わせれば、何か出てくるかもしれない。

 少なくともハウエルはそう考えた。

「なるほど、主様のお考えが少しは分かった気がしますな。それがしは同席になんら異議ありませぬ」

「私も異議ありません!」

「アントニーも来るかい?」

「私めは遠慮いたします。同席したところで戦のことはあまり分かりませぬ」

「そうか、分かった」

 ハウエルはそれ以上問うこともなく、うなずいた。


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