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◆21

◆21


 支部長から示された図面等を見る限り、もともと困難でも複雑でも、豪奢な造り方の建築でもない。そんな建物を建てたら、現地の村民から不興を買うことは間違いないからだ。

 したがって支部はそれほど日数をかけずに完成し、すぐに商売を始めた。

 かゆいところに手が届く支部の事業。今後もこの調子で物品の調達が捗れば良いと、ハウエルは自領の物流を思い描いた。


 それからしばらくして、王国中央から、動員の召集がかかった。

 なんでも、荒天領から結構な距離がある「飛燕地方」にて水害が発生したとのこと。その救援のため、人員を派遣してほしいとのことであった。

 しかしもともと不毛の荒天領に、他所様の領地を救援する余裕は……ないわけではないが、そんなにない。ハウエルはすぐに王太子に直通の手紙を出し、事情を聴き召集の免除または軽減をお願いした。

 だが、王太子によると、飛燕地方は王室に縁のある領主が治めており、国王や重臣たちとしては、どうしても他の地方領より優先せざるをえないという。

 その代わり、王太子が頼み込んで、または荒天領の貧しさを説いて回り、特別に、荒天領からの救援の人員は少なくてもよいという裁可を得たという。

 持つべきものは人脈である。

「そこで、どうしたらいいか皆に意見を問いたい」

 評定の場で、ハウエルは主だった家臣たちに水を向けた。

「どうしたらいいかって、助けに行くしかないんじゃないですか?」

 ローザが困惑した表情で口火を切る。

「王太子殿下の力を借りても、派遣義務そのものは免除されなかったんですよね。ならもう、覚悟して身を切って部隊を差し向けるしかないじゃないですか」

「もし考えるところがあるとすれば、誰を行かせるか、どの程度派遣するかといったところですな」

 トンプソンが思案気に発言する。

「そして、主様はそこまですでに考えていらっしゃるようにみえまする。ぜひ主様の腹案をうかがいとうございます」

「うん、その通り、私は自分の案を諮るために、皆を集めた」

 ハウエルは素直にうなずいた。

「結論からいうと、自警団の動員を要請しようかと思っている」

「……ほう、個人的には思った通りの結論ですな」

 トンプソンがうなずく。

「理由をおたずねしましょうかな」

「機動半旗を温存するためだよ。それに自警団は本質的には村人の互助会だから、災害の救援には幾分慣れているはずだ。機動半旗にもそういった経験のある者はいるだろうけども、それは偶然の事情にすぎない。まだ災害救援の訓練はしていないし、実動経験もないからね。向き不向きってやつだよ」

「最初の理由が本音のように聞こえますが」

「その通り。他は方便というものだよ」

 白昼堂々と自白される方便。

 しかしローザが首をかしげる。

「それで村々が納得しますかね?」

「全ては中央政府からの指示だからね。従わなければ中央政府にその旨を『陳情』または『釈明』するといえば、物の道理を分かるのではないかな」

「もしそうなった場合、中央政府から機動半旗について突っ込まれると思いますけど……」

「そこでさっき言った方便だよ。実際、機動半旗は災害救援には慣れていない。現実に今回出すわけにはいかない集団なんだよ」

 ハウエルはなおも語る。

「飛燕地方は遠くの領地だから、本気で助けても益は少ない。それにまだ荒天領での産業は始まったばかりで、余裕がない。いかに少ない労力でそこそこの救援をするか、それが最大限考えられないといけない。一方、村々の自警団は結局のところ『一勢力』であり、完全な身内ではない。その力を少しでも縮小させるためにも、今回は自警団のみの出動としたい」

 しかしローザによれば、疑問が一点。

「主様、その理屈で本当に自警団は了承しますかね?」

 ハウエルは力強くうなずく。

「私自身が説得に向かうよ。自警団というか村々は、領主に心からは帰順していないとはいえ、領主の意思を無碍にするわけにもいかないはずだ。それが身分というものだよ」

「村々は不満をさらに溜め込むことになりませんか?」

「仕方がない。いざとなれば、いつかローザが言ったように、機動半旗で制圧する」

「おぉ、物騒な考えですね」

「もとはローザが言ったんだけどなあ」

 ハウエルは「何か意見はあるかな」と一同を見回すが、議論はこれで尽くされたようだ。

「よし、では議論のとおり、自警団の出動を要請することにする。以上だ」

 領主は会議を締めくくった。


 その後、ハウエルは村々の村長を呼び出し、直にこのことを伝えた。

「というわけで、自警団に飛燕地方への出動を要請したい」

 案の定、ディレク村を除いた村長たちは不満顔。

「要するに厄介ごとを自警団に押し付けているだけでは?」

「機動半旗……だったか、を動かすわけにはいかないのでしょうかな」

「要請はあくまで要請ですゆえ、こちらが断ることもできるのですがな」

 ハウエルは一つ一つ、異議に反論する。

「機動半旗はいまのところ戦いにしか使えません。まだ災害救助の訓練や経験は一切積んでいないのです。実地で学ぶという理屈もありましょうが、全く訓練を積んでいない現状では、ある程度学ぶまでは現場のお荷物となってしまいます。それではあえて自警団を出動させず、機動半旗を出動させた我々の責任を問われるというものです。ただの厄介ごとの押し付けでなく、強いて自警団を出動させる理由はここにあります」

 村長たちが渋い顔をする。

「また、要請は確かに、あくまでも要請です。しかし結局のところ、判断の決裁権者である村長様方が、その判断で自警団を回さないという形になるのは確かです。私はそのことを、正直に中央政府からの糾問なりなんなりに答えるつもりです」

「それは脅しのつもりかな」

 全くもってその通りである。

「全くそうではありません。以前よりこの体制は、どうにかしないと、いずれ領地経営の大きな障害となると考えておりました。それゆえ、中央政府にも改革のため、『協力』をお願いできればと、常々思っていたところです」

「中央政府に注進するということですかな」

「とんでもない。この問題については村長様方にとっても、いちいち自警団を煩わせるのは酷でしょう。お互いに妥当な着地点を見つけるため、中央政府にも『協力』をお願いするにとどまるのみです。注進ではなく、もっと建設的な方策を探る所存です」

 とんでもない。これは「逆らったら注進するぞ」という立派な脅しである。

 しかし、自分の権威ではなく中央政府の威信を持ち出すこの交渉は、村長たちにも多少ばかりは響いたようだ。

「まあ……こたびは召集が中央政府からだからな……荒天領の野暮用ではない。最初から断る選択はなかったのだろうな」

「ウェード村の村長……」

「ディレク村としては、当初より従う所存でありました。特に最近の政策では、我が村は大きな恩恵を受けておりますゆえ」

「シタール村としても、お話は理解しましたので、こたびの要請をお受けいたします」

「むむ……サヒダ村としても……要請をお受けします」

 ディレク村以外は、不承不承といった様子で、半ばあきらめの言葉を口にする。

「ご協力ありがとうございます。これで中央政府にも、我々責任者一同、胸を張ってお答えできるというものです」

 言いつつ、ハウエルは不満が高まるのを感じ取り、今後を密かに憂慮した。


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