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28.その言葉で、世界が変わる

 会場のざわめきが、一瞬で張り詰めた緊張感に変わった。

 ヴァネッサの声が、大広間の隅々まで冷たく鋭く響き渡る。


「エメリナ様、威勢だけはお見事ね」


 その嘲笑は氷の刃のように鋭かった。


「私は聖女。この王国の光であり、民の希望よ。あなたのような追放者の身勝手な主張を、一体誰が耳を傾けるというの?」


 彼女の言葉が放たれた瞬間、大広間の空気がぴたりと凍りついた。

 人々の間に、緊張の波紋が静かに広がっていく。


 ヴァネッサは背筋を伸ばし、完璧な笑みを浮かべたまま、堂々と立っていた。

 白銀のドレスは光を受けて眩しく輝き、その瞳はすべてを見透かすかのように冷たく光っていた――まるで、裁きを下す神のように。


 聖女という立場を武器に、ヴァネッサは一瞬で周囲の注目をさらっていく。

 まるで支配者が力を誇示するように、その存在感で場の空気を掌握していた。

 誰もが、その圧にのまれそうになっていた。


 その声の奥に潜む冷酷さは、刺すような冬の風のように私の胸を突き刺した。

 人々の視線がヴァネッサに集中し、私に向けられる目は次第に冷えたものへと変わっていく。

 まるで、私は舞台の上に立たされた人形。

 操られるでもなく、ただそこに立たされ、観衆に見下ろされているようだった。


 その中で私は、ひとりきり揺れながらも――心を決めた。

 逃げない。負けない。

 沈黙を破る覚悟は、もうできている。


 私はまっすぐに顔を上げ、揺るがぬ視線を前に向けた。

 そして、言葉に強さを込める。


「ヴァネッサ様の言葉ひとつで、私は罪に問われました。客観的な証拠は、ただのひとつも存在していません。私が王都を追放されたのは、あなたの証言だけが根拠だったのです」


 私は会場を見渡しながら、まっすぐに訴えかけた。


「私は、あなたこそが――王女毒殺事件の黒幕だと睨んでいます」


 その言葉が放たれた瞬間、まるで冷たい風が吹き抜けたように、ざわめいていた会場の空気が一変した。

 誰もが息を呑み、凍りついたように沈黙する。


 ヴァネッサの顔が一瞬、わずかにこわばり、そして瞬時に冷たい仮面へと戻る。

 会場の重苦しい沈黙の中、私は彼女の目をじっと見据えた。


 この静けさはただの静寂ではない。

 それは、これまで隠されてきた真実の可能性に、誰もが胸をざわつかせている証だった。


「ヴァネッサ様。私はここで、あなたの嘘を終わらせに来たのです」


 私の言葉が会場に響き渡った瞬間、時間が止まったかのような静寂が広がった。

 誰もが息をのみ、次の言葉を待っていたとき――

 その沈黙を凛とした声が切り裂いた。


「僕は、エメリナを信じる」


 ジュードの声は、誰よりも彼自身の覚悟を証明するように、まっすぐに私の胸を打った。

 誰かが小さく息をのむ音が聞こえた。

 貴族たちが互いの顔を見合わせ、会場全体がざわつく。


 王族が、聖女に弓を引く。それはあり得ないはずの構図。

 しかも、その相手はかつて罪を着せられ、追放された女だというのに。


「じゅ、ジュード殿下?」

「なぜ……」


 ささやきが波紋のように広がっていく。

 誰もがすぐには信じられず、けれど否定することもできなかった。


 私は、思わずジュードを見た。

 彼はまっすぐに私を見つめ返していた。

 迷いもためらいもない、その瞳。


 言葉はないのに、目がすべてを物語っていた。

 数秒の沈黙――けれど、その一瞬が永遠のように感じられた。


 胸の奥が、痛いくらい熱くなる。

 私は動けず、ただ彼の瞳に引き寄せられるように立ち尽くした。


「エメリナを、僕は愛しているから」


 そのひと言が放たれた瞬間、私の中の何かが音を立てて崩れた。

 そして同時に、全く新しいかたちで立ち上がっていくような、不思議な感覚に包まれた。


 こんな大勢の前で。

 真実と嘘が交錯するこの場で。

 彼は一切の恐れもなく、私のすべてを肯定してくれた。


 ずっと孤独だった。

 疑われて、遠ざけられて――信じてもらえるだけでも奇跡なのに。

 「愛している」なんて、そんな言葉を私にくれる人がいるなんて。


 胸の奥に、あたたかくてやわらかくて、けれど芯のある強い光が灯る。

 それを消さないように、私は涙を必死にこらえた。


 ジュードの告白は、まるで世界の中心から放たれた光のようだった。

 大広間を包む空気を一変させ、すべての視線と気配を一気に引き寄せた。


 ざわめきが止まり、静寂が訪れる。

 誰もが息をのんで、彼の言葉の意味をかみしめていた。


 私の胸の奥に、なにかが深く刺さり、そこから熱が広がっていく。

 頬も耳も、じんじんと火照る。

 まさか、こんな場所で、こんなふうに愛を告げられるなんて。


 ジュードのまなざしは、まっすぐだった。

 揺れず、怖がらず、誰の目も気にしなかった。

 彼は私を信じ、守り、そして……はっきりと「愛している」と言ったのだ。


 心が、大きく揺れる。

 圧倒的な感情に胸がいっぱいで、何も言えない。

 ただ私は、その場に立ち尽くしたまま、赤く染まる頬を隠すこともできず、彼を見つめ返すことしかできなかった。


 今、この瞬間。

 私の世界は、確かに変わった。

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