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第八十七話 化け物

「あ~手酷く負けたぁ」


 リュウはジョッキに入ったお酒を一気に飲み干し音が鳴る勢いで置いた。あの後のリュウとアギトとの模擬戦はアギトの圧勝で終わった。リュウの今まで培った技術を赤子の手を捻るかの如く容易く捌きぐうの音も出ない程の完敗だった。しかし、リュウにとっても得るものが多くあった一戦でもあり、有意義な時間だったと言えた。尤もそれはそれとして負けて悔しいのに変わりないため、こうして酒を飲みに来たのである。


「あそこまでボロボロにされたのはいつ以来かしらぁ?」


「少なくともここ最近は見てないのは確かだ」


 そんなリュウを楽しそうに煽るエリアルと良いものが見れたと言った声音のハロルド。


「どちらも凄い技の応酬で大変見ごたえがありました」


「うん。正直言って見ているだけで得るものが一杯ありました」


 リュウ達に連れられ一緒の席に座ることとなったミレーアとリナ。二人はお酒では無く果実のジュースを飲んでいた。


「年齢を考えれば寧ろその年でそれだけの腕前のなのが驚きだ。今後も励むと良いさ」


 何も頼まずテーブルの席に座っているアギト。鎧を外すことが出来ないため、何時もの姿だが正直言えば周囲から浮いており場違い感しかなかった。しかし、不思議なことに周囲の他の冒険者が何も頼まず鎧姿のままのアギトを気にした様子は無い。


「……もしかして何かしてる?」


 流石に何かおかしいと感じたエリアルが尋ねると特段隠すこともでもないのかアギトはあっさりと話し出した。


「流石に此処でこのままというのは不自然だからな。認識阻害のある魔導具を使っている」


「へぇ……聞いてはいたけど一度、鎧の中に入っている魔導具を見せてもらいわね」


 興味深そうにエリアルはアギトの鎧を見る。


「時間があればそのうちま」


「やり!! 言質はとったからね」


 嬉しそうにガッツポーズをするエリアル。魔導具を見せてもらえることがよほど嬉しかったらしい。


「にしてもミレーアとリナも冒険者になってまだそれほど経ってはいないんだろう? 優秀な後輩が育っていて先達としては嬉しい限りだね」


「そうねぇ。技術的には粗削りな部分もまだまだ多いけどこのまま慢心することなく育って欲しいわね」


「ああ、実際才能はあったが落ちぶれた奴らは何人も見てきたしな」


「才能があったのに落ちぶれるですか?」


 どういうことだろうかと質問するミレーア。リナも今の話が気になったのか続きを聞きたそうだ。


「ああ、なまじ才能があるだけにとんとん拍子に上に上がって調子に乗る奴は実際多い」


「そんでその結果が自分の現状の力量を見誤って失敗するわけよ」


 そこで過ちに気づいて自身を見直せれば良いが大半は命を失い生き残ってもそのまま挫折し戻らない場合が多い。


「そんなこともあるんですね。才能があればうまくいくと思ってました」


「才能もあるが運の要素も大きいな。誰と出会えてどんな経験をするのかそれは選べるものでは無いからな」


 成程とミレーアは自分の経験を踏まえて思った。実際ミレーアが冒険者としてうまくやれたのは街に来たばかりのころにマイルズ達に出会えたのが大きいと言えた。実際にマイルズ達と知り合うきっかけとなったアランがアーマー・ベアに奇襲される状況は狙って出くわせることではない。他にもリナと共に今のような普通の冒険者と違う経験をする始まりとなった遺跡での異獣の襲撃も偶然が重なって起こったことだ。


「思い返せば私が今此処でこうしているのも運も不運の積み重ねでした」


「だろ?」


 納得で出来る経験もあり、リュウの言葉に同意したミレーア。リナも現状の自分の状態を見れば同意出来た。その後当たり障りのない話をしていると夜も遅くなったことでミレーアとリナの二人は部屋へと戻りリュウ達とアギトがこの場に残った。


「それで聞きたいことがあるんだろう?」


 最初に言葉を発したのはアギトだ。彼には今から聞かれることが何なの予想がついているかのようだ。


「ミレーアの師匠についてだが……」


「言っておくが俺も詳しく知っている訳じゃない。それでも良いなら答えられる範囲で答えうよう」


「……なら最初に聞くことはこれだな。ミレーアの師匠は人ではないだろう? 明らかにミレーアの戦い方の基礎となっただろう動きは人がやる戦い方じゃない」


「正解だ。……かといって何であるかと聞かれればこう答えるしかないな。人の形をした化け物だと」






「一体あいつは何なんだ!?」


「分からねぇ!! だがここに侵入した以上は生かして帰すわけにはいかないぞ!!」


 そこはとある大規模な盗賊達の拠点だった。彼らは幾つかの国の貴族とも繋がりがあり、依頼主の貴族と敵対する貴族の荷物などを襲撃する依頼など受けることが多々ある。報酬は奪い取った荷物でありそれだけで相当な実入りが見込めた。他にも人身売買や禁制品の密輸などにも手を出しそれらで手に入れた金で武器を一新し益々手の付けられない規模まで組織は膨れ上がっていた。


「舐めた真似しやっがって!! 此処に攻めるように指示した依頼主を探し出すために直ぐには殺すな。生きていたことを後悔するような目に合わせて吐かせてやる」


 他の者に比べて少し身なりが良い男の声が周りに者達にそう指示を出した。周りの者達は武器を手に取り侵入者がいるであろう方向を向いた。それと同時に拠点の壁が轟音を響かせると共に砕け破片を辺りに巻き散らした。


「ぎゃぁあああ!? 痛てぇよぉ!?」


「いだい!? いだいよおお!!」


 巻き散らされた破片が最前列に立っていた者達に襲い掛かった。散弾のように巻き散らされた壁の破片によって幾人かが怪我を負いのたうち回った。一名に至っては当たり場所が悪かったのか既に死んでいた。


「はぁ~まったくただ通りたかっただけなのに邪魔をするなんて面倒くさい連中だね」


 瓦礫を踏み砕きながら侵入者である黒い髪の少女はそう愚痴るように呟いた。


「やれ!!」


 そう身なりの良い男が指示を出すと魔法を使える者が一斉に魔法を発動し攻撃した。それらはのんびりと歩いて向かっていた黒い髪の少女に殺到し直撃と共に爆発した。生かして捕えろと命令にされたにも関わず盗賊達は恐慌から直撃したら死ぬであろうと魔法を使った。爆発により生じた煙によって標的である黒い髪の少女が見えなくなるがそれに構わず武器を持った者達が突撃する。


「ふん!!」


 その短い力を込めた言葉共に先頭にいた盗賊の男が猪型魔獣に跳ね飛ばされたように吹き飛ぼされた。悲鳴も無く吹き飛ばされた盗賊の一人は壁に叩きつけられるとまるで水風船のように爆ぜ辺りに血と肉片を巻き散らした。それに反応する間も無く二人目の生贄の選ばされた盗賊の男は未だ煙の中へと引きずり込まれた。


「へ? ひぎぃやぁああああああ!?」


 煙の中へと引きずり込まれた盗賊の絶叫と共にメキメキと何かを砕くような音が響き渡った。煙が晴れるとそこにはそれが人であったとは思えない程に破壊され打ち捨てられた肉と骨の混ざり合った塊と服に血すらついていない黒い髪の少女がいた。その異常な光景に彼らは目の前にいる存在が普通じゃないことに気づき戦慄した。


「さてと」


 そんな周りの反応に気を止めずまた一歩前に踏み出した黒髪の少女の一歩。その一歩に盗賊達は何故か巨大な生き物が轟音を立てながら歩み寄る姿を幻視した。動けない盗賊達に対してまるで安全な街中を歩くかのような足取りで歩きだし黒髪の少女は邪魔だと言わんばかり目の前にいた盗賊を蹴り飛ばした。蹴り跳ばれた盗賊は仲間を跳ね飛ばしながら窓を突き破って外へと飛ばされた。


「ひぃ!?」


 そこで漸く我に返った盗賊達は恐怖するように後ろへと下がった。


「な……何を臆している貴様らは!? 早くそいつを捕らえろぉ!!」


 身なりの良い男が自身の恐怖を押し殺すように叫び周囲の部下達に指示を出すが部下達はそれでも恐怖が勝るのか動くことに二の足を踏んでいた。そうこうしているうちに次に生贄に選ばれた野盗の一人が目目の前で頭部から殴られ潰されたことでとうとう恐怖から野盗たちは逃げ出そうとしたがその直後、扉や窓から結晶のようなものが生え人が通ることが出来ない状況となっていた。


「な……これは一体!?」


「……まさかこの後に及んで逃げられるとか考えていないよね?」


 その言葉に盗賊達は心底恐怖し黒髪の少女を見た。今の状況を作り出したのが誰なのかそれだけで分かったからだ。


「ああぁあああ!!」


 もはや逃げ場がない状況に絶望する者、自棄になって黒髪の少女に突撃する者と別れた。誰もが恐怖に支配されたが彼らが今まで行ってきたことを考えれば因果応報とも言える。彼らに被害にあった者達がこの現状を見れば溜飲が下がることだろう。


「さてと、時間もかけてられないし手早く済ませようかな」


 これから部屋のゴミ掃除を始めるかのように黒髪の少女は呟いたのだった。

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