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第百六話 全力の一撃


 それはアレクシアが街での戦いの事後処理を終え報告のため王宮に戻った時のことである。


「そうか……あ奴は逝ったか」


「はい……最後に私の依頼を達成し満足し天に召されました」


 そういってアレクシアは剣帯から鞘ごと外すとそれを父である王に差し出した。受け取った王は剣を受け取るとそれを鞘から抜き剣身をじっくりと見た。


「これは……」


「どうしました父上?」


「……この剣からは王剣に近しい力を感じる」


「王剣にですか?」


 この国では王に即位する時に王冠と共に王剣が受け継がれる。王剣は祖王が使っていたものであり途轍もない力を秘めた武器であると伝わっている。しかし、それは実際に剣身を見ることが出来る王以外からすれば眉唾ものであり、実際は口には出さないが儀礼的な剣だろうというのが王族でも思っている程だ。仮に王以外が見ることが出来るとすれば王が戦場で王剣を鞘から抜いた時であり、それ即ち国王が戦場に立たなければならない程に国の存亡に瀕した時である。


「ああ、見せることは出来ぬが間違いはないだろう」


 祖王からの習わしで王族は男であろうと女であろうと武芸を修める。若い頃は兵を率いて魔獣や魔物と戦い自身の使う武器を選んでいた王である父親の真贋にアレクシアは疑いを抱いていない。


「実際に凄まじい力でしたが、それでもまだ私自身は余力は十分に残していました」


「ふむ……ならば今後の使うことも考えて何処までの力を発揮出来るのか調べる必要があるな」


 後日入念な魔法による隠蔽など行い剣の力を試した結果、想定外の力を目の当たりにした王によって許可が出ない限りは使用禁止となったのがアレクシアにとって最大の誤算だった。






「一体それを何処で……」


 アレクシアが鞘から抜いた剣を見て見るからに狼狽するマリア。その剣を作り出す条件を知っているのなら猶更だ。一つ目の条件である剣を作り出さす鍛冶師はまだ分かる。神業とも言える腕前の鍛冶師は長い年月の中で度々生まれているからだ。しかし、二つ目の条件である素材だけはこの世界では手に入らない。何処で素材をと思考を巡らせたマリアはミレーアを見た。


「そういうことか!!」


 誰が素材を提供したかなど考えるまでもない。この中で師と出会い必要な素材を提供出来る人物など一人しかいなかった。


「あの方はこれを予想していた? それとも偶然?」


 どちらもありえるというのがマリアの考えだ。突拍子もないことを始めたと思えばそれが後々になって意味のあることだったり慎重に何かやっていたと思えば何もなかったこともあるし、それらが全て逆だったこともある。故に師が何をやらかすのか分からない。今この時この戦いを何処かで見ている可能性もあるし、下手をすれば手を出してくることもありえる。逆に傍観者に徹することもありえるが途中で気が変わって戦いに参加してくる可能性もある。


「何を考えているの知りませんが……戦いの最中に他所事を考えるなんて随分と余裕なことですね?」


「っ!!」


 アレクシアの言葉にはっとなったマリアは急ぎ防御術式を構築する。防御魔法は回復魔法に次いでマリアが得意なことであり、強力なそれこそドラゴンのブレスの直撃を受けても砕けない強固なものが瞬時に構築されると同時にアレクシアの振るった炎の剣が防御魔法とぶつかりあった。


「くっ!!……いざあの武器の同類を敵に回すとその理不尽さが良く分かる!!」


 かつてアレクシアの武器の同類である王剣を間近で見ていたマリアだからこそその武器の持つ力をよく知っていたし、仮に戦うことがあった場合の展開を直接見ていた当時の彼女が考えない訳がなかった。しかしその当時も今こうして異獣と一体化した残滓であるマリアもその解決策がまったく思い柄つかなかった。


「はぁああああ!!」


「ぐぅ!? くっ!!」


 アレクシアの振るった炎の剣によって防御魔法が粉砕されたものの攻撃を防ぎきることは出来た。しかし、そこで安堵せずマリアは次の攻撃に備えた。マリアの視線の先には先程よりも更に強大な炎を噴出させる炎の剣。あの素材で作られた武器は武器としても最高のものでありながら戦えば戦う程持ち主に性質に合わせて成長し続ける特性を持っている。


「やるね……実力ならあの人を上回っているよ!!」


「それは父上に良いお土産話になりそうですね!!」


 祖王のことを知る者から評価であり少し嬉しそうに答えたアレクシアは炎の剣を再び振るった。先程よりも激しく噴出する炎がマリアの張った防御魔法を呆気なく破壊した。最初の一撃よりも威力が上がっているのは明白である。


「……だけど先達としてやられてばかりとはいかないよ!!」


「これは!?」


 地面から幾つかの水の柱が噴き出すとそれらは鞭のようにしなりアレクシアを拘束した。火に対して基本的な優位な水だが強大な炎は水を瞬く間に蒸発させるため多少の時間稼ぎだ。マリアは巨大な腕を生み出すと自身に向かって突撃してきたミレーアに対してそれを振るった。


「いくよフューア!!」


(みゅあ!!)


 ミレーアは師から貰ったガントレットに力を込めそれをフューアが補助する。自身に向かってきた巨大な腕に向かってぐっと力強く握った拳を繰り出した。サイズ差から言えばミレーアが容易く跳ね飛ばれそうだが勝負は拮抗していた。


「……それなら!!」


 マリアは異獣の遺骸から力を引き出し一気にミレーアを圧し潰そうとするがそこへ高純度の魔力矢が数本マリアに向かってきた。


「これはあの子か」


 ミレーアと組んでいるリナの魔力矢を防ぐと邪魔されないように彼女に向かって魔法を放った。しかし、壁を自由に足場に出来るリナを捉えることが出来ず直ぐに逃げられた。その直後、ミレーアから圧が一気に増したことに気づき驚いたマリアは彼女に視線を戻した。ミレーアに力を奪われないよう対策はしているため、自身の力が奪われていないことは分かっている。


「はぁああああああ!!」


「……あれはアレクシアが攻撃した時の!?」


 アレクシアが攻撃した時に発生し霧散した膨大な魔力がミレーアへと流れ込んでいた。マリアは何故そうなったのか直ぐに察した。アレクシアが使う剣はミレーアが師から貰った素材から作られたものだろうと見当はついている。そしてミレーアは腕に嵌めているガントレットもその性能から間違いなく師から貰ったものだろうとマリアは考えていた。故にその二つには何らかの繋がりがあり、アレクシアが剣から発した魔力をミレーアのガントレットが何の抵抗もなく使用できることに疑問はない。


「ぐ……く!! こっちの供給が間に合わない!?」


「もっともっといくよフューア!!」


 魔力を生み出さなければならないマリアと既に空中に漂っている膨大な魔力を利用しているミレーアでは魔力を生み出せる分最終的な総量ではマリアに軍配が上がるが、既にあるものを使っている分威力を上げるための上昇速度をミレーアに大きく水をあけられていた。このままでは総量で上回る前にミレーアに圧し負けるのは時間の問題だった。


「っ!! もう拘束から逃れて!!」


 視界の端で拘束を解き再び剣を構え直すアレクシアの姿を捉えたマリアだがミレーア一人に全力で集中しているため、何らかの妨害を行うことがが不可能だった。再び振るわれた炎の剣を防御することも出来ず直撃を受けるマリア。身体を焼かれながらも視線はミレーアから一切外していない。アレクシアが更に放った魔力も吸収するミレーア。


「おおおおぉおおお!!」


「つぁ!! 押し負ける!?」


 バキバキっと作り出した巨大な腕に罅が入り始めた。それに対応するよりも早く罅割れは激しくなり巨大な腕はバラバラに砕け散った。障害がなくなったミレーアがマリアに向かって疾駆する。ミレーアが近づいて来る僅かな時間を利用して迎撃のための魔法を多数発動しようとするが組み立てた術式が突如として崩壊した。


「これは……まかさ!?」


 マリアが何が起こっているのか気づき犯人を捜すと直ぐに見つかった。鎧の中の何らかのマジックアイテムを発動させているアギト。おそらくは魔法の発動を妨害するものだろう。別の手を使おうとするがそのこと如くをアレクシアとリナによって潰された。無防備となったマリアが見たのは自分に向かいながら何かのポーションと取り出しそれを一気に飲み干したミレーア。空になった瓶を投げ捨てるとマリアに向かって跳躍した。


「これでぇ!!」


「まだまだぁ!!」


 拳を構え向かってくるミレーアに対してそれに答えるかのように拳に力を注ぎ込むマリア。互いの決死の一撃が今まさにぶつかり合うのだった。

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