編成
『まあ。アリス様も宝にご興味があるのですね』
現在、アリスは帝国の聖女である――ジュリエット・リタ=ヴィエータと通信を行っていた。
ブライアンの話によれば、帝国は必ず参戦するらしいとのことだからだ。
皇女でもある彼女ならば、なにか情報を持っているのではと踏んだ。
ジュリエットに永久の庭について聞くと、アリスとの会話だというのにも関わらず、酷く不快そうに返事を寄越す。
「宝っていうよりかは、島かな。誰も帰らない謎の島。気になる」
『なるほど。私の兄のような愚者かと思いましたわ』
「ええ? だから教えてくれなかったの?」
『……申し訳ありません』
ジュリエットの兄妹で、二人いるうちの兄の次男の方。
一番目の兄は非常に優秀で、国民からも貴族からも次期皇帝として認められているのにも関わらず、第二皇子たるルーデンにはジュリエットも少々苛立ちを覚えていた。
帝国が永久の庭に必死なのは、パルドウィンに劣りたくないからという理由もあるが――第二皇子たるルーデンがそうするよう命じているからだ。
宝なぞに興味がないジュリエットとしては、そんなことは幼稚にしか思えず、宝探しなんぞしている暇があれば皇族教育をもっとしっかりやってほしいと思うのだ。
特にジュリエットは、聖女として国を東奔西走し、貧しい民の現状や貴族間の争いなどを間近で見ている。
それだというのに、二番目の兄は得られるかも分からない秘宝に夢中なのだ。
真面目に働いている家族の横で、夢物語をいつまでも語っていれば、それはもう腹が立つ。
そんなわけでジュリエットは、ルーデンを――永久の庭を嫌っていた。
「で、開戦日は?」
『それが、先日にちょうど宣言が届きまして』
「へえ、タイミングいいね。というか連絡来るんだ」
同じ宝を奪い、争うのならば、事前通達というのは親切を通り越して愚かな行為だ。
しかしト・ナモミはそれをやってみせる。
通達をしてもなお、勝ちに行ける自信を持っているのだろう。
そもそも通例通りならば、誰も島から帰れないのだが。
『律儀な国なのです。ト・ナモミは宣言から、数日は出航準備に時間をかけ、最終的には十数日で上陸を完了します』
「ほー。長く見て二十日くらいか」
『その程度ですね。帝国も時期を見て宣言を出します』
「分かった」
大体の期間が分かれば、それまでに隊を用意しておけばいい。
目安があるならブライアンも動きやすいのだ。これはありがたい情報だった。
ジュリエットがアリスに心酔しているとはいえ、ここまですんなりと情報が手に入るとは思わなかった。
やはり帝国の聖女と知り合っておいて、損はなかったということだ。
『アリス様と敵同士になるのが悲しいですけど……、武運を祈っておりますね♡』
「そりゃどうも」
アリスは欲しい情報を手に入れたため、通信を切った。
うぅん、と悩ましげに唸り、頭をかく。
(聖女に武運を祈られる魔王って、どういうこった……?)
ジュリエットがネジの外れた聖女とはいえ、滅多にありえないことだ。兄のことを毛嫌いしていることも加味しても、なかなか異様なことだった。
どちらにせよ邪魔をするのであれば、帝国だろうと潰すつもりだった。ジュリエットが止めなくて良かったとも言える。
「とりあえず、ブライアンには兵士を用意してもらおうかな」
パルドウィン王国側の手札は、ブライアンに一任するとして。
問題はアリス側の手札だ。
未知なる島ともなれば、連れていくメンバーはしっかりと揃えたい。何が待ち受けているか分からない上、この後はジョルネイダとの戦いも控えている。
絶対に勝てる編成で、がっちりと揃えたいのだ。
「ふむ……」
◆
ジュリエットからの情報を得て、二週間後。
ブライアンから連絡が入り、パルドウィン側も人を用意できたらしい。アリスは早速、王国へと足を運んだ。
連れられた部屋には、二名の兵士が待機している。
少ないと言えばそうだが、アリスからすれば守るべき人間が少ないほど、立ち回りが楽になる。
探索や戦闘はほとんど自陣で行うつもりだったので、パルドウィン側の人間には〝来てもらった事実〟だけが必要だった。
だから正直に言えば、一名でも良かった。
「……これは」
さて、アリスはまだ部屋には入らず、廊下から二名の兵士を眺めている。まだ戦争からあけて間もないため、すぐに入っては驚かれるからだ。
それに彼らを観察し、どんな人間なのか知っておきたかった。
まず一人目。名を、アレックス・トイ。
誰がどう見ても幼い子供で、学院に入れるぎりぎりの年齢とも言える。その年齢は十三。
アリスとの魔王戦争時は、徴兵対象の最低年齢に達していなかった。実力は申し分なかったものの、戦争には参加できなかったのだ。
現在は、ブライアンの率いている騎士団のメンバーでもある。
そしてもう一人。ダニー・ウィンパー。
アレックスとは異なり、ダニーは中年の男。
彼ももともとは騎士団の人間であったが、片腕を失ったことと、年齢的に騎士として厳しくなってきたことで引退をした。
現在は冒険者として、ほそぼそと生活をしている。
戦争を免れたのは、たまたま遠方の仕事をしていたからだった。
誰でもいいと思っていたが、用意された人員を見てアリスは少しため息を吐いた。
「子供と年寄りか……」
「邪魔にはならないはずです」
「まぁ、ブライアンを信じるよ……」
アリスは魔王の姿のまま、待機している二人へと近付いた。
特に隠密するわけでも、気配を隠しているわけではなかったので、姿が見えれば誰だって気がつく。
この二人も例外ではない。
「やあ、どうも」
「!!」
「……」
アレックスは剣に手を伸ばし、アリスに対して警戒をしている。恐ろしいながらもキッと睨みつけて、いつでも挑めるような態勢を取った。
アレックスにとって、魔王アリスを見るのはこれが初めてだ。
だが今まで周りから聞いてきた容姿と、我が物顔でパルドウィンの王国城を歩き回っていることから、この女が誰だか推測がつく。
ダニーは動きはしないものの、チラリと目線をやっていた。熟練ながらの目だ。
ぱっと見では威嚇も何も感じられないが、その目には警戒で染められている。初めて見る脅威に対して、どう動くべきか考えているのだろう。
「やめろ、アレックス。この方は今回の調査に同行してくださる方だぞ」
「ですが、ブライアン様……! その女は、我が国民を殺した魔王でしょう!」
「やめろというのが聞こえないのか」
「……くっ、分かりました」
アレックスはいやいやといった様子で、剣から手を離す。
国に対する忠誠心といえば聞こえはいい。だがレベル差もある、圧倒的強者に対して何も考えずに突っ込んでいくのは、利口とはいえない。
「改めて。私はアリス・ヴェル・トレラント。私の他にも、庭では数名の部下を連れる。よろしく頼むぞ」
「…………」
「あぁ、こちらこそ。トレラント殿」
アレックスはアリスの挨拶に対して、無言を貫いた。
それとは違い、ダニーは返事をする。言葉遣いこそ敬いは感じられないが、その言動から敵対心は受け取れない。
常に威嚇する子猫のようなアレックスと異なっていて、アリスは驚いた。
年の功なのだろうか、と首を傾げる。
「驚いた。君は否定的ではないのか?」
「死のみを待つ老兵に、意見などないさ」
「ふむ……」
言葉の通り、ダニーはただ諦めているだけだった。
アレックスのような忠誠心や、命令に絶対的な熱意を持っているわけでもない。
この場に来ているのは、いつ死んでも構わないからだろう。
そうでなくては、誰も戻らない謎の島の調査に来るものなどいない。ほとんど約束された死を、誰が望んでいるだろうか。
「アリス様。出発は明日の早朝を予定しております」
「船か」
「はい。日が昇る前に、港へお越しください」
「分かった」




