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魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第三章 荒れる砂漠

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死の闘技1

『みなさま、お待たせ致しました! これより今大会を開始致します。まずはじめに、罪深き者たちの戦いを御覧ください!』


 アナウンスが行われ、闘技が開始された。

 まず出てきたのは、二人の人間だった。薄汚れたボロを着た男が二人、闘技場へと出てくる。

 開始の合図で、二人の人間は殴り合いを始めた。

 盛り上がりはイマイチだったが、命をかけた戦いだと分かると、観客は声を張り上げ始めた。

 だんだん、会場の興奮が高まっていく。


「まだ始まらないのでしょうか」

「いつもくだらない前座からです。これが終われば、魔獣も出てきますよ」

「前座ってー?」

「人間と人間の殺し合いですよ」


 そう、彼らは前座だ。

 出てきた人間は両方とも罪人で、罪人と罪人の殺し合いを行うのが恒例になっている。

 これによって、会場を温めているのだ。魔獣たちの最終調整の時間稼ぎでもある。

 そしてそんな前座である罪人たちも、ただただ言われるがまま戦っているわけじゃない。

 彼らは必死に戦い、どちらかが死ぬ。そして生き残った方は、要望を出すことが出来る。

 刑期を軽くしたり、会いたい人に会ったり、再び裁判を希望したり。願いは様々だ。


 だが悲しいかな、それが全て聞き入れられるわけではない。罪人を管理している者たちに都合よく言いくるめられ、戦いの余興として殺し合いをさせられる。

 勝った結果に聞いた真実は、どれほど苦しいものか。


「ふーん。殺し合いを見ててつまんないって、歪んでるね」

「我々が言うことではありませんけどね」

「たしかに!」


 つまらないと思うのは、それもそうだろう。

 ここにいる大半は、大トリの勇者と魔獣の戦いを見に来ている。そうでなくても、途中で腕の立つ闘士や剣士との魔獣戦がある。

 それに比べてしまえば、人間の殴り合い殺し合いなんて、ちっぽけな余興だ。

 慣れというものは、それほどまでに人の感性を狂わせる。


「罪人と言っても、砂漠の監獄に入るほどでは無い軽度な犯罪者です。善の心が残る者たちを殺し合わせる。それが愉悦なのでしょう」

「へー」


 そんなことを話していれば、ドサリと片方の罪人が倒れ込んだ。

 片方が死んだことで、会場は今の中で一番盛り上がりを見せた。

 死に対する歓喜なのか。それとも次に来る〝本番〟に対しての喜びなのか。


「決まりましたね」

「おー」


 闘技場のスタッフが会場内にわらわらと集まりだした。生き残った罪人を会場から出し、死体となった罪人を回収する。

 それを見ると、会場が期待にざわめきだした。

 余興が終わったということは、次に出てくるのは彼らが期待していた試合だ。

 これから魔獣が出てきて人間と戦うのだと思えば、興奮してならないのだろう。

 グレゴワールも同じようで、茜らに嬉々として話しかけている。


「普段通りであれば、次から魔獣などが出てきますよ」

「ふーん」

「ふーんって、驚かれないのですか……?」


 しかし返ってきたのは、つまらない答えだった。

 もっと「恐ろしい」だの心配の声を期待していたグレゴワールにとっては、拍子抜けであった。

 そんなグレゴワールを見て、茜はフィリベルトとヨナーシュを見つめて、肩をすくめる。


「だって……ねぇ?」

「まぁ……そうですね」


 茜は元勇者であり、魔獣との戦いなんて珍しくはない。

 フィリベルトとヨナーシュは魔人で、普段から魔獣を見ている。周辺の大森林には魔獣がうじゃうじゃいるどころか、それらを手懐けているくらいだ。

 今更魔獣と人間との戦いなどと騒がれても、たいして珍しくも驚きもしないのだ。

 いわば、日常茶飯事である。


『さぁさぁ皆様、お待ちかねの――魔獣との決闘で御座います!』


 そんな声が響けば、先程とは考えられないほど歓声で埋め尽くされた。

 彼らがずっと待っていた瞬間である。


 会場には、まず人間が入ってきた。

 斧を手にした巨漢、闘士がズンズンと闘技場内へ姿を現した。

 そしてその闘士との対面の檻には、観客たちがずっと待ち望んでいた魔獣が待機している。

 まだ姿を現さないものの、観客席の盛り上がりは激しい。


「殺せー!」

「やっちまえー!」

「二試合は生き残れよぉー!」


 果たしてその叫びは、どちらに対して言っているものなのか。

 道徳を捨て去った彼らにとっては、どちらでもいいことだった。


『まずは可愛らしいものから! 先日、うちの合成魔獣が生んだ、子供との戦闘です!』


 合成魔獣、と聞いて物珍しさに「わぁあぁ!」と歓喜の声が上がる。

 この闘技場では、より一層客を増やしたいがゆえに、魔獣と魔獣を合成するという禁忌まで犯していた。

 ただの動物ではなく、魔獣だからこそ破れたタブーなのだろう。


 敵対する魔獣の紹介を受けると、闘士も観客に応えるように声を張り上げた。

 相手を挑発するように、魔獣に対して叫んでいる。


「さぁこいよ、ガキンチョ! 俺がぶちのめ――」


 ガシャンと柵が開いたと思えば、そこから目にも留まらぬ速さで何かが飛んでくる。

 〝それ〟は闘士にめがけて飛んでいき、パンッと音を立てて闘士の頭に着弾した。

 そして闘士は――闘士の頭は吹き飛んでいた。

 何かが当たって頭を失った闘士は、ぐらりと体を傾けてそのまま倒れた。

 ピクリとも動かなくなった闘士は、倒れた地面でただ血液を流しているだけだ。


「……え?」

「なんだ……?」


 あれだけ歓声で溢れていた会場は、一気に静寂に包まれた。

 普段の試合であれば、こんなことはありえない。

 魔獣が飛び出してくることはあれども、柵から出てくる前に全て終わることなど一度もなかったのだ。

 闘士が死ぬとしても、数分、せめて一分は戦ってみせた。

 それに今回は、アナウンスが言うには「合成魔獣が生んだ子供」のはず。こんな圧倒的な勝利をおさめるはずがない。


 静寂で満たされている闘技場内に、ザク、と足音がして、そちらに誰もが目を向けた。

 白い角のある、いびつで小さな魔獣を連れて、一人の女が歩いている。

 遠くからでは誰もが目視できず、人なのか人ではないのかすらもわからない。

 連れ添う魔獣は子供サイズとはいえども、女の目線の高さほどの大きさがあった。全長で言えば三メートルはゆうにあるだろう。

 大人サイズになれば、どれほどの体格になるのか。


「誰だあれ……?」

「飼育員ではないのですか?」

「だが様子が変だぞ……」


 女がスッと腕を上げて、転がっている闘士の死体を指さした。

 すると寄り添っていた魔獣は、その死体へと飛びついた。バリバリ、ゴリゴリと音を立てて、死体を貪り始めた。


 それだけではなく、女の後ろには突然、重厚な門が現れる。門が開かれると、そこから二匹の化け物が現れた。

 門から出てきたのは、蛇や獅子との合成魔獣かと思われる化け物に、九つの頭がある巨大な蛇だった。

 女はそれらに何かを伝えると、化け物は次の瞬間――客席へと襲いかかった。

 誰もが動揺していたものの、客席には魔術による防護壁が張られている。完璧なものとはいえないが、それでも並大抵の攻撃では破れない。

 合成魔獣のような化け物は、何度も何度も防護壁に体当たりする。

 静寂が包む空間は、不安の声と、ガンガンという体当たりの音で充満する。


「おい、これまずいんじゃ……」


 誰かがそう言った。

 その瞬間には、もう遅かった。

 ビシリ、と嫌な音を立てたのを最後に、防護壁は破られた。

 魔獣は観客席へと乗り込み、そのときから場内は混乱に包まれた。


「きゃああ!」

「逃げろ、うわぁああぁ!」


 しかし、それだけではない。

 闘技場の魔獣用の出入り口から、待機していた他の魔獣たちも出てきたのだ。

 それらは最初の化け物が開けた防護壁の入り口から、観客席に入っていく。

 人を呪い、恨み、憎んできた彼らにとって、目の前にいる人間を殺せる機会を逃すはずもなく。

 観客席は一気に地獄へと変わっていった。


前向きなことは伝わるように、公開アカウントでSNSに投稿しているのですが、まさかのご本人様からフォローが来てしまい焦っております。

作家さんが好きであることを伝えたいだけで、自分の投稿を見て欲しいわけじゃないんです……。

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