死の闘技1
『みなさま、お待たせ致しました! これより今大会を開始致します。まずはじめに、罪深き者たちの戦いを御覧ください!』
アナウンスが行われ、闘技が開始された。
まず出てきたのは、二人の人間だった。薄汚れたボロを着た男が二人、闘技場へと出てくる。
開始の合図で、二人の人間は殴り合いを始めた。
盛り上がりはイマイチだったが、命をかけた戦いだと分かると、観客は声を張り上げ始めた。
だんだん、会場の興奮が高まっていく。
「まだ始まらないのでしょうか」
「いつもくだらない前座からです。これが終われば、魔獣も出てきますよ」
「前座ってー?」
「人間と人間の殺し合いですよ」
そう、彼らは前座だ。
出てきた人間は両方とも罪人で、罪人と罪人の殺し合いを行うのが恒例になっている。
これによって、会場を温めているのだ。魔獣たちの最終調整の時間稼ぎでもある。
そしてそんな前座である罪人たちも、ただただ言われるがまま戦っているわけじゃない。
彼らは必死に戦い、どちらかが死ぬ。そして生き残った方は、要望を出すことが出来る。
刑期を軽くしたり、会いたい人に会ったり、再び裁判を希望したり。願いは様々だ。
だが悲しいかな、それが全て聞き入れられるわけではない。罪人を管理している者たちに都合よく言いくるめられ、戦いの余興として殺し合いをさせられる。
勝った結果に聞いた真実は、どれほど苦しいものか。
「ふーん。殺し合いを見ててつまんないって、歪んでるね」
「我々が言うことではありませんけどね」
「たしかに!」
つまらないと思うのは、それもそうだろう。
ここにいる大半は、大トリの勇者と魔獣の戦いを見に来ている。そうでなくても、途中で腕の立つ闘士や剣士との魔獣戦がある。
それに比べてしまえば、人間の殴り合い殺し合いなんて、ちっぽけな余興だ。
慣れというものは、それほどまでに人の感性を狂わせる。
「罪人と言っても、砂漠の監獄に入るほどでは無い軽度な犯罪者です。善の心が残る者たちを殺し合わせる。それが愉悦なのでしょう」
「へー」
そんなことを話していれば、ドサリと片方の罪人が倒れ込んだ。
片方が死んだことで、会場は今の中で一番盛り上がりを見せた。
死に対する歓喜なのか。それとも次に来る〝本番〟に対しての喜びなのか。
「決まりましたね」
「おー」
闘技場のスタッフが会場内にわらわらと集まりだした。生き残った罪人を会場から出し、死体となった罪人を回収する。
それを見ると、会場が期待にざわめきだした。
余興が終わったということは、次に出てくるのは彼らが期待していた試合だ。
これから魔獣が出てきて人間と戦うのだと思えば、興奮してならないのだろう。
グレゴワールも同じようで、茜らに嬉々として話しかけている。
「普段通りであれば、次から魔獣などが出てきますよ」
「ふーん」
「ふーんって、驚かれないのですか……?」
しかし返ってきたのは、つまらない答えだった。
もっと「恐ろしい」だの心配の声を期待していたグレゴワールにとっては、拍子抜けであった。
そんなグレゴワールを見て、茜はフィリベルトとヨナーシュを見つめて、肩をすくめる。
「だって……ねぇ?」
「まぁ……そうですね」
茜は元勇者であり、魔獣との戦いなんて珍しくはない。
フィリベルトとヨナーシュは魔人で、普段から魔獣を見ている。周辺の大森林には魔獣がうじゃうじゃいるどころか、それらを手懐けているくらいだ。
今更魔獣と人間との戦いなどと騒がれても、たいして珍しくも驚きもしないのだ。
いわば、日常茶飯事である。
『さぁさぁ皆様、お待ちかねの――魔獣との決闘で御座います!』
そんな声が響けば、先程とは考えられないほど歓声で埋め尽くされた。
彼らがずっと待っていた瞬間である。
会場には、まず人間が入ってきた。
斧を手にした巨漢、闘士がズンズンと闘技場内へ姿を現した。
そしてその闘士との対面の檻には、観客たちがずっと待ち望んでいた魔獣が待機している。
まだ姿を現さないものの、観客席の盛り上がりは激しい。
「殺せー!」
「やっちまえー!」
「二試合は生き残れよぉー!」
果たしてその叫びは、どちらに対して言っているものなのか。
道徳を捨て去った彼らにとっては、どちらでもいいことだった。
『まずは可愛らしいものから! 先日、うちの合成魔獣が生んだ、子供との戦闘です!』
合成魔獣、と聞いて物珍しさに「わぁあぁ!」と歓喜の声が上がる。
この闘技場では、より一層客を増やしたいがゆえに、魔獣と魔獣を合成するという禁忌まで犯していた。
ただの動物ではなく、魔獣だからこそ破れたタブーなのだろう。
敵対する魔獣の紹介を受けると、闘士も観客に応えるように声を張り上げた。
相手を挑発するように、魔獣に対して叫んでいる。
「さぁこいよ、ガキンチョ! 俺がぶちのめ――」
ガシャンと柵が開いたと思えば、そこから目にも留まらぬ速さで何かが飛んでくる。
〝それ〟は闘士にめがけて飛んでいき、パンッと音を立てて闘士の頭に着弾した。
そして闘士は――闘士の頭は吹き飛んでいた。
何かが当たって頭を失った闘士は、ぐらりと体を傾けてそのまま倒れた。
ピクリとも動かなくなった闘士は、倒れた地面でただ血液を流しているだけだ。
「……え?」
「なんだ……?」
あれだけ歓声で溢れていた会場は、一気に静寂に包まれた。
普段の試合であれば、こんなことはありえない。
魔獣が飛び出してくることはあれども、柵から出てくる前に全て終わることなど一度もなかったのだ。
闘士が死ぬとしても、数分、せめて一分は戦ってみせた。
それに今回は、アナウンスが言うには「合成魔獣が生んだ子供」のはず。こんな圧倒的な勝利をおさめるはずがない。
静寂で満たされている闘技場内に、ザク、と足音がして、そちらに誰もが目を向けた。
白い角のある、いびつで小さな魔獣を連れて、一人の女が歩いている。
遠くからでは誰もが目視できず、人なのか人ではないのかすらもわからない。
連れ添う魔獣は子供サイズとはいえども、女の目線の高さほどの大きさがあった。全長で言えば三メートルはゆうにあるだろう。
大人サイズになれば、どれほどの体格になるのか。
「誰だあれ……?」
「飼育員ではないのですか?」
「だが様子が変だぞ……」
女がスッと腕を上げて、転がっている闘士の死体を指さした。
すると寄り添っていた魔獣は、その死体へと飛びついた。バリバリ、ゴリゴリと音を立てて、死体を貪り始めた。
それだけではなく、女の後ろには突然、重厚な門が現れる。門が開かれると、そこから二匹の化け物が現れた。
門から出てきたのは、蛇や獅子との合成魔獣かと思われる化け物に、九つの頭がある巨大な蛇だった。
女はそれらに何かを伝えると、化け物は次の瞬間――客席へと襲いかかった。
誰もが動揺していたものの、客席には魔術による防護壁が張られている。完璧なものとはいえないが、それでも並大抵の攻撃では破れない。
合成魔獣のような化け物は、何度も何度も防護壁に体当たりする。
静寂が包む空間は、不安の声と、ガンガンという体当たりの音で充満する。
「おい、これまずいんじゃ……」
誰かがそう言った。
その瞬間には、もう遅かった。
ビシリ、と嫌な音を立てたのを最後に、防護壁は破られた。
魔獣は観客席へと乗り込み、そのときから場内は混乱に包まれた。
「きゃああ!」
「逃げろ、うわぁああぁ!」
しかし、それだけではない。
闘技場の魔獣用の出入り口から、待機していた他の魔獣たちも出てきたのだ。
それらは最初の化け物が開けた防護壁の入り口から、観客席に入っていく。
人を呪い、恨み、憎んできた彼らにとって、目の前にいる人間を殺せる機会を逃すはずもなく。
観客席は一気に地獄へと変わっていった。
前向きなことは伝わるように、公開アカウントでSNSに投稿しているのですが、まさかのご本人様からフォローが来てしまい焦っております。
作家さんが好きであることを伝えたいだけで、自分の投稿を見て欲しいわけじゃないんです……。




