↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第三章 荒れる砂漠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/154

花の情報

 アリスはフルールに連れられて、別室へと来ていた。

 外には監視兼護衛として、茜とフィリベルトを置いて。同じく部屋にはいるのは、ヨナーシュのみだ。

 他の二人は話についてこられなかったり、余計に口を出したりする可能性もあるのも、理由の一つ。


 三人が席につくと、フルールはニコリと笑って簡単な自己紹介をする。


「改めて……フルールです。一応ギルドでは名の通った情報通です」

「それは助かります。私はアリス。こちらはヨナーシュと言います」

「ヨナーシュです、宜しくお願い致します。フルール様」

「それで、勇者の情報ですか」

「はい」

「――どうしてです?」


 フルールの疑問に対して、アリスは笑顔で答えた。

 明確な返答をしなかったが、頭のいいフルールならば勝手に想像するだろう。

 フルールも聞かれたくないと察したのか、それ以上言及することはなかった。

 元々、金を積まれれば誰にでも情報を明け渡したりする。なぜ、なんて気にすることでもないだろう。


「……いえ、なんでもありません。ではまず――」


 フルールからの情報は、簡素ながら分かりやすいものだった。

 勇者の主な拠点。何を行っているか。最近の動き、などなど。

 たいして有益とも言えないが、手にしておいて不利益を被るほどでもない。

 それに主な活動拠点や、活動理由などを知っていればこれからを予測しやすい。出現場所に気をつけられるし、逆に待ち伏せすることだって可能だ。


「最近ですと、闘技場でのトーナメントに出ているようです」

「ほうほう!」


 この短い時間で得た情報の中では、もっとも有益だった。

 勇者の実力が危険など無く拝める機会があるのだ。しかも他にも人間がいるのならば、そこに溶け込むのは簡単なこと。

 対勇者戦闘に向けて、策を練るには十分だ。


「なんでもアリの汚れたルールでして。死んでもいいんです。しかも相手は魔物だったりもして。その分、掛け金が上がって入場も困難なんですけどね……」

「金持ち向けだと?」

「えぇ」


 しかし困ったことに、入場制限がかかってしまうのだった。

 アリスはジョルネイダに来たばかりで、コネも知人もいない。これから作成するにしても、一朝一夕で生まれるものでもなかった。

 何事も楽に進むものはないのだと痛感するのだった。


「……わかった、情報をありがとう。報酬は……」

「いえ、そちらは結構です」

「?」

「代わりに、同行を許可してくださいませんか?」


 アリスはあからさまに表情を歪めた。

 彼を連れていくことで、いいことがあるとも思えない。

 見るからに戦闘が不可能だし、アリスを探ろうとする魂胆が見え見えだ。


 アリスがパチリと指を鳴らせば、時間が止まる。

 好奇心が張り付いた表情のフルールは、この魔術に抵抗できることなどなく、ピタリと制止した。

 そして空間に取り残されて動くことが出来たのは、アリスとヨナーシュだけだった。

 当然だが、ヨナーシュはアリスの時間停止魔術に耐性があるわけじゃない。アリスがヨナーシュだけ、動くのを許可しただけだ。


「!? こ、これは!?」

「時間停止魔術。ちょっとこいつについて把握しておきたくて」

「じ、時間停止!?」

「もう。いちいち驚くなって、自分で茜に言ってたじゃん」

「失礼しました……」


 アリスは〈強制・(フォースド・)資料閲覧(リーディング)〉を展開する。Xランクのこの魔術には、抵抗できる人間はいないだろう。

 フルールの中身を覗けば、書かれているのはシンプルだった。

 彼が同行したいと言ったのは、純粋な知識への探究心。国側の人間というわけでもなく、単純にアリスという存在に興味が湧いただけだ。

 しかし、金次第で情報を簡単に渡す男だ。連れていけるはずもない。


「連れていくおつもりですか?」

「危ないから連れてかないよ」


 アリスはもう一度指を鳴らす。時間停止は解除され、フルールが喋りだした。


「――如何でしょう?」

「断ります」

「……そうですか。では報酬として、先程稼がれたお金を全て頂いても?」

「……」


 そう来たかぁ、とアリスは思う。

 ライニールからの小遣い分を差し引いたとしても、相当な額だ。全員魔人でもあるメンバーにとって、衣食が困らないぶん、金がない事でデメリットがあるわけでもないが――せっかく稼いだ金銭がすぐに失われるのは虚しいものだった。

 とはいえここでトラブルになんてなりたくもないため、アリスは仕方なくそれを渡した。


「毎度どうも」

「こちらこそ」



 金を数えるフルールを残して、アリスは部屋を出た。

 冒険者ギルドにも用事はないため、そのまま施設も出ていく。後ろからは文句がありそうな茜がついている。


「はぁ。面倒だったな」

「えぇー! ご主人様、そのまま見過ごされるんですか?」

「そんなわけないでしょー、ほら」

「あれ?!」


 茜が驚いたのは、アリスの手元にお金があったからだ。

 ライニールからのお小遣いではなく、先程稼いだ賞金もちゃっかり入っている。

 譲渡する場面を見ていたヨナーシュも、こればかりは驚いた。


「そんな、あのとき渡していたのは見ましたが……」

「スピードは世界一なんだよ? スリなんてお手の物さ」


 そう言うとヨナーシュは、顔を引きつらせて黙り込んでしまった。

 アリスが取り出したのは金だけではなかった。分厚いメモ帳に、なにやら日程表まで。

 アリスは一瞬でフルールの手荷物をチェックし、有益となり得そうなものを全て盗み取った。

 人間離れしたその技だ、誰もアリスを疑わない。魔王の姿をしていたならばまだしも、現在のアリスはどう見ても人間の女だ。


 その中でもっとも有益と言えたのが、トーナメントの日程だ。

 書かれていた日付は――何と明日である。


「……うぅん、明日か。あ、そうだ」


 アリスはふと思い立って、通信魔術を展開する。通信相手は、帝国の聖女である。

 使えるものは使わねばというばかりに、早速利用することにした。


「もしもーし」

『――はい♡』


 ジュリエットは忙しい身のはずなのに、幹部と遜色ないほどのスピードで通信を取る。

 その様子に少しだけ焦りながらも、アリスは向こうのペースに飲まれないように話を切り出した。


「ジュリエットって、ジョルネイダにコネ持ってたりする?」

『コネ、ですか?』

「うん。金持ちしか入れない闘技場の試合を見たいんだけど、開催日が明日なんだよね。こっちには手を伸ばしてないから、私は知り合いもいないし」


 王国にであれば、アリスの知り合いは多くいる。

 しかしここはジョルネイダで、パルドウィン王国はその敵国である。毎年戦争を行っている国に、良縁があるとは思えない。

 であれば、帝国なら。まだ知り合いはいるのではないか――そう考えた。

 それにジュリエットは聖女だ。必要とあれば、他国に赴くことだってあるだろう。


『以前〝癒した〟貴族なら数名おります。一筆何か書きましょうか』

「うん」

『ではしばしお待ち下さいまし』


 アリスは通信を切らず、ジュリエットを待つことにした。

 ジュリエットに対する通信は一方通行なので、再びアリスがかけることとなるからである。

 どうせこのまま待機していても、問題などない。


「よし。これで明日開催される試合は見れるね」

「どうなりました?」

「知り合いの聖女が、貴族に手紙を書いてくれる。それ持って向かうつもり」

「えー、ご主人様って、魔王なのに聖女の知り合い多いですねー」


 茜の発言に、アリスは「確かに……」と相槌を打った。

 ウレタの姫君であるマリル、リトヴェッタの皇女であるジュリエット。

 どちらも聖女でもあり、一国の姫だ。マリルに関しては元の国はもう存在しないのだが、それは置いておこう。

 何にせよ、魔王たるアリスが聖女の知り合いを二人も持っているのは、なかなかに異様なことである。


 他愛無い会話をしていれば、ジュリエットの用意も終わったようだ。

 ジュリエットはアリスに声をかけた。


『お待たせしました♡』

「ありがとー」


 手紙を受け取るため、アリスは〈転移門〉開く。

 門の奥には美しい聖女が現れた。彼女はアリスを見て微笑んだのち、後ろに立っている三人を見て表情を変えた。

 アリス以外の三人に対して、明らかに警戒をして睨みつけている。彼女の目には、見知らぬ魔族が写り込んでいたからだ。


「お、見抜けた? そのスキル本当にすごいね」

「……お褒めいただき、ありがとうございます」


 まるで殺すようにじっと見つめるジュリエット。

 アリスの魔術で人間に姿を変えているものの、ヨナーシュもフィリベルトも茜も魔人だ。

 全てを見抜けるスキルを持っているジュリエットとしては、彼らを警戒せざるをえない。元々それが仕事だ。

 普段から体に染み付いている習慣のせいで、ジュリエットは警戒をやめようとしない。


 アリスとしても、ここで殺されても困る。

 茜はまだしも、ヨナーシュもフィリベルトもレベル的には弱い。帝国の勇者とも言えるジュリエットであれば、上手く立ち回れば殺せてしまう。


「部下だからね。殺さないでほしいかな」

「しっ、失礼しました」


 アリスに注意されると、ジュリエットは慌てた様子で警戒を解いた。

 用意した手紙をアリスに渡すと、深々と頭を下げてアリスを見送った。


 〈転移門〉が閉じて、ジュリエットの気配も完全に消えた。

 ヨナーシュが恐る恐る、アリスに質問を投げかけた。彼としてはどこの聖女なのかが気になるようだ。


「ちなみにどこの聖女なのですか? 私は会ったことがない方でしたが……」

「帝国だよ」

「へぇ、帝国――え!?」

「どうしたの?」

「あの、オリヴァー・ラストルグエフに並ぶとされる!?」

「有名だったんだ」

「そうですよ!!」


 神官をやっていたヨナーシュにとっては、驚く出来事だった。

 この人はまったく! と憤慨しつつも、尊敬の目を送っていた。

 アリスはそんなことを気にもとめず、ジュリエットからもらった手紙をじっと見つめている。

 誰かに渡す手前、開けて読むわけにはいかない。アリスであれば透視など簡単なこと。

 シーリングスタンプを外すこと無く、アリスは中を覗き見る。


「……うわ」

「アリス様? なにかありましたか?」

「いや……、なんでもない」


 手紙の内容を読んで、アリスは思わず声を漏らしてしまった。

 ヨナーシュに心配の声をかけられたが、気にするなと言い放つ。

 そうはいっていても、書かれていた内容はあまり聖女とは言い難い内容だった。


(ジュリエット……。私のためになるのはいいけど、聖女が脅迫じみた手紙を作っていいもんかねぇ……)


 書かれていた内容は、協力のための嘆願などではなかった。丁寧に書かれているものの、そこに並ぶ文字は脅迫そのもの。

この貴族とジュリエットの間に、どんなことがあったのか知らないアリスですら――恐ろしく思える内容だった。

 ジュリエットが〝癒した〟と言っても、傷を治してあげたやつではないようだ。

 〝性根を叩き直した〟と言った方が近い表現だろう。

 あの裏のある少女のことだ。どんなことでもやるに違いない。

 味方に取り込んでおいてよかったなぁ、などとアリスはぼんやり思うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。