砂の事情
いつもありがとうございます。
この章はちょっと短いですが、お付き合いくださいませ。
ジョルネイダ公国――
勇者たちはずいぶんと戦いに慣れて、もはや護衛無しで戦闘に立っていた。
先の戦争で国民の大多数を失った国としては、そう毎日子供の世話をしていられない。心配な部分もあれど、巣立ってくれたことを喜んでいた。
勇者の三人は今日も、砂漠にいる化け物たちを相手に特訓を重ねている。
現在は、砂漠に隠されたダンジョンの攻略をしている最中だ。
情報によれば、このダンジョンの最奥には、勇者が持つにふさわしい武器が隠されているのだという。最寄りの村ではもっぱらの噂で、それ欲しさに何人もの冒険者が帰らなくなっていた。
「はあぁっ!」
市野 豊成が轟音を立てて、魔獣へと突っ込んだ。辺り一帯は砂煙にまみれた。
後方で豊成を観察していた仲間の二人――半藤 新菜と、宮松 健斗は、呆れた様子でそれを見ていた。
彼らはジョルネイダ公国に召喚された勇者であり、同じ高校に通っている学生だった。
ジョルネイダ公国は、魔王との戦争のために勇者を召喚したのではない。
隣国であり毎年のように戦争を行っているパルドウィン王国に対抗するため、彼らを呼び寄せたのだ。
彼らもそれを知っていて、こうして力を蓄えている。――というよりも、帰る方法がないゆえに、仕方なくやっているといった方がいい。
――豊成に関しては、派手に戦える事が嬉しいというだけ、だが。
ダンジョンを破壊する勢いで、楽しそうに〝はしゃいで〟いる友人を見ながら、新菜も健斗も嘆息する。
「もう一人でも大丈夫そうね」
「俺たちは先に行こうか」
豊成は高校生のわりには、小学生のような無邪気さがある。
一度熱が入ってしまえば、言うことをきかないように――彼が戦闘に夢中になると、歯止めがきかなくなるのだ。
幸いといっていいものか。このエリアにはまだまだ敵がウジャウジャいる。豊成を放置しておけば、ここ一帯の敵を掃除してくれるだろう。
そう思って、新菜も健斗も先に進む。
目的である武器を取ってしまえば、こんな砂と敵だらけのダンジョンには用はなくなる。
「そういえば、聞いた? 敗戦の話」
「あぁ。信じられないよな。あれだけ強いと聞いていたパルドウィンが……」
「……しかも、魔王の支配下になったって」
「……」
豊成たち勇者が住んでいるのは、ジョルネイダの王城だ。
だから他国の情報も、真っ先に入ってくる。特に、敵国であるパルドウィンに関しては。
ゆえに目の敵が敗北したという情報は、耳を疑った。
召喚されてから初めての戦争は、とある事件を追うことを優先させられたため、未参加だった三人。だが、戦地での惨敗結果は聞いている。
あれだけ強かったパルドウィンが、呆気なく敗北してしまった。
その事実は、新菜と健斗に衝撃をもたらした。……豊成は、難しいことなど考えていない様子だったが、それはいつものことだ。
「おそらく、このままパルドウィンを攻撃すると、横から魔王にやられるだろうね……」
「うん」
「まずは、魔王を倒さないといけないね」
「そうだよね……」
神妙な面持ちで話す健斗に、新菜が相槌をうつ。
深刻な問題を話している最中、放置してきた豊成のいる方向から、再び激しい戦闘音が響いてくる。
脳天気な馬鹿は……! と新菜がプツリと切れた。
「それなのにあいつときたら……!」
それに、豊成の戦闘へのハマり具合はこれで終わらない。
なんと彼は、定期的に闘技場でのトーナメントに参加しているのだ。
「強いやつと戦いたい!」という、キラキラした瞳の勇者を断れなかったのか、国の面々もすんなりと承諾をした。
新菜としては、もっとはっきりと断ってほしかった。力を手に入れた問題児は、委員長たる新菜の手に負えなくなっている。
鍛え上げるという意味ではいいのかもしれないが、流石に闘技場はやりすぎだ。
なんなら賞金すら稼いでいる。お金に困らないという点ではよくても、そもそも新菜たちは城に住んでいて、肩書も勇者だ。
お金に困る場面なんて存在しない。
そしてもうすぐ、またトーナメントが開かれるのだ。
現在の豊成の暴れ具合は、トーナメント前の最後の仕上げといったところである。
「国民も危機感がないよね」
「戦争で勝ったパルドウィンが恐れる魔王がいることなんて、信じていないんだろうね」
「きっと王国が流した噂程度に思ってるんでしょうね」
戦争で大多数の国民を失い、勇者の召喚で優秀な魔術師も大量に失った。
さすがの国王も、パルドウィンに戦争を吹っ掛けるなんてことは出来ない。それこそ、最後の戦いになるだろう。
だからなのか、気を紛らわせるためにトーナメントが頻繁に行われている。
優秀な戦士はほとんど死んでしまったため、全盛期に比べればつまらないショーだが、それでもないよりはましだ。
「……まぁ、でも、そうでもしないと疲れるんだろうね」
「そんなものなの?」
「たぶんね。あ、半藤サン。あれじゃない?」
「あった! 早く帰ろう!」
新菜と健斗は、無事にダンジョン最奥の秘宝を発見したのだった。




