↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第二章 化け物たちの恋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/154

水面下

「なぁ、まだ着かねぇのか? 一体どこにあるんだろうな」


 アリスのうしろを、金魚のフンのようについてくる男。ターナーは当たり前のようにそう言った。

 この男は平々凡々。剣の腕も、魔術の腕も。

 狩人のターナーは、アリスよりも森の知識はあるかもしれない。だが索敵すら出来ない男を、アリスよりも優れていると言えるのだろうか。

 それに、彼はいつまでアリスにつきまとうのか。とっとと消えて欲しいアリスにとっては、邪魔でしかなかった。


「二手に分かれよう。その方が見つかるんじゃない?」

「は!? 試練を共にしてきた二人だってのに、今更サヨナラかよ!?」

「たいして一緒にいないだろ」

「チェ、ったく。わかったよ」


 妙に素直に、ターナーは森の中へと消えていった。

 出会ったときのように、茂みの中にガサガサと紛れながら去っていく。

 アリスは動こうともせず、ターナーの移動音が完全に消えて、この近くからいなくなるのをまった。


 ターナーがアリスを感知できない場所まで移動したのを確認すると、アリスの体はフッと消えた。

 土埃も何も立たず、その場から消えていなくなった。かといって透明化などではない。

 これは完全な瞬間移動。転移といったほうが近い。〈転移門〉を生成するほどではないが、近距離に移動するための手段だ。


 次の瞬間、アリスは上空に現れた。

 バタバタと衣服をなびかせて、空中に留まっている。

 遠くに見えるのは帝都、そして酷くのどかな村落がいくつか。魔王の驚異など知る由もない、平和そのものだ。

 アリスはそれらをぼんやりと眺めていた。

 感傷に浸るわけでもなく、遥か遠い故郷を思うわけでもない。ただそこにあるものを、見つめているだけだ。


「お呼びでしょうかぁ?」

「あぁ、リーレイ。さっきはありがと」

「い〜え。当然のことをしたまでですぅ」


 アリスの目の前には、リーレイが現れた。

 リーレイは空中に突如として出現すると、そのまま膝をついた。


「小屋はどう?」

「見てきましたぁ。小屋も紙も五つありましたよぉ?」

「そう……」


 試験官は、試験内容の説明の際に、合格者数に関してはなにも触れなかった。

 人数も、これが本試験なのかも。

 もちろん、護衛を務めるのであれば人数は多い方がいい。

 だが人数が多ければ多いほどいいのであれば、毎月毎月死者を出してまで、再試験を行うのか。


「森にはあとどれくらい残ってそう?」

「結構いますよぉ。みんな実力者っぽいですからぁ。まぁ僕に比べれば雑魚の雑魚ですけどぉ」

「適当に減らしておいて」

「はぁい!」


 大した用事がある訳では無いが、アリスは目的のために、帝国のトップに近付く機会を得ねばならない。

 その為には、この試験に何としても合格する必要がある。

 だが他の者たちが、運良く勝ち取ってしまったら?

 まだまだ試験は難航しているものの、幸運の女神が味方したのならば。単純な試合だけならまだしも、これは森の魔獣を掻い潜ればいいだけだ。

 アリスとて、負ける可能性がある。


 しかし彼女が直接、受験者に対して手を出すことは難しいだろう。

 試験なのであれば、この森には何かしらの目が張り巡らされている。

 ライバルを減らすために殺したなどと、そんな汚い手を使う者を、聖女のそばに置くだろうか。


「あのぉ」

「ん?」

「あの鬱陶しい男は、消しますかぁ?」

「あぁ、ターナー……だっけ?」

「はぁい」


 リーレイは試験開始からここにいたため、アリスとターナーのやり取りもきちんと見ていた。

 アリスの命令がなければ、きっと飛び出して殺していたところだろう。

 素性を隠しているとはいえ、アリスに対して余りにも失礼な物言いだ。殺されても当然である。

 感情的になって咄嗟に飛び出さなかったのは、スケフィントンの件で反省しているからだろう。

 じっと様子を伺って、アリスの指示をたた待っていた。


「しなくていいよ、私が殺す」

「わかりましたぁ♡」


 とはいえ、ターナーを生かすつもりは無い。

 同じく受験者である。ライバル――と呼ぶのは些か不服だが、アリスにとって、同じ試験を受けているものは全てライバルなのだ。


 リーレイとの簡単な打ち合わせを終えると、アリスは空中から姿を消した。

 先程上に移動したものと同じ原理で、再び地上へと舞い戻る。

 しかしアリスは、上空に行ったときとは違って、地上の確認をしなかった。誰かがいないかをチェックしそこねたのだ。

 そのせいで、真下に歩いていた受験者を見逃してしまった。

 アリスが突然出現した瞬間を見られてしまったのだ。


「な……っ、今、いきなり……?」

「あぁ、確認不足だったな。でもちょうどいい」

「!?」


 アリスは無言で手をかざした。

 すると男は、金縛りのようにピタリと動かなくなった。ピクピクと痙攣するように動いていたが、これは男が抵抗しているからだ。

 だがアリスの力を振り払えるわけがなく、虚しい抵抗だった。

 アリスはそのまま力を込めて、男を殺めようとしていたが、ふと思い立って手を止めた。


「……ん、あぁ。私が殺したらまずいか」

「なに、してる……!? はやくっ……くそ、解除してくれ!」

「〈魅惑の(パフューム・オブ)香り(・ルアー)〉」

「なっ、おい! やめろ! 馬鹿なのか!? そんな魔術使ったら、俺が死ぬ!」


 金縛りを解除しないまま、アリスは男に魔術を付与した。

 〈魅惑の(パフューム・オブ)香り(・ルアー)〉。Cランクの魔術である。

 熟練した狩人であれば、扱えるものも多いとされるこの魔術。その名の通り、何かを吊り上げておびき寄せるための魔術だ。

 対象物に付与することで、周囲の魔物や魔獣などをおびき寄せることが可能になる。

 術者の魔術攻撃力やレベルが低いと、誘い出せる魔物も限られてくるという――ランクはそれなりに低いものの扱いが難しい魔術だった。


 そして当然だが、こんな魔物も魔獣もうじゃうじゃ存在している森で、扱うたぐいの魔術ではない。


「まて! おい! 助けてくれ!!」


 男が必死に叫んでいるが、アリスは振り返りもせず歩き出した。

 ひらひらと手を振って、あとは頑張れよといった風に去っていく。

 頑張るもなにも、男は抵抗すら出来ないため、待っている結末は唯一つ。

 アリスは完全に男から離れて、森の中へと消えていった。その姿が見えなくなると、男の不安は更に煽られる。


「ふざけんなっ……!」


 悪態をついたところで、何かが変わるわけじゃない。

 体は動かないし、自分からは魔物達を誘い出す誘惑の香りが漂っている。

 何度も身を捩っても、ピクピクと表面が動くだけだ。足は動かず、腕も動かない。頭も固定されているせいで、周りを見回すことすら出来ない。


 そんなただの固定された男――獲物の耳には、ズシンという地響きのようにもとれる足音が響いた。

 周りの木々が揺れて、とまっていた鳥たちがバサバサと飛んでいく。

 ズシンズシンと、その足音はどんどん近づいてくる。


「ひぃっ……!?」


 〈魅惑の(パフューム・オブ)香り(・ルアー)〉は、先述の通り、術者の能力値やレベルによってその効果は大きく左右する。

 弱ければ弱い魔物しか呼び寄せられない。

 だが術者が、魔王アリス・ヴェル・トレラントなのであれば。

 アリスのステータスは、この世界の最高値とされている900を大きく凌駕する。全てのステータスが1000となり、〈魅惑の(パフューム・オブ)香り(・ルアー)〉に影響する魔術攻撃力も1000である。

 比較対象として例に上げるならば、ただの平民の魔術攻撃力の平均値は、4程度とされている。

 そんな異常じみたステータスが呼び寄せる魔物。棒立ちの男に、抵抗が出来るはずがない。


 グルルル、とおぞましい鳴き声が耳元で聞こえる。

 暴風のようなそれは、きっと呼吸の音。

 後ろから聞こえているものの、首を含む全てを金縛りで固定されている男には、見ることすらかなわない。


「ひ、ぎゃぁあぁあああぁ!!」


 男の悲痛な叫びと、肉を引き裂き、骨をも噛み砕く音が――静かな森に響いていた。


やることがいっぱいあるのに、やる気が全く起きないまま休みが終わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。