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魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第二章 化け物たちの恋

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真実と解釈

 スケフィントンは小箱から、全く顔を出さなくなった。

 暇を持て余したベルが一人で観光をするとのことで、リーレイは久々にスターライト・ブルーに顔を出していた。

 スターライト・ブルーとは、リトヴェッタでも名のある服飾系の店舗。仕事は主に、貴族向けの高級志向なドレスを提供している。

 技術は帝国随一とも言われ、スターライト・ブルーを利用している客は多い。皇族すら利用したことがあるという。

 その実績により、数多くの貴族から信頼されている。


 リーレイは以前、ここの一人娘と知り合っていた。

 リトヴェッタ帝国にやって来た際に、たまたま彼女が暴行事件に巻き込まれているのを発見したのだ。

 それを助けてからというもの、リーレイは少女・レジーナに惚れ込まれ、母親には感謝をされた。スターライト・ブルーに併設された自宅を、我が家のように使う権限を手に入れたのだ。

 というものの、普段は〝素〟でいられる山奥の屋敷に帰っている。冒険者として初仕事をした、ヴァンパイアの住処だ。

 彼はあまり取り繕ってはいないものの、それでも人間のふりをしなくていいという点では、山奥の屋敷を気に入っていた。

 そして人間の街に降りてきた際には、我が物顔でスターライト・ブルーに寄るのだ。


「やっほぉー!」

「あ、リーレイ様!」

「ん? どしたのぉ?」


 貴族御用達の店舗に、当たり前のように入れば、リーレイを慕っているレジーナが出迎えた――のではなく、彼女は店のガラスに張り紙をしようとしていた。

 手に持っていたのは、人物画が描かれたチラシのようなものだった。


「これ、店頭に貼ってくれって配られまして」

「ふー……ん!?」

「? どうかされました?」

「な、なんでもないよぉ……」


 チラシにあった似顔絵は、つい先日見たばかりの顔。

 どう見てもこの間、スケフィントンに会わせた少女だ。

 それを確認すると、リーレイは一気に焦りを覚える。その少女が消えた理由を知っていたから。

 スラムの少女を殺して隠蔽した――つもりだった。

 だが、スターライト・ブルーにまで人探しのチラシを貼る時点で、スラムの少女ではないことは明らかだ。


(スケくんが嘘ついたぁ? いやいやいやっ、そんなことできる子じゃないぃ。じゃあ何だぁ?)


 と、なれば。

 スケフィントンに対して、女が嘘をついたということになる。それであれば、事態はより悪い方へと移行する。

 アリスに許可をされていないもとでの殺人。それを隠したこと。

 リーレイの中の焦りは、更に加速する。


「家出少女だったみたいで。なんだかあたしみたいですね」

「へぇー」

「結構良いところのお嬢様だそうですよ。名前を聞いたら、あたしも何度かドレスを届けた覚えがありました」

「ふぅーん……。用事を思い出したからぁ、僕行くねぇ」

「はい!」


 リーレイはフラフラとスターライト・ブルーの店から出ていく。

 何用でやって来ていたのか、もはや覚えていない。自分のやってしまったミスのことで、頭がいっぱいだ。

 アリスに謝罪をするにせよ、全ての真実を知る必要がある。

 となれば、スケフィントンがやり取りをしていたであろうものを、洗う必要があった。


「ルーちゃん……」

『はいはーい、ルーシー・フェル様だよん』

「お願いがあるのぉ……、イルクナーに連れてってぇ……」





 ルーシーが帝国への転移先を知らなかったこともあって、リーレイがイルクナーにやって来たのは、一時間ほど経過してのことだった。

 「アリス様に転移させてもらえば?」という意見もあったが、どうにか頼み込んで、帝国まで急いで来てもらった。

 海とも思える巨大な河川を、ルーシーは浮遊魔術を用いて高速移動した。

 そのため、時間がかかってしまったのだ。


 リーレイはイルクナーへと到着すると、お礼も簡単にすませ、とっととユータリスの滞在している邸宅へと急いだ。

 幹部トップツーを誇るリーレイのスピードは、普通の人間に見えるはずもなく、ユータリスもその部下であるエクセターたちですら視認出来なかった。

 それを良いことに、リーレイはスケフィントンの使用している部屋へと滑り込む。


(お願いだから、魔術空間以外に残しててぇ……)


 コソコソと部屋の中を漁る。

 探しているのは全てが書かれているであろう、手紙。

 スケフィントンの解釈を鵜呑みにしてしまったせいで、事実を知らない。だからそれを知るために、ヴァンティアの送った手紙を探しているのだ。


 乱雑なスケフィントンの自室。そのなかで一際目立つ、小綺麗な宝箱。

 宝箱といっても小さなサイズだ。小物入れとも言っていいほど。少女の部屋に置いてありそうな、そんな可愛らしいものだった。

 それを開けば、中には封筒や便箋がぎっしりと詰まっていた。ところどころ血液やなにかの液体が付着しているものの、比較的綺麗に管理されている。

 一つ手にとって開けば、丁寧に書かれた文字が並んでいる。子供にもわかりやすい文章で、ヴァンティアの文字が連なっていた。


「あったぁ……!」

「何を為さっているのですか?」

「ひっ!?」


 部屋の入口には、シスター・ユータリスが立っていた。

 ニッコリと微笑んでいるものの、その奥に秘めた感情は読み取れない。

 レベル的にはリーレイのほうが有利なのだが、リーレイはまるで蛇に睨まれた蛙のように怯えている。


「ゆ、ユータリスさぁん……」

「あらあら。……一つ、言わせて頂きますと――アリス様へ正直に申し上げるのが、一番良い選択です。嘘や隠蔽は、きっと幻滅では済みませんよ」

「うぇえん……」


 完全に、ユータリスにはバレている――リーレイはそう思った。

 隠密も移動も気付かれていないと思ったが、探しものに夢中になりすぎたようだ。いつからユータリスが見ていたのか分からないが、探しものをしていたのはバッチリ見られていた。


スケフィントンと一緒だったはずのリーレイが一人でここに尋ねている。それは疑問に思うだろう。

 というかそもそも、帝国にて単独任務を実行しているはずのリーレイがいるのだ。

 向こうで何かが起こったのだと推測するのが当たり前。そして、突然現れてスケフィントンの部屋を漁っていれば、なんとなく予測できる。


「それにその小箱。私がスケフィントンに頼まれて与えたものです。彼が何かをしくじったのですね」

「…………」

「いいですよ、一緒に謝罪に行きましょう」

「うぇぇえ……ユータリスさまぁあぁ……」



 リーレイは勢いのまま、内容を伝えた。

 拙い説明だったが、ほとんどはアリスの希望通りに運んでいたようだ。

 これでアリスが喜ぶだろうとユータリスは安堵する。


 話を聞いたとなれば、スケフィントンの保管している手紙の確認をすることになる。

 ユータリスは全てに目を通していたが、知らないていでチェックを進めることにした。


「私が読んだほうが早いですね」

「うん、お願いぃ」


 ユータリスの特技である速読。ここの場面では役に立つ。

 二人で読み進めるよりも、ユータリスが一気に読んだほうがすぐに片付く。それに本とは違って、手紙だ。さほど時間も要さない。

 実際に、数分で大量の手紙を読み終えてしまった。


「確かにスケフィントンが勘違いしそうですね」

「ど、どぉ?」

「ここを見てください。彼女は〝自分も家族がいないようなもの〟と記述しています。恐らく彼女は、スケフィントンの知能の低さと字の汚さから、孤児だと勘違いしたため〝自分も――〟と記載したのですね」


 全てはスケフィントンの勘違いだった。

 少女は完全に「家族がいない」と書いたわけではなかった。

 スケフィントンにとって、文章の奥にある物事を読み解くのは難しいことだ。だから起こってしまった惨事なのだ。


「あ、ここにユータリスさんの話があるよぉ」

「それもスケフィントンが書いたのでしょうね。私も送る前に確認するべきでした。〝私の慢心〟です」


 ユータリスの慢心といったものの、これはあえて残しておいたものだ。

 のちのち、スケフィントンを叱るためのもの。

 物わかりの良くないスケフィントンからすれば、好きな人を殺したくらいの衝撃ではないと理解が出来ない。

 そして、尊敬しているアリスに対する裏切り行為――とも言われることをしてしまったという事実も無くてはならない。


 少々心苦しいが、アリスが帝国を手に入れる一歩のためならば、仕方ないことだと理解した。

 しかしスケフィントンはともかく、ベルやリーレイを巻き込んでしまったことは、心底申し訳なく思っている。


「これで彼女は孤児ではありません。身内が大捜索するのも頷けます」

「ど、どうするのぉ? ベルがもう食べちゃったよぉ?」

「た、食べた。…………アリス様次第ですね」

「べ、ベルも呼ぶぅ?」

「えぇ。スケフィントンも魔王城へ、連れて来るよう言ってください」

「一時間以内に合流するねぇ……」

「先に向かってお待ちしております」


庭に桜の木があるんですが、ずっとカーテン閉めてるので全く風情がありません。

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