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魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第二章 化け物たちの恋

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やって来た〝約束〟1

「あーあ、へんなの」


 アリスは〈転移門〉を生成し、アベスカ王城から帰還していた。

 あの我儘で暴君とも言えたライニールが、すっかり大人しくなってしまっていた。そのことに違和感を覚えていた。

 順応したのか、心を入れ替えたのか。

 いずれにせよ今後のライニールは、以前よりも動かしやすくなったということだ。


 コツコツと廊下を歩いていれば、前方から神官の衣服に身を包んだ、金色の長髪の青年が歩いてくる。

 青年――ヨナーシュ・イグレシアスは、アリスを見つけると口角を上げて、ペコリと頭を下げた。

 彼は元魔王であるヴァルデマルの、右腕だった男。聖職についていながらも、ヴァルデマルに感化されて魔人となった、堕ちた神官だ。

 アリスによる襲撃後は、知識を買われて、今もこうして生き長らえている。


「出掛けられていたのですか? おかえりなさいませ」

「ヨナーシュ。最近はどう?」

「軍の治療も殆ど完了しております。リハビリや、再び訓練を選ぶものが多いです」

「そう、よかった。墓地は?」

「敷地内に建設中です。戦闘に出れなくなったものたちは、そちらの建設作業にあたっています」

「ありがとー」


 先の戦争では、魔王軍側も死傷者が出た。

 それらを手厚く葬るため、魔王城の敷地内に墓地を作っている。

 当然だが希望者がいれば、自分達の領地に埋葬することだって出来る。

 しかし、参戦していたのは全てが全て、己の家族と帰る場所を持っている魔族だけではないのだ。アリスに拾われて、やっと場所を見出した魔族だっている。

 そんな行き場のない者たちを、アリスは弔っている。

 申し訳ないとか、可哀想だとか、同情や慈悲ではなく――単純に「そうすれば、もっと味方になってくれるだろう」という、浅はかな考えであれど。

 故郷を追われた者たちからすれば、手を差し伸べてくれることこそが、アリスへの忠誠を更に厚くするのだった。


「それとアリス様。魔族の中で、魔術連合国で学びたいというものも出ています」

「え!」


 ヨナーシュに言われて、失念していたことを思い出した。

 別に新たに建設している学校で学ぶのは、人間だけじゃなくていいのだ。

 まずはアリ=マイアから引き抜ければいいと考えていたが、魔族であればもっと魔術への適性が見られるだろう。

 なんといっても、軍の強化にも繋がる。

 それに、アリ=マイア国内では、徐々に人間と魔族との交流が増えてきている。アベスカは他種族でごった返しているし、港町のイルクナーでさえ少しずつ増えていっている。

 新たな国を、アリスが最初から国を作るのであれば。人間だけというのは、少々物足りないだろう。


「いいね。是非受けてもらおう。ただ……」

「ただ?」

「審査はウレタの聖女が行ってるんだけど」

「……伝えておきます」


 アリスの言う通り、選考はウレタの聖女兼姫のマリルが行っている。

 事前に話を通すとしても、聖女である以上は審査に影響が生じる可能性が高いのだ。


「魔王陛下~!」


 アリスが呼ばれて振り向けば、資料を持ったゴブリンが駆け寄ってくる。

 背丈に見合わない大きく大量の資料は、今にも落としそうだ。

 ヨナーシュが少し心配そうにそれを見守り、アリスは特に何かをすることなくその場で待っている。

 ハァハァと息を切らして、アリスの前に立ち止まった。

 この様子では、資料を持ったままずっと走っていたようにも見えた。


「ハァハァ……探しましたよ……!」

「探したって?」

「陛下に来客があります……!」

「ん?」


 来客、と言われて頭の中を探る。特に予定していたこともなく、誰かに会う約束も何もない。

 大した予定でなければ忘れている可能性もあるが、大したことがない相手ならば待たせておけばいい。

 下っ端で、しかも仕事中のゴブリンが、アリスを探して走り回るほど重要な相手。そんな予定であれば、すぐに思い出すはずなのだ。


「玉座の間にて、待機しておりますので……」

「分かった」


 パタパタと、また忙しそうにどこかへ向かったゴブリン。

 アリスはそれを見つめながら、小さく呟く。


「忙しそうだね〜」

「エキドナ様がいなくなりましたから、我々に回ってくる仕事が膨大になりまして」

「それを言うなら、エキドナが……普段から尋常じゃない量の仕事をしていたってこと……?」

「……はい」


 主に城にいるハインツは、軍に忙しい。

 エンプティも城に常駐しているものの、エキドナよりかは対人での仕事が多かった。ユータリスが城にいない今、怪しい者たちへの拷問や尋問は、エンプティが行っているのだ。

 となれば、資料整理や城の管理などを行うのは、エキドナになってくる。

 盾役として、城をよく理解しなければならないエキドナは、特にその仕事を進んで引き受けることが多かった。

 それにエキドナは頼まれたら断らない質だ。小さな相談や頼み事、仕事諸々。何でもかんでも抱え込んでしまったのだろう。


「事務作業が出来る子たちを、もっと増やしたいね……」

「それでしたら私の方で、選定してもよろしいでしょうか?」

「候補でもいるの?」

「はい。戦闘に参加する力はなくとも、知恵ある魔族がおります。そのまま腐るのはもったいないでしょう」

「そうだね。報酬もきちんと出すと伝えて」

「かしこまりました」





 アリスはヨナーシュと分かれて、来客が待機しているという玉座の間に向かった。

 最近は分かる範囲であれば、歩くようにしているのだ。

 まだまだ拡張が続いている城だが、ヴァルデマルが魔術連合国の建国作業にも時間を割いているため、以前よりは落ち着いている。

 迷路のように広い城内の全てを把握する気はないが、よく使う部屋くらいは覚えておきたいのだ。


 扉の前に立てば、中から話し声が聞こえてくる。

 聞き覚えのあるエンプティの声――と、彼女と話す声。微かに聞こえる声は、威圧も怒りとも受け取れない。

 あのエンプティが、苛立つことなく会話している。珍しいことだ。

 どんな相手なのだろうか。

 百聞は一見にしかずということで、アリスは扉を開けた。


「あ!」

「あ~!♡」


 玉座の間には、思ったよりも人が詰めていた。

 扉の前から聞こえていた通り、そこにはエンプティ。そしてその目の前に立っているのは知らない娘。

 奥には床に座り込んでいる男女三人。監視としてベルも立っていた。アリスを見るなり、睨んだり涙目になったりと忙しい。

 とりあえず話を進めようと、アリスはエンプティに近づいた。


「エンプティ。ただいま」

「お帰りなさいませ♡」

「えーっと?」


 チラリ、と少女を見る。明らかに日本人だった。

 見た目的には、大学生くらいの年齢だろう。行っていても二十代半ばくらいだ。

 セミロングの黒髪に、赤色のインナーカラー。ブラウンの瞳は、単純に色素が薄いだけなのだろう。

 両耳には大量のピアスをしており、遊べる大学生のうちに遊んでおけ! という精神がよく見られる。

 黒のタートルネックに、軍人が纏っていそうな茶色のコート。真っ白なパンツスタイルだ。両手にはグローブをはめていた。

 もともとは背があまり高くないのか、高めのヒールを履いている。


「こちらは金原 茜(かねはら あかね)と言う者です」

「こんにちは、はじめまして♡♡」

「かねはら……、あ!」


 そこでやっと思い出した。

 マザー・フリルを作ったときに言われた、勇者の話だ。

 準備を経てから送ると言われたが、なんの通達もなくいきなりやって来るとは思わなかった。やはり、上司が上司ならば部下も部下である。


「ははうえ!」

「おぉ、リーベ」

「あのひと、茜さん、いいひとですっ!」

(ふぅん?)


 アリスは気付いていなかったが、部屋の中にはリーベもいたのだ。

 アリスが部屋を去ってから、ガブリエラとは解散し、エンプティとともに行動をしていたのだろう。

 リーベは走ってくるやいなや、アリスに抱きついた。


 それに、心が読めるリーベが、茜を信頼している。

 絶対的な能力ではないとはいえ、心を即座に偽ることなんて、常習していなければ不可能だ。リーベが能力を自己申告することなどないだろうし、信じるに値するだろう。


「へ~。それじゃあ――」

「茜! 君は間違っている!」


 ――アリスが口を開いたと同時に、奥で座っていた男の一人が叫んだ。

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