表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第二章 化け物たちの恋
23/154

港町の子

「……と、いう経緯があってね。開発してみたよ。手紙送受信装置と、簡易公衆通信魔術だよん」


 ハーフエルフの領地に様子を見に行ってから、数日。

 アリスは早速開発に取り掛かり、現在はこうして完成していた。

 イルメラとの約束通り、ハーフエルフ領や他の魔族領、そしてアベスカとを繋げた。


 だがそれだけでは、世界に発信できない。

 アリ=マイアで最も発展している国、イルクナーに設置してこそ、更にその能力を発揮出来るというものだ。

 イルクナーの人間は、より他国との繋がりが深い。他の国に知り合いがいる割合も多く、アイテムによる活躍をより多く見込めるだろう。


 そんなわけで、アリスは装置を持ち込んでイルクナーへとやって来ていた。

 前回に来たときとは違って、ユータリスともスムーズに会えた。それにより、すぐに会話を進めていた。


「それはそれは……」


 チラリ、とユータリスはアリスの持ち込んだアイテムを見る。

 両方とも形は違い、比較的小さなサイズと、大きなサイズの二つだ。


 小さな方が手紙を送受信するアイテム。

 簡単な転移魔術を埋め込んであり、手紙程度であれば、時間がかかっても数日で届く。

 小型の荷物であれば同じ原理で転送できるが、アリスのいつも用いる最高位転移魔術ではないため、遅延が発生する。

 それに下手にサイズを誤って使うと、低ランク魔術であるが故に暴走し、きちんと届かない場合もあるのだ。

 ゆえにせいぜい、手紙が限界というところだ。


 大きい方は、手紙を送る場合よりも値は張るものの、即座に通話ができる。

 これは通信魔術の応用であり、いわゆる公衆電話である。

 手紙よりもより高度であるため、魔力が必須なのだが――それは魔力回復用ポーションなどで賄える。

 専用の売り場で購入し、機器に注ぐことで通話が可能となるのだ。


「ですが、何故イルクナーへ?」

「ほら。アリ=マイアでも大きな都市でしょ。人が集まるし、新しいことも好きな人が多い。是非試してほしくって」

「なるほど。詳しくお聞かせくださいませ、民にすぐ伝えます」

「えーっとね」


 アリスは使用方法について、ユータリスに詳しく説明を始めた。

 手紙の方は何処にでも設置できるが、通信魔術の方は専用のアイテムが必要になるため、設置できる場所は限られてくる。

 ショップの併設も必須になるため、余計に設置場所の候補が減るだろう。

 どこに置くにせよ、ユータリスが命令し提案したならば、イルクナー国民は誰も拒まない。

 彼女は神たるアリスの使者。この国での最高権限を持っていると言っても過言ではないのだ。


「――と、言うわけ。これで離れた都市と、やり取りできるようになるんだ」

「素晴らしいです……! アリス様の技術を、低級種族のヒトにさえ明け渡してしまうだなんて、流石は現人神たる方ですわ」

「あ、ありがと……」


 アリスを褒めつつ、人間を貶しているユータリス。アリスは、そんな彼女に苦笑いで返した。


「今ね、便箋も大量に作っちゃって。余ったからユータリスにもあげるよ」

「ご厚意感謝致します。ですが、私は特に送りたい相手もいません……」

「別に手紙じゃなくても、チラシみたいな布教する紙を作ってもいいしさ」

「まぁ。でしたら是非頂きますわ」


 便箋などを作成する素材はまだまだない。技術だってまだ出来上がっていない。

 だが装置を使ってもらうには、必要なアイテムだ。

 そのため技術や素材が安定してくるまで、アリスや他の魔族が生成することにしたのだ。大量に生成できるのは、まだアリスのみだが、初回分の量としては上々だろう。

 そこには、実に数百通分の便箋が用意されていた。


「それじゃあ説明はしたから、国民への普及はお願いしていいかな?」

「もちろんで御座います」

「わからないことは、すぐ通信魔術で聞いてね」

「かしこまりました」


 伝えたいことを言い終えると、アリスは即座に門を開き、魔王城へと帰還していった。

 ユータリスは〈転移門〉が完全に消え去るまで、深々と頭を下げて見送っていた。




「おやっ」

「あら、エクセター」

「おはようございます、ユータリス様。先程までアリス様がおられたようですね……。会えなくて残念です」


 ノックの後に、部屋へと入ってきたのはエクセターだ。

 手には聖書を持っていた。彼もユータリスと同じく、演説を行うことがあるのだ。

 スケフィントンやスカベンジャーと違って、頭以外は人間である。被り物だと思われていることもあって、他の二人よりも表に出て、人間と交流を図りやすいのだ。


「そういうこともありますよ。お話を遮ってまで、貴方を呼ぶわけにもいきませんし……。ごめんなさいね」

「いえ、お気になさらず。また次の機会に、アリス様とお話致しますので」


 エクセターは部屋の中に置かれた装置に目をやる。

 正直に言えば邪魔なくらいに、部屋の中を占めていたが、アリスが持ってきたものを邪険にすることなど出来ない。


「それで、こちらは?」

「あぁ、そうでした。これから国に普及予定のものです。貴方にも説明しますね」


 ユータリスはアリスから聞いた説明を、エクセターへとそのまま伝えた。

 設置するとなれば、エクセターも機能を知っておく必要がある。表に立つことがある以上、質問された際に返答が出来なくては困るのだ。


「なるほど、良いものですね」

「そうでしょう」

「ただ……人間種程度に、こんな素晴らしいものを使わせるのは、こちらとしては憤慨したいことです」

「アリス様は慈悲深き神ですよ。ヒトたる低能にも、寛容なのです」

「流石はアリス様……!」


 ユータリスとエクセターが、装置について話し合いつつ、アリスへの賛美を述べていたときだった。

 エクセターが常に共にしている小箱――スケフィントンの入った箱が、カタカタと静かに鳴り始める。

 彼はしばしば、こうして主張をするのだ。


「おや?」

「あら、スケフィントン?」


 ユータリスが名前を呼べば、小箱はパカリと開いた。

 どう考えても入っているサイズではないものが出てきた。成人男性と変わりない大きさのクリーチャーのようなものが、ズルリと落ちるように出てきた。

 彼はスケフィントンである。

 ベチャリ、と部屋の床に落ちただけではなかった。

 箱からは、蛆虫や百足、鼠にシラミ、ハエなどまでがウゾウゾと零れ落ちる。しまいには血液までもボチャボチャと、汚い音を立てて落ちてくるではないか。

 落ちてきた虫達は、スケフィントンの体を這い始めた。


 スケフィントンには、顔がなかった。細長い頭はついているものの、鼻も目すら存在しない。

 体はいたるところに傷が存在し、膿んでいたり血が出ていたりしている。


「て、てが、てがみ、なに?」

「あらあら、興味がありますか?」

「あ、あ、あ、ある、ある」


 幼い子供のような思考を持つスケフィントンが、なにかに興味を示すことは珍しいわけじゃない。

 スケフィントンは、扱いづらい部下だ。それをどれだけ〝あやして〟、本来の仕事に戻すかがユータリスの手腕にかかっている。

 アリスが用意してくれた便箋なども、国民に配布する予定だった。その貴重なひとつを、部下に渡すなど勿体ないこと。

 なによりも、スケフィントンは読み書きが出来ない。

 彼に出来ることは、他人を痛めつけることくらいだろう。

 だがスケフィントンは、手紙に興味を示していた。ユータリスはそれを受けて、どうしようかと思案する。


「ユータリス様。教育という意味で、スケフィントンに手紙を書かせるのは?」

「教育……そうですね……」

「か、かか、かき、かきき、かきた、い、い」


 ガリガリガリ、とスケフィントンは頭を掻く。

 強さの加減も出来ないのか、掻いたところは傷になり、血液がどんどん溢れ出ていく。ユータリスもエクセターも、それを止めようとしない。

 彼らにとって、スケフィントンのこの態度は日常的なものだった。


「私との約束は、守れますか?」

「まも、まもっ、る」

「そうですか。ではまず読み書きの練習からしましょう」

「す、すす、する!」

スケフィントン、きちんと出てくるのは初ですね。今まで名前だけ(箱だけ)なら出てきていました。

キャラが濃いので気に入っています。

因みに入っている小箱は、蠱毒モチーフです。スケフィントン自身も、虫などに食い破られていたりします。スケフィントンは友達と思っているようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ