はいはい、分かりましたよ
「スタシアナ姉様ー」
エリンはそう言いながらスタシアナの下へと駆け寄る。
「大変だったんですよ。お化けおっぱいが、またまた見境もなく魔力を消費するから……」
そう捲し立てるエリンの頭をスタシアナが、ぽかりと叩いた。たちまちエリンは涙目となる。
「エリンは何かとうるさいのです!」
「……ごめんなさい」
自分は頑張ったのに何て理不尽なのかと思いながらも、エリンは取り敢えず謝辞を口にする。すると……。
「でも、エリンは凄く頑張ったのですー」
次の時にはそう言ってスタシアナが微笑んだ。まさに天使の微笑みと言ってよい極上の微笑みだった。
「スタシアナ姉様ー」
先ほどまでとは異なる意味で涙目となったエリンが、スタシアナの首に両腕を回して勢いよく抱きつく。
「えへっ、エリン、止めるのです。くすぐったいのですー」
スタシアナはそんなエリンから身を捩って逃れようとする。
「えー? スタシアナ姉様、たまにはいいじゃないですか」
エリンはそう言ってスタシアナに抱きつくことを止めようとはしない。
そんなふざけ合う二人に魔人の掃討を終えたヴァンエディオが近づいてきた。
「さてと、こちらも片付きました。クアトロ様たちが心配です。手分けをしてクアトロ様たちの居場所を特定しますよ。それとマルネロさんの介抱も必要ですね」
ヴァンエディオの言葉にエリンとスタシアナは頷くのだった。
魔族如きが……。
そんな言葉を発しながら、クアトロの眼前ではクロエが相変わらずの嫌な笑いを見せていた。
エネギオスたちのことは気にかかるが、四将と称されて魔族最強と言ってよい彼らのことだ。何が起こっているのかは分からないが、無事に切り抜けられると信じる他にはなかった。
「アストリアを返して貰おうか」
クアトロの言葉にクロエは意味が分からないといった感じで軽く首を傾げてみせた。
「この娘のことか?」
再びクロエの顔に嫌な笑みが浮かぶと、瞬時に彼女の左手に青みがかった半透明の巨大な球体が現れた。
その球体の中にはアストリアが閉じ込められていた。アストリアはクアトロに気がつくと立ち上がって球体を内側から必死に叩き始めた。何事かを叫んでいるようだったが、音が遮断されているようでアストリアの声は聞こえてこない。
振り乱された明るい栗色をした髪の毛がアストリアの必死さを物語っているだけだった。
「貴様……」
クアトロは奥歯を噛み締めて言葉を絞り出した。
次いでトルネオが口を開く。
「クロエさん、いささか趣味が悪いようですね。これも精神移管を繰り返した弊害なのでしょうかね。ですが、例えそうだとしてもこれは流石にいただけないですね。それに口調も随分と変わりましたよね。何だか男っぽくて……」
トルネオの言葉にクロエが不快げに顔を顰める。
「そこの骸骨、先程から知ったような口をきく。貴様が私の何を知っている? 気味が悪いから貴様はこれ以上、喋るな」
「気味が悪い……」
トルネオが口を再び、あんぐりと開けてみせた。そんな様子のトルネオをみてクアトロが口を開く。
「トルネオ、冗談はそこまでだ。いい加減にしてくれ」
「だってクアトロ様、この女はさっきからわたしの悪口ばかりを言うんですよ。気味が悪いとか、気持ち悪いとかって……」
「いい加減にしろ、トルネオ……」
クアトロが再度そう言う。
……この女ってどういう言い方だとクアトロは思う。そもそもクロエはトルネオとは仲間というか知り合いではなかったのか。それに何よりも、お前は反論できないぐらいの気持ち悪い骸骨でしかないだろうとクアトロは思う。
「はいはい、分かりましたよ」
クアトロの呆れたような表情を見て、最後にトルネオは不貞腐れたように言う。こんな状況でも全くもって緊張感のない骸骨だった。




