寝ていられないじゃない
スタシアナ姉様を泣かせるなんて、絶対に許さないんだから!
エリンの中でたちまち怒りが湧き上がってくる。
でも、どうすればいいのだろうか。自分が作り出す防御壁では、あのゴーレムの攻撃を防ぎきれないことが先ほどの一件でも明らかだった。
駄目だ。どうすればいいのか分からない。
心の中でそう呟きながら、助言が欲しくて救いを求めるようにヴァンエディオに視線を移したエリンだったが、ヴァンエディオは殺到する魔人の相手で手一杯のようである。エネギオスを援護する余力などはないようだった。
……ならば!
エリンは魔力を使い果たして意識を失い倒れているマルネロの元へと飛翔した。そして、傍に跪くと両手をマルネロに翳して魔力を注入する。
「早く起きて! 起きなさい。起きなさいったら、起きなさい。このお化けおっぱい。おっ化け。残念おっぱい。第百夫人。爆乳魔道士。早く起きて、助けなさい!」
最後は悲鳴に近かったかもしれない。その叫び声と共にマルネロの赤い頭が、むくりと持ち上がった。
「悪口ばっかり、うっさいのよ! 寝ていられないじゃない」
「おっ化けー」
エリンは涙目だった。マルネロはそんなエリンの顔を意外そうに少しの間だけ見つめると、ヴァンエディオに顔を向けた。
「ヴァンエディオ、あのゴーレムを倒す方法は!」
「さあ、どうでしょうか。ただ普通、ゴーレムならばどこかに核となる物があるはず。それを壊せれば、あるいは……といったところでしょうか」
ヴァンエディオは背後も振り返らずに淡々と言う。マルネロは軽く頷くとエリンに再び燃えるような赤い瞳を向けた。
「エリン、ここで待ってなさい。スタシアナもね。大丈夫よ。二人共、そんな顔はしないっ!」
マルネロは語尾に勢いをつけて立ち上がると、エネギオスとゴーレムに向かって歩みを進めたのだった。
……さて、どうしたものかしらとマルネロは改めて思っていた。
核があるはずとヴァンエディオに言われたところで、マルネロにはその核がどこにあるのかが分かるはずもない。
「エネギオス! ゴーレムの核がある場所、どこなのか分かる?」
「分かるはずがねえだろう」
一応はそう訊いてみたマルネロだった。でも、戻ってきたのは潔く見事なエネギオスの返事だった。だが、そんな口がきけるのであれば、エネギオスはまだまだ大丈夫なのだろうともマルネロは思う。
そんなことより、今は核の場所だ。
マルネロは改めてそう思い、ゴーレムに視線を向けた。
普通に考えると核と言われる物なのだから、顔の中心や胸の中心にあるのかもしれない。その方が理屈としては収まりがいい。しかし、大して根拠があるわけではなかった。何となくそこにあるのが、印象として核っぽいというだけの話なのだ。
そこまで考えたマルネロだったが……何か面倒になってきたとマルネロは思う。自分が考えたところで核のある場所が分かるはずもないのだ。
しかし、一方ではエネギオスの状況を考えると、早く何とかしなければとの焦りもある。焦りの中でマルネロに一つの閃きが生まれた。
……あ、何かいいことを思いついちゃったかも。私ってば凄い!
マルネロはそう心の中で呟くと、背後のスタシアナとエリンに視線を向けた。
「あなたたち天使なんだから、魔力を敏感に感じられるんでしょう?」
「あたりまえでしてよ」
こんな状況だというのに何故かエリンは偉そうに胸を張っている。そんな様子のエリンを見て、本当にいい性格をしているとマルネロは思う。
「ゴーレムの体で魔力が一番強い部分を感じられないかしら? 多分、そこがゴーレムの核なんじゃないかな」
「ふん、やってみてもよくってよ」
いつもながらの尊大なエリンの言葉に、マルネロは素直じゃないんだからといった感じで苦笑をする。
エリンは両手をゴーレムに向けると茶色の瞳をゆっくりと閉じた。




