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魔王の花嫁  作者: yaasan


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根絶やし

 だが、果たして自分は守られる価値があるのだろうか。クアトロの花嫁という立場でしかない自分に……。


「おい、大丈夫か、アストリア?」


 え……?

 クアトロの急な問いかけに、アストリアは不思議そうな顔をする。


「お腹でも痛いのか? むーといった顔をしているぞ?」


「もう、また女の子にそんなことを訊いて! お腹なんて痛くありません! 考えているのです!」


 いつかも同じような会話をしたような気がすると、アストリアはそう思いながら苦笑した。


「そ、そうか。なら安心だ」


 クアトロはアストリアが怒り出したと思ったのか、少し焦る素振りを見せていた。そんなクアトロを可愛く感じて、アストリアはさらに苦笑を浮かべた。


「アストリア……何も心配する必要はないんだぞ。アストリアを連れ出した時から、俺はアストリアを守ると決めた。ただそれだけだ」


「はい……」


 アストリアは頷きながら、果たして自分には守られるような価値があるのだろうか。

 そう再び考えるのだった。





 「来たようですね……」


 翌朝のことだった。

 ヴァンエディオが不意に呟くように言った。


「やれやれだな。魔人、天使どもは朝から真面目らしい」


 エネギオスがゆっくりと大剣を手にして立ち上がる。


「じゃあ、アストリア、ちょっと行ってくるわね」


 マルネロもそう言って、アストリアに声をかけると皆に続いて立ち上がった。


 昨日の夜まで、魔力が底をつきかけてへろへろだったはずなのに恐るべき回復力だった。爆乳魔導師の異名を持つだけのことはあるなとクアトロは思う。


「ダース、アストリアを頼むぞ」


 クアトロの言葉にダースが無言で頷いた。


「皆さん、気をつけて。決して無茶はしないで下さい」


 アストリアの言葉に皆がそれぞれの表情で頷く。


「アストリア、心配するな。ちょっと行ってくるぞ」


 クアトロは少しだけ微笑むと足を進めた。続いてエネギオス、ヴァンエディオ、そしてマルネロが付き従う。


「それにしても、スタシアナは何をしているのかしら。トルネオやエリンと天上に行ったのでしょう? まったく、どこで遊んでいるんだか。全く、肝心な時にいないんだから」


 マルネロの言葉にクアトロは苦笑する。ただ確かに天上に行ったきりなのは気になるところではある。


 天上ではスタシアナもエリンも、天使たちにとって同族ではなくて、排除すべき元同族の存在になっているかもしれないのだ。


 しかも、一緒にいるのがトルネオだ。あのおっさん骸骨が天上で何かの役に立つとも思えなかった。

 

 そんな状況に一抹の不安を覚えるクアトロだった。





 クアトロたちが神殿の外に出ると、空は神々しい光で満ちていた。これも神とやらの威光というものなのだろうか。


 その光とともに天使たちが降下してくる。その数は数百では収まらないようだった。


 自分たち魔族数人を相手にして大騒ぎだなとも思ったりもしたが、それだけ天使たちが大切にしている大事な物がこの神殿にあるということになるのだろう。


「何か……数が多いわね」


 隣でマルネロが呟いた。さすがに顔が引き攣っているのかもしれない。


「おい、エネギオス、出番だぞ。突っ込んで行け。心配するな。援護は俺とマルネロで……」


「嫌だ……」


 エネギオスが即座に反論する。

 まあ、それはそうだろう。あんな天使の大群に一人で突っ込むのは、死にに行くようなものだ。


 ならばどうする?

 マルネロに特大の魔法をぶっ放させて……。


 クアトロがそこまで考えた時だった。天使たちのほぼ中央にいた薄い茶色の髪をした天使が口を開いた。


「不遜な魔族の王とは貴様か? 我ら同胞を誑かしおって……」


「同胞? スタシアナやエリンのことか? おい、スタシアナたちはどうした?」


「質問に質問を返すな。低脳な下位眷属が!」


 その天使は怒りを露わにした。


「低能呼ばわりされるのは心外ですね。こちらもあなた方の質問に答える義理はないのですから。それより私も気になりますね。スタシアナさんたちは、どうされたのですか?」


 ヴァンエディオがそう割って入ってきた。ヴァンエディオの言葉に天使は少しだけ笑った。嫌な笑い方だった。それを見たクアトロの背筋に嫌な予感が走る。


「ここに……」


 その言葉に合わせてクアトロの目前に、どさっと投げ出された物があった。

 

 いや、物ではない。

 金色の髪をした少女。

 その背にはクアトロがよく見知った漆黒の翼がある。


 続いてもう一つ、大地に投げ出された。

 薄い灰色の髪をした少女。

 その背には白い翼がある。


 無造作に大地に投げ出された二人の少女。


 両者ともに胸から下の体がない。上半身だけがまるで千切れてしまった人形のように、投げ出された格好のままで大地に横たわっていた。


 マルネロの息を飲む気配があった。

 エネギオスが無言で大剣を引き抜いた。

 ヴァンエディオの両目が細くなる。


 想像したこともない光景だった。

 信じられない光景だった。


 クアトロの中で感情が瞬時に焼き切れた気がする。同時に脳裏でぷすぷすと泡立つものを感じる。


「貴様ら天使は……今、ここで根絶やしだ」


 長剣を抜き払ったクアトロが低い声でそう呟いた。

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