栄枯盛衰
「ほ、本当だ。この神殿の地下に神がいるということ以外、俺は何も知らん。それより、もういいだろう? 俺が知っていることは全部話した。早く手当をしてくれ。このままでは、本当に死んでしまう」
ヴァンエディオから不穏な空気を感じ取ったのか、魔人が早口でそうまくしたてた。
どうやら本当にこれ以上は知らないのだろう。クアトロはアストリアに魔人の手当をするように促した後、ヴァンエディオに視線を向けた。
「で、どうする、ヴァンエディオ。神殿にある神の居場所とやらをこれから皆で探すか?」
「いえ、直に天使やら魔人やらが、また現れるでしょう。その中には、より事情を知っている者もいるかと」
それは確かにそうなのだがとクアトロも思う。
だが一方で、天使や魔人の数が多ければ、そう簡単な話にはならない気もする。
「それでは、クアトロ様、世界の理を覆すための最終決戦といきましょうか」
ヴァンエディオはそう言って口角を持ち上げたのだった。
「さてと……ここに来るのは何百年ぶりでしょうか。それとも、千年、二千年ぶりでしたかね」
転移を終えたトルネオはそう独りごちた。
トルネオが転移してきた場所は、白一面の壁で覆われている広い部屋だった。部屋にはいくつもの机が並べられ、その上には大小様々な画面や操作盤が並べられていた。
「ここは何も変わらないですね。かつて、たくさんの者がここにいたことを除けば……栄枯盛衰ですかね」
再びトルネオそう独りごちる。
もちろん、どこからもトルネオに返答する者はいない。
生命の理から脱しようとした者たちの哀れな末路なのだろうかとトルネオはふと思った。
ならば、不死者となった自分にも同じことが言えるのではないだろうか。
「おや……柄にもなく少し感傷的になりましたかね」
トルネオは顎の骨をかくかく鳴らしながら乾いた笑い声を上げてみる。
「まあ……ここに来るのも久しぶりですからね。切なくなるのも無理はないということにしておきましょうか。さて、それよりスタシアナさんとエリンさんです。何とかしないと、マルネロさんあたりに燃やされてしまうでしょうから。何てったってマルネロさん、もの凄く恐いですからね……」
トルネオは再度独白すると、目の前の操作板に両手を置いたのだった。
その夜、一人で神殿の外に出たアストリアは、崩れかかった外壁に腰かけて夜空を見上げていた。夜空には幾多もの星々が煌めいていて、そうして見ていると手を伸ばせば届きそうな気がしてくるのが不思議だった。
アストリアはそっと片手を夜空に向けて伸ばした。心地よい風が駆け抜けて、アストリアの明るい栗色の髪を僅かに揺らしていく。
自分を中心として、想像もつかないような大きなことが渦巻いているのだとアストリアは思っていた。でも、それに抗う術が自分にはなくて、クアトロたちが傷つきながらそれに必死に抗ってくれていた。
いや、違うのだとアストリアは思う。クアトロたちだけではないのだ。魔族の名も知らない将兵たちもそうだ。あの戦いでどれだけの魔族の皆が傷つき、死んでしまっただろうか。
そう思うと悲しみと、自分の不甲斐なさが悔しくて涙が浮かんでくる。だが、泣いていても何の解決にならないことをアストリアは知っていた。あの時、国を飛び出したように自分で踏み出さなければ何も始まらないのだ。
古代種の竜は力をかしてくれないのかしらとも思ったが、結局それも他人任せでしかないことにアストリアは気がつく。
本当に自分は泣きたくなるぐらいに無力なのだ。
「アストリア、ここにいたのか。少し心配したぞ」
気がつけばクアトロが背後に立っていた。
「あ、ごめんなさい。少し考えごとをしていて……」
「そうか……」
クアトロはそう言って優しく笑って見せた。いつもそうなのだとアストリアは思う。クアトロはこうして優しく笑って見せて、自分のことを守ってくれるのだと。




