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魔王の花嫁  作者: yaasan


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ヴァンエディオの死

 不意打ちと言ってよかった。パラン神殿前に飛び出したエネギオス、ヴァンエディオ、マルネロの三人は躊躇せずに約二百の魔人に襲いかかった。


 マルネロの視界の中で、ヴァンエディオが即座に展開させた数十個に及ぶ灰色の球体。それらがそれぞれに迫り来る魔人たちの頭部を包み込む。


 次いでマルネロが直線的な火炎魔法を放った。この不意打ちで四分の一ほどは減らすことができただろうか。マルネロはそう思いながらエネギオスに視線を向けた。


 マルネロの視線に頷いたエネギオスが大剣を手に魔人の一団に向かって駆け出した。


 トルネオはともかく、スタシアナやエリンがいれば防御魔法も使えてもう少し楽に戦えたのにとマルネロは思う。


 まったく、あのちびっ子天使たちはどうしているのやら。

 そう思うのと同時に、この場に天使が一人もいないことも気になる。魔人と天使は共闘していたのではなかったのか。それともやはり別の思惑でそれぞれが動いているのだろうか。


 マルネロたちの急襲で混乱を見せた魔人だったが、その混乱も収束しつつあった。

 大剣を手に単騎で突入してくるエネギオスを迎え撃とうと同じく大剣を構えた大柄な魔人が出てくる。


 出たわね、筋肉ごりらの眷属。ほんと、筋肉ごりらってどこにでもいるのよね。


 そんなマルネロの感想を他所に、エネギオスを左右から包み込もうと他の魔人たちも殺到して行く。

 次いで、エネギオスの後方にいるマルネロやヴァンエディオにも十数人の魔人が向かって来ていた。


「私はエネギオスさんの援護をします。マルネロさんはこちらに向かってくる魔人たちをお願いします」

「了解」


 そう返事をしたものの流石に数が多すぎると思うマルネロだった。マルネロもヴァンエディオも魔道士である以上、近接戦には向いていない。

こうして四方から殺到され続けると、いずれは対処しきれなくなる。


 ……面倒だから特大魔法で全てを吹き飛ばそうかしら。


 マルネロはそう思いながらエネギオスに視線を向けた。エネギオスは変わらず、筋肉ごりらの眷属と剣を交わし続けていた。どうやらエネギオスと互角といってよい相手のようだった。


 本当に不味いわね……。

 左手から迫ってきていた魔人の顔を目掛けて火球を放ちながら、マルネロはそう心の中で呟いた。

 このままでは間違いなく数で圧倒され、押しつぶされてしまう。

 そう思ってマルネロがヴァンエディオに視線を向けた時だった。


「ヴァンエディオ!」


 マルネロが叫んだ。ヴァンエディオの背後から片腕をもぎ取られた魔人が、残る片手に握った長剣を振り上げていた。


「駄目!」


 マルネロがそう叫んだ瞬間だった。魔人の長剣がヴァンエディオの背後で一閃した。

 ごとりと音がしたかのようだった。ヴァンエディオの首から上が地面に転がり、続いて首から上がなくなった胴体が地面に倒れ伏す。


「貴様!」


 その言葉と共にマルネロの片手から炎の渦が放たれる。瞬く間に魔人は炎に包まれて絶命する。


 信じられなかった。あのヴァンエディオが死んだ? その衝撃にマルネロは腰から崩れ落ちる。


「馬鹿野郎! 死にたいのか!」


 気がつけば、長剣を握ったクアトロがマルネロの前でその背を見せていた。


「クアトロ、ヴァンエディオ、ヴァンエディオが……」

「分かってる! だが今はここを切り抜けるんだ」


 クアトロはそう怒鳴りながら、燃えるかのような赤い瞳を殺到してくる魔人に向けている。


 ヴァンエディオが死んだ。あのヴァンエディオが死んだ。あのヴァンエディオがこいつら魔人に殺された!


 その事実を噛み締める度にマルネロの中で怒りか湧き上がってくる。


 ヴァンエディオがこいつらに殺された!


「え、え? マルネロ……さん?」


 そんなクアトロの声が聞こえた気がした次の瞬間、頭の中でぷつんと音がするのをマルネロは聞いたような気がした。マルネロの燃えるかのような赤毛が膨大な魔力の影響で、それぞれが個別に意志を持って宙を泳ぐかのような動きを見せる。


「エネギオス、逃げろ。マルネロがぶち切れた!」


 クアトロが叫びながらマルネロの前から逃げ出す。


「お、おい、ちょっと待て!」


 エネギオスも事の重大さを悟ったのか、対峙していた魔人に牽制の一振りを繰り出して一目散でその場からの退避を始める。


「……神炎爆式……改!」


 詠唱の終わりを告げるマルネロの声が響き渡るのだった。

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