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魔王の花嫁  作者: yaasan


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転んだの?

 炎系魔法、水系魔法。グリフォードの得意とするそれらが、白髪の魔人に全て防がれてしまう。やはり感じた通り、実力の差は明らかなようだった。


 その間にも数人の魔族がバスガルやグリフォードを助けようと、白髪の魔人に向かって飛びかかって行ったのだったが、誰もが瞬時に切り刻まれる結果になっていた。


 自分が敵う相手ではないと思っていたが、ここまで実力差があるとは……。

 このままでは父親を連れて逃げ出す機会もない。グリフォードの中で焦燥感が募っていく。そのような時だった。


「小僧が! 舐めるなよ!」


 左手首を斬り落とされて片膝を地につけていた父親のバスガルが、何の予兆もなく不意に動いた。さらにその巨体に似合わない速さで魔人の背後に立つと、バスガルは丸太のような片腕を魔人の首に巻きつける。


 ほんの一瞬であった。バスガルの太い腕に巻きつかれた魔人の首は、瞬時にして折れ曲がるのだった。


 何とも原始的な……。


 グリフォードはそれを唖然として見ていた。さすがといえばさすがなのだったが、剣でも魔法でもなくて全くもって予想外、しかも野蛮極まりないな攻撃だった。

 

 一瞬にして息絶えた白髪の魔人に少しだけ同情したくもなってくる。


「父上、怪我の方は? すぐに手当を」


 バスガルはなくなった左腕の先に一瞬だけ目を向けると、何でもないと言いたげに腕を上下に振った。その度に鮮血が周囲に飛び散る。


「何でもない。かすり傷だ」


 腕の先が斬り落とされて、かすり傷もないだろうにとグリフォードは思ったが、怒られそうなので口にしないことにする。


 治癒魔法で応急処置を終えたバスガルは、即座に周囲の将兵に撤退を命じる一方でグリフォードに向かって口を開いた。


「なあ、グリフォード……」


「はい、父上」


「この左手、クアトロのところにいた、あのちび助で治せないか?」


 ちび助……。


 四将の堕天使スタシアナのことを言っていることは間違いなかった。だが、いくら元天使とはいっても、さすがに手は生やせないのでは……。


 蜥蜴ではないのだから……。


 父親が珍しく意気消沈しているようだったので、それは言わないことにした。


「どうでしょうか。今度、訊いてみることにしましょう……」


 グリフォードはそう言葉を返したのだった。





 本陣近くで魔族の撤退を指揮していたマルネロの前に、揺らぐ空間が同時にいくつも出現した。


 その数、数百といったところだろうか。おそらく戦場全体でほぼ同時にこの現象が起きているのだろう。


 程なくして、この揺らぐ空間から魔人が姿を現すのは間違いなかった。


 厄介ねとマルネロは思う。魔人が出現するまで残された時間はあまりないはずだった。面倒なので特大魔法で全てを焼き払ってしまおうかとも思ったが、それでは撤退中の魔族をも巻き込んでしまうかもしれない。


 そうこうマルネロが逡巡している間に、揺らぐ空間から魔人が次々と姿を現し始めた。その数、三百、いや五百か。


 あらまあ、仲良くぞろぞろと……。

 虫じゃあるまいし……。

 そんなことを心の中で呟いたが、それを言っている場合ではないことも分かっている。


「駄目ですよ、マルネロさん。マルネロさんの魔法は制御が大雑把ですからね」


 そう言いながらヴァンエディオが現れる。


「ヴァンエディオ、クアトロたちは?」


「大丈夫です。アストリア様、ダースさんとともに撤退いただきました。四将がひとりも傍にいないのが気になりますが、まあ、クアトロ様であれば大丈夫でしょう」


 ヴァンエディオの言葉にマルネロは軽く頷いた。


「ではこの魔人たちを……」


 ヴァンエディオがそう言っている間に、数十人の魔人がヴァンエディオとマルネロ目掛けて襲いかかってきていた。その背後では魔法の詠唱も始まっているようだった。


 気が早いというか、気が短いというのか……。

 どれだけ魔人って短絡的なのよとマルネロは思う。

 我が眷族ながら気が短すぎて恥ずかしくなってくる。


 自分のことを棚に上げているそんなマルネロの思いを知ってか、ヴァンエディオが笑みを口元に浮かべる。そして、その笑みを浮かべたまま、ヴァンエディオが両手を魔人たちに向けて翳した。


 それによって瞬く間に生み出される灰色の球体。それらが襲いかかって来た魔人たちに向かって飛来していく。


 灰色の球体はどれも狙いを違うことなく、迫り来る魔人や後方で魔法を詠唱する魔人たちの頭部をそれぞれが包み込んだ。


 少しの間をおいて灰色の球体が宙で霧散すると、すでに魔人の頭部は失われていて、そこから勢いよく鮮血が吹き出した。


 相変わらず何とも無慈悲な攻撃だとマルネロは思う。全くもって敵にはしたくない感じだ。


「容赦がねえな……」


 そんな言葉と一緒に大剣を肩に担いだエネギオスが姿を現した。珍しく額と肩口から出血している。


「珍しいわね。エネギオスが怪我をしているなんて。どうしたの? 転んだの?」


 マルネロの問いかけにエネギオスがそっぽを向く。


「転ぶか! 少し油断しただけだ。それよりクアトロと、ろりろり姫は?」


「大丈夫ですよ。先に安全な場所まで撤退をいただいています。さあ我々も行きましょうか。魔人も天使もすべて殺して差し上げたいところですが、これだけの数ですときりがないですからね。仕返しは後日ということで……」


 そんなヴァンエディオの言葉とともに皆、撤退を開始するのだった。

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