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魔王の花嫁  作者: yaasan


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怒れるバスガル候

 離脱を表明したバスガル候が治める地域にクアトロたち一行が入るとすぐさま変化が訪れた。


「クアトロ様、アストリア様と共にお下がり下さい」


 ヴァンエディオがそう言って、エネギオスと共にクアトロの前に立ち塞がった。


「転移魔法か」


 クアトロの言葉と同時に、一行の正面にある空間が歪み始める。

 姿を現したのはクアトロと同じ歳ぐらいの若者だった。


「久しぶりだな、グリフォード」


 若者は片膝をついて濃い茶色の頭を垂れている。


「この度は父、バスガルを止められず、申し訳ございませんでした」

「気にするな。それに堅苦しいのは必要ない。立ってくれ」


 クアトロがそう促すと、バスガルは立ち上がり再び一礼をする。クアトロがグリフォードと会うのは、おおよそ一年ぶりだった。


「で、爺さんはそんなに怒っているのか?」


 クアトロの問いにグリフォードは頷いた。


「申し訳ございません。あのような性格なので、一度でも言い出すと手がつけられません」

「まあ、何となく分かるがな。この件に関してはバスガル候を仲間外れにしたヴァンエディオとエネギオスが悪い。この二人に頭を下げさせるから、何とか矛を収めてくれないだろうか」

「あ、クアトロ、お前、俺を売りやがったな」


 エネギオスが抗議の声を上げる。ヴァンエディオは表情を変えずに小さく頷いている。


「私も尽力しますが、あの父のことなので何とも……」

「グリフォードさん、大丈夫です。そのためにマルネロさんにも同行頂いたので」


 グリフォードの言葉を受けてヴァンエディオはそう言うとマルネロに視線を向けた。


「はあ? 何が大丈夫なのよ。私は何もしてないし、面倒に巻き込まれるのは嫌だからね!」


 マルネロが両頬を膨らませる。

 いつも逆切れして自分が面倒を起こすくせに。クアトロはそう思って口を開きかけたが、マルネロに睨まれたので口を閉ざしたままにする。


「父を説得できればよいのですが……」


 グリフォードはそう言ってアストリアに視線を向けた。


「こちらのお方は……」

「アストリアだ。俺の花嫁だ。それと護衛のダースだ」


 アストリアがぺこりと頭を下げる。


「……こ、このお方が噂の……」


 どんな噂だよとクアトロは思う。それにその驚き方は何なんだとも思う。


「ふふん、やっぱりクアトロのあれは有名なのね」


 マルネロが楽しげに言う。

 あれって何だと言おうとしたクアトロだったが、藪蛇になりそうだったので言葉を飲み込んだ。


「ま、まあ、我が城までお送り致します。直に兵たちも合流する手筈になっておりますので……」


 グリフォードがそう言ってクアトロたちを促すのだった。





 程なくしてグリフォードの兵士たちとも合流したクアトロたちは、そのまま足を止めずにバスガル候の居城を目指した。


「確か爺さんの城は城塞都市だったよな?」

「はい。もうすぐ見えてくるかと思います。街全体も城壁の中にありますゆえ……」


 クアトロの問いかけに答えていたグリフォードの言葉がそこで不自然に止まった。

 同時に一行の足も止まる。


「……グリフォードさん、我々をおびき寄せたのでしょうか?」


 ヴァンエディオがいつもの冷酷な口調で問いかける。クアトロたちの眼前には城壁の前で整列する約二万の将兵が広がっていた。


「いえいえ、滅相もないです。私は何も聞いておりません」


 グリフォードが即座に否定する。


「ただ、クアトロ様たちが我らに害をなすと言うのであれば、話は違ってきますが……」


 グリフォードの声が低くなる。


「ほう、最初に動いたのはそちらだと思いますが。それに、これを見てグリフォードさんを信用しろというのも無理な話かと……」


 ヴァンエディオの両目が細くなる。


「止めろ、二人とも!」


 不穏な空気を発し始めた二人をクアトロが止めに入った。


「俺たちは争うためにここに来たんじゃない。ヴァンエディオ、そうだろう? 爺さんを蚊帳の外にしたのを謝罪しに来たんだろう」

「確かにそうですね。ただあの感じでは謝罪を簡単に受け入れてくれるかどうか……」


 ヴァンエディオが言う通り整列する将兵の前で、抜き身の大剣を片手に立つ大柄な者がいる。紛れもなくバスガル候その人であった。


「エネギオス、お前が行ってこい……」

「……一人じゃ嫌だ」


 エネギオスが子供のようなことを言う。


「あの方がバスガル候なのですね。大きな方ですね」


 アストリアが感心したように言う。魔族の中でもかなり大柄なエネギオスよりもさらに二回りは大きいかもしれない。既に老境の域に達しているはずなのだが、その体は萎むどころか以前よりもさらに大きくなってる気がする。


「それではグリフォードさん、まずは我々に謝罪の意思があることを伝えにいって頂きましょうか」

「もっともですね。クアトロ様に戦う意思がないことを伝えてきましょう」


 グリフォードは頷くと、共に来た兵士たちと連れ立ってバスガル候の前に赴いた。


「あ、あの、何か怒ってるみたいですよ。グリフォードさんを怒鳴りつけながら、大きな剣を振り回しているんですけど……」


 クアトロはアストリアの言葉に頷いた。何を言っているのかは分からないが、グリフォードに何事かを言っているバスガル候の馬鹿でかい怒声は聴こえてくる。


「あ、ああ、あれは怒っているな……」

「仕方がありませんね。我々も参りましょう。クアトロ様とアストリア様は後方で。ダースさんもアストリア様の傍にお願いします、先頭は私とエネギオスさんが努めます。マルネロさんは最後尾をお願いします」


 それぞれがヴァンエディオの言葉に頷くと、クアトロたち一行はバスガル候の下へと歩みを進めるのだった。

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