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魔王の花嫁  作者: yaasan


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終焉

 ナサニエルは呆けたように口を開けていた。加えて、片頬も引きつっている。


 それも無理はないだろう。どの程度の味方なのかは知らないが、味方だと思っていた古代種の竜に配下の一人をいきなり食われたのだから。


「こ、こらっ! だ、駄目ですよ! いきなりそんなことをしては!」


 そのような中、慌てた様子で姿を現したのはアストリアだった。


 アストリアは遥か上の位置にある竜の顔に向かって、両手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねている。

 

 どうやら叱っているらしい……。


 今度はクアトロが呆けたように口を開ける番だった。


 アストリアに続いて二体の小鬼も姿を現した。アストリアがぴょんぴょん跳ねているのを見て、小鬼たちもぴょんぴょんと跳ね始める。小鬼たちはなぜか楽しげだ。


 全く状況が分からない……。

 クアトロが周囲を見渡すと、エネギオスたちも唖然とした顔をしている。


 無事な様子はよかったのだが、囚われているはずのアストリアが古代種の竜や、小鬼たちといきなり姿を見せればその反応も当然だった。


 まあ、何だかよく分からないが、アストリアは無事なようだ。ならば、自分がやることは……。


 次の瞬間、クアトロはナサニエルの背後にいた。


「まずは左腕だな」


 ナサニエルの背後でクアトロが長剣を一閃させた。切り離されたナサニエルの左腕が綺麗に宙を舞う。


「貴様!」


 ナサニエルが距離を取ろうと飛びのいた。クアトロは深追いをすることなく、距離を取ったナサニエルに向けて長剣の先端を向けた。


「お前はここで死ぬ」


「ふざけるな! 魔族風情が! 魔人の王に勝てると思っているのか!」


 失った片腕から流れる血を気にも止めようとせず、怒号とともにナサニエルがクアトロとの距離を一気に詰めた。クアトロの懐に入って来たナサニエルに向かって、クアトロが上段から長剣を振り下ろす。


「舐めるな!」


 クアトロが放った一撃はナサニエルが発動した障壁によって弾かれる。ナサニエルは残る右腕をクアトロの胸に向けてくる。


「お前こそ魔族を舐めすぎた。そしてアストリアを怖がらせた。その罪は大きい」


 その声が終わるとともに、伸ばしていたナサニエルの肘から先が鮮血を吹き出しながら床に転がった。ナサニエルの両目がこれ以上ないくらいに見開かれる。

 

 両腕を失い馬耐えがたい痛みがあるはずなのだが、声ひとつ上げないのはさすがと言うべきなのかもしれない。


 頭の隅でクアトロはそう思ったが、だからといって同情する余地はどこにもなかった。


「終わりだな。魔神の刃だ。防ぐ術などない。魔神刀……斬!」


 クアトロの言葉にナサニエルが訪れる運命を察したのか、いやいやと言うように首を左右に振った。

 

 その刹那、ナサニエルの首から上が床にごろりと転がった。


 クアトロは大きく息を吐いて、アストリアに視線を向けた。アストリアが青白い顔で立ち竦んでいる。

 

 できれば誰かを殺す姿をアストリアには見せたくなかった。そんなクアトロの思いが伝わったのか、アストリアはぎこちなく微笑んでクアトロに礼を述べる。


「クアトロさん、助けていただいてありがとうございます」


「いや、俺の方こそ、アストリアに怖い思いをさせてしまった。悪かったな」


「いえそんな……こうして助けてもらいましたし、それに私は大丈夫です」


 アストリアはそう言って微笑む。その微笑みは、まだぎこちないように感じられた。


「ろりろり姫、無事か?」


 大剣を肩に担いだままでエネギオスが近寄って来る。


「で、あの竜と一緒なのはどういうことなんだ?」


 もっともなエネギオスの言葉だった。


「それが……友達になって……助けてもらった……でしょうか?」


 アストリアは小首を傾げながら言う。


「はあ?」


 エネギオスは間の抜けた声を上げる。アストリアの背後では、まだ二体の小鬼が、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねている。


「何、馬鹿みたいな声を出さないでよ。小鬼と同じで竜を使役したってことでしょう?」


 マルネロが話に割り込んできた。


「でも、そんなことはどうでもいいわ。アストリア、無事でよかった。心配していたのよ。すぐに助けてあげられなくてごめんね」


 マルネロの言葉にアストリアは無言で首を左右に振った。


「アストリア様! 申しわけございません」


 今度はダースが駆け寄って来て、床に片膝をつけて頭を下げる。


「ダース卿、あなたが謝る必要はありませんよ。それに、こうして皆さんで助けに来てくれたじゃないですか。頭を下げるのは私の方です。皆さんも、本当にありがとうございました」


 アストリアが皆に頭を下げる。


「すごい大きな竜なのー」

 

 スタシアナが口をあんぐりと開けて、竜を見上げている。


「そうですわね。それにかなり凶暴そうな顔をして……」


 隣ではエリンがスタシアナに同意している。


「アストリア、これ王宮で飼うのですかー?」


 スタシアナが無邪気な様子で、そんなことをアストリアに訊いてくる。


「いえ、さすがに飼うことはできないかなと……」


「えーそうなのー?」


 アストリアに否定されて、スタシアナはどこか不服そうだった。


 こんな馬鹿でかい竜を王宮に置く場所などない。

 そう思ってクアトロは苦笑する。それに古代種の竜と天使は敵同士だったような……。


「それにしてもアストリア様、竜を使役するとはさすがでございます」


 今度はダースがアストリアを微妙な角度から褒め始めた。


「使役といいますか……友達でしょうか」


 アストリアもどこか的の外れた言葉を返している。


「そもそも竜を、それも古代種の竜を使役できるのか?」


 クアトロはもっともな疑問を口にした。


「アストリア様だからできるのだ!」


 ダースが胸を張ってよく分からないことを言っていたが、クアトロはそれを無視することにする。

 

「竜も魔獣ですからね。前例がないだけで、小鬼を使役できるのであれば、同じように使役できる可能性はあるでしょうね」


 ヴァンエディオの言葉にそんなものなのかと思うクアトロだったが、そんな単純な話ではない気もする。


「まあ、いいんじゃないの? どうせクアトロには考えても分からないんだし、アストリアは無傷。そして、皆も無事だったんだから」


 マルネロが明るい声でそう言った。


 どうせ考えても分からないには引っかかるものがある。だが、マルネロの言う通りで、アストリアを含めて皆が無事だったのは単純に喜んでいいことだった。


 そのような中で急にエネギオスが怒ったような声を張り上げた。


「おい、マルネロ、俺はどうなる? こいつと戦うつもりだったんだぞ。お前らばかり魔人と戦いやがって、ずるくないか?」


 上から自分たちを覗き込むようにしながら、こちらを見ている古代種の竜をエネギオスが指さしている。

 

「はあ? ずるいって何よ。私も好きで戦ったわけじゃないのよ!」


 マルネロが当然ともいうべき反論をする。


「俺だけじゃない。外には魔族の将兵一万がいるんだぞ。皆、魔人と戦うのを楽しみにしていたんだ」


「楽しみって、何なのよ? 魔族って皆、筋肉ごりらの馬鹿なわけ?」


「あ、同族を馬鹿にしやがった」


「馬鹿になんてしてないわよ! 馬鹿なのかって訊いたんでしょう?」


「あ! また馬鹿にしやがった!」


 不毛な会話を繰り返しているマルネロとエネギオスは放っておくことにする。クアトロは改めてアストリアに視線を向けた。

 

 アストリアはそんな視線を感じ取って、クアトロに少しだけ笑顔を見せた。


 アストリアが古代種の竜を使役できた理由もそうだが、なぜ魔人がアストリアを連れ去ったのか。


 分からないこともまだあるのだが、取り敢えずは皆が無事でよかったとクアトロは改めて思う。


「クアトロ様、私のことも少しは褒めて下さいよ。私、頑張ったんですよ」


 綺麗にまとめようとしていたクアトロを嘲笑うかのように、トルネオがクアトロの下へとやって来た。その手には妙な物を握りしめている。


 最早、嫌な予感しかしない。


「あ、あの、トルネオさん、その手にあるのは……」


 アストリアの顔が引き攣る。


「あ、これですか? いやあ、珍しいでしょう。魔人の片腕です。この骨で骸骨兵をですね……」


 アストリアの叫び声が周囲に響き渡るのだった。

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