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魔王の花嫁  作者: yaasan


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ヴァンエディオとトルネオ

 小声でうぎゃうぎゃ言いながら、二体の小鬼はパラン神殿内の長い回廊を進んでいた。胸の内には、自分たちが敬愛する女王から託された伝言があった。


 それを魔族の王とやらに伝えなければいけないのだ。二人はその使命感で燃えており、それを象徴するかのようにその鼻息も荒かった。


 やがて長い回廊が終わり、大きくひらけた場所に二人は出た。そこは天井がなく中庭といった趣きである。そこを小鬼たちは進んで行く。


 周囲は僅かな月明かりだけで視界は悪い。逆に視界の悪さが幸いして小声とはいえ、うぎゃうぎゃと計画なしに歩く小鬼たちの身を図らずも隠しているようだった。


 不意に左手の小鬼が足を止めた。右手の小鬼が訝しげな顔で隣の小鬼を見る。


 足を止めた小鬼は、今さらだが自分たちの眼前に巨大な影があることに気がついたのだった。近づく小鬼たちを察したのか、その巨大な影が大きく動いた。


 巨大な影の頭らしき部分が、小鬼たちの眼前に突き出された。たちまち二体のス小鬼は腰を抜かしたようにその場でへたり込んでしまう。


 へたり込んだ小鬼たちの眼前にあった顔は、薄暗い月明かりに照らされた古代種の竜であった。





「言い伝えに出てくるぐらいの古い建物なのですが、外見も中も荒れ果てた印象はないようですね」


 神殿内に入ると、ヴァンエディオが周囲を見渡しながらそう言った。先頭を歩くスタシアナが持っている杖の先には光の魔法が灯されており、それが周囲を明るく照らしている。


 確かに真新しいとまでは言わないが、神殿の外も中も不思議と荒れ果てた様子が一切ない。


「特殊な魔法がかけられているのでしょうね」


 不死者の王、トルネオがそう言った。


「ふむ。興味深いですね。我らが知らない魔法がまだまだあるとは」


 ヴァンエディオがそこまで言った時だった。光が届かない暗闇の向こうから声が飛んで来た。


「建物の観察とは随分と余裕だな。魔族の分際で魔人に喧嘩を売りに来といて」


「喧嘩を売りに? 喧嘩を買いに来たの間違いでしょう。言葉は正確に使って下さい。それとも魔人は頭が悪いのですか?」


 ヴァンエディオが暗闇に向かって言葉を返す。


「随分と口が達者な魔族だな」


 舌打ちとともに二人の魔人が暗闇から姿を現した。二人とも中肉中背の魔人で剣や杖などは携えていなかった。


「お前らかナサニエル様が言っていた魔族か? 魔族の王だか何だかしらないが、その人数でここに来るとは、お前らこそ馬鹿なんじゃないのか?」


 片方の魔人がそう言った。


「ナサニエル? あの魔人はそう言う名前なのですね。早速の情報、ありがとうございます」


 ヴァンエディオはそう言って、慇懃に一礼をして見せる。


「さっきから魔族のくせに腹立つ感じだな、お前」


 魔人の一人が怒りのこもった声を上げた。


 確かにヴァンエディオの物言いは、人を苛立たせる響きがあるとクアトロは常々思っていた。ここはヴァンエディオには申しわけないが、その魔人に激しく同意するところであった。


 魔人の言葉にうんうんと頷くクアトロを見て、一瞬だけヴァンエディオが情けなさそうな顔をする。


「クアトロ様、おふざけもそれぐらいにして下さい」


 ヴァンエディオはそう言うと、再び魔人に視線を向けて言葉を続けた。


「魔族の分際、魔族のくせに。語彙力の貧困さは置いておくとしても、魔人ごときに言われる筋合いはないですね」


「あ? 下位眷属の魔族が何を言ってやがる?」


 魔人の一人がもはや怒気を隠そうともせずにそう言い放った。


「その語彙力のなさ、地回りのヤ○ザ並ですね」


 ヴァンエディオは溜息混じりでそう言うと、クアトロに赤い瞳を向けた。


「クアトロ様。ここは私とトルネオさんで引き受けます。皆さんは先に進んで、アストリア様の下へ急いで下さい」


 クアトロとダースが黙って頷く。それを見てヴァンエディオは再び口を開いた。


「エネギオスさん、あとは頼みましたよ」


「誰に物を言っている? 俺は四将の筆頭だぜ?」


 エネギオスが僅かに口元を歪めた。


 皆がヴァンエディオとトルネオを残して歩みを進め始めると、魔人の一人が怒声を放った。


「馬鹿か、てめえら! そのまま行かせるかよ、てめえら全員、ここで死ぬんだよ!」


 魔人は何もない空間から長剣を取り出すと、地面から少し浮いた状態で一気に滑るようにクアトロたちとの距離を詰めた。


 しかし、直前で見えない障壁によって阻まれる。


「見事ですね。トルネオさん」


「お褒めいただいて光栄ですね」


 トルネオはそう言って、障壁魔法を発動するために伸ばしていた骨だけの片手を下ろす。


「ちっ、障壁魔法か?」


「こんな魔法に気づかないとは、やはり魔人は頭が悪いのですね。語彙力のなさも頷けます。空間魔法や浮遊魔法を操れるのは見事ですが、それだけですと手品と変わらないですね」


 ヴァンエディオが淡々と言う。


「てめえ、そこの骸骨と一緒にぶっ殺す!」


 魔人が怒声を放つ。額に太い血管が膨れ破れるばかりに浮かび上がっていた。


「我が主に対する数々の非礼……その贖罪として、死んでも消えない恐怖というものを与えて差し上げますよ」


 ヴァンエディオの後方で控えていたトルネオが重々しくそう宣言した。


 いつもは深く被っているはずの頭巾は外していて、薄暗い中で骨だけの頭が禍々しいまでに白く、そして鈍く光っていた。


「では行きますよ、魔人の皆さん」


 ヴァンエディオはそう言って左右の口角を持ち上げて笑った。

 その顔はまさに巷で言われる魔人の笑みだった。





 「残して来てしまったが、ヴァンエディオとトルネオは大丈夫なのだろうか?」


 神殿内で歩みを進める中、ダースがぽつりとそう言った。


「そうよね。特にあの変な骸骨、大丈夫かしら?」


 エリンも同調して頷いている。

 そう言われると、クアトロも不安になってくる。ヴァンエディオの実力は知っているので、相手が魔人といってもその一人や二人に遅れをとるとは思えない。


 ただあのおっさん骸骨は大丈夫だろうか。不死者の王などと大層な名前で呼ばれていたが、今ではいつも犬に足を齧られている面白骸骨になっているのだ。


「ヴァンエディオは大丈夫だろうよ。あれでいて化け物並の強さだ。ま、俺よりは弱いけどな」


 エネギオスがそう言って豪快に笑う。


「ぼくはトルネオも大丈夫だと思いますよー。二百年もの間、誰にも浄化されないで、不死や魔法の研究をしてきた不死者ですからね。二百年の間、浄化されつことがなかった。それだけでも大したものなんですよー」


 先頭をとてとてと歩くスタシアナがそう言う。


 二百年の間、不死や魔法の研究……不死亀虫とふざけて遊んでいたわけではなかったのかとクアトロは思う。


「そういうものなのかしら。私もあの骸骨が強いとは思えないわよ」


 マルネロも同じく不安を覚えているようだった。


「あら、ならそこの爆乳第百夫人が残ればよかったのに。使いどころがない残念おっぱいで、ばいーん、ばいーんって張り倒した方が早かったのではなくて?」


「エリン! あんたねえっ!」


 マルネロの怒声が飛んでその人差し指に炎が灯るのと、エリンがスタシアナに頭を叩かれるのは同時だった。

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