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魔王の花嫁  作者: yaasan


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アストリアの覚悟

 「で、どうするのですか、クアトロさん?」


 アストリアが尋ねる。先程の男たちはもう別の話題で盛り上がっているようで、クアトロたちには目もくれなかった。


「天使が降臨して、聖戦のための兵を集めていることは間違いないな。後はその天使が本物かどうか、そして聖戦を口にしたのかだが……」

「流石にそれを確かめるのは難しいわよね」


 マルネロがそう言葉を返す。アストリアは少しだけ考える素振りを見せると、スタシアナに向かって疑問を口にした。


「スタシアナさん、天使はどこに降臨するものなのですか?」


 その問いにスタシアナは、こてっと首を傾げる。相変わらず可愛らしいスタシアナだった。クアトロはそれを見ながら、うんうんと頷く。あまりにスタシアナが可愛らしくて涙が出てきそうだった。

 その思いを感じたのか、マルネロが呆れた目でクアトロを見ている。


「降臨する場所は特に決まっていないですよ。でも、大体は教会ですよね。自分たちを崇めている場所ですから。そこに現れた方がそれっぽいじゃないですかー」

「……それっぽいですか。では、今回の天使様も教会にいる可能性が高いのかもしれませんね」

「そうね。例え違う場所に現れたとしても、まずは教会に連れていかれるって考えるのが自然よね」


 マルネロは頷きながら言うと、更に言葉を続ける。


「既に言うだけ言って、天界に帰ってしまったってこともあるかもしれないけどね」


 マルネロはそう言うとスタシアナに目を向けた。


「ここの堕天使みたいに地上に残って、更に魔族のところに来る天使なんて、相当希少でしょうからね」

「えへへ。ぼくはクアトロが大好きですからねー」


 スタシアナの言葉にアストリアが複雑そうな顔をする。


「目当ての天使は教会だろうな。この王都にはダナ教の総本山があるからな」


 クアトロの言葉にマルネロが頷いて更に口を開いた。


「もしくは王宮かしら?」

「よし。明日はダナ教の総本山に行くか」

「えーっ!」


 クアトロがそう言うと、トルネオが奇声のような言葉を発した。クアトロはうんざりとしながら、仮面をつけているトルネオに顔を向ける。


「教会はいやですよ。わたし、浄化されちゃうかもしれないじゃないですか」

「いやトルネオ、お前はもういいから。もう浄化されて来い」


 えーっとばかりにトルネオがのけぞる。いちいちその反応に腹が立つ。


「いやですよ、クアトロ様。そんな冷たいことばかり言って」


 トルネオはそう言いながら、頭を左右に振り始める。頭頂部についた長い羽根飾りが右へ左へと揺れている。

 殺意とはこういう感情なのだと改めて思うクアトロだった。





 アストリアは短く溜息を吐くと寝台の端に腰を下ろした。安い宿屋の狭い一室だったが、室内は清潔に保たれていた。スタシアナは疲れたのか端に置かれたベッドの上で既に寝息を立てていた。

 アストリアやスタシアナと同室のマルネロが近づいて来て、アストリアの横に腰を下ろした。


「どうしたの、アストリア? スタシアナの顔を見て溜息なんかついて」

「あ、いえ、とても可愛い子だなと思って」


 アストリアはそう言いながらもう一度、スタシアナに深緑色の瞳を向ける。柔らかそうな金色の長い髪と白い顔。今は閉じられているがその長い睫毛や青い瞳。宮廷の画家が天使の絵を想像で描くのならば、スタシアナによく似た顔が描かれてしまっても不思議ではないと思う。


「まあ、そうね。悔しいけど造形物としては完璧よね。そのあざとい性格は置いといて」

「マルネロさん……」


 スタシアナがマルネロの言葉に苦笑する。


「でもアストリア、あなただって相当なものよ。あのろりこん大魔王が見初めただけのことはあるわよ。だからあまりそう言うことは言わない方がいいわね」


 マルネロはそう言って微笑む。ここで否定をするのもどうかと思い、スタシアナは再び苦笑を返した。


「でもアストリア、本当に良かったの? 今回、一緒について来て。これはもう戦争なのよ。魔族と人族のね」


 アストリアはマルネロが自分に向けている魔族特有の燃えるような赤い瞳を見つめて、ゆっくりと頷いた。


「これから誰かが死ぬのかもしれない。いえ、戦いになったら魔族や人族がたくさん死ぬわ。私たちは魔族の皆が殺されないように沢山の人族を殺すことになるの。あなたの同族たちが私たち魔族に殺されるのを見ても、あなたはそれまでと変わらないでいられる?」


 これからもクアトロの傍にいるのであれば、その覚悟を持ちなさいとマルネロが言っているのだとアストリアは感じていた。


「覚悟はしています」


 アストリアはゆっくりと頷いた。


「ただそれでも、魔族と人族ができることなら争わないでいられるように、皆さんと頑張るつもりではいます」

「アストリアはいい子ね」


 マルネロはそう言って、アストリアの明るい栗色の頭をぽんぽんと叩く。


「私もクアトロも人族と争いたいとは思っていないわ。だから大丈夫。そのために私たちはここに来たのだから」


 マルネロはそう言ってアストリアに微笑んだ。それを見てアストリアは黙って頷く。

 クアトロたちが人族に害をなそうとする時、自分はクアトロたちの側に立てるのだろうか。クアトロたちが自分に縁がある者に害をなそうとする時、自分はクアトロたちの側に立てるのだろうか。


「マルネロさん、私は何があってもクアトロさんの味方です」

「味方ねえ……」


 マルネロはそう言って短い息を吐き出した。


「最近、同じことを言っていたのがいたわね。あんな馬鹿ちん王のどこがいいんだか」


 マルネロはそう言って苦笑を浮かべると、再びスタシアナの頭をぽんぽんと優しく叩くのだった。

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