表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の花嫁  作者: yaasan


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/106

トルネオの秘密道具

「トルネオさん、いきなり失礼ですよ」


 隣のアストリアが、さすがにトルネオを諌めている。


 十二歳の少女に怒られる齢二百年だか、四百年だかの骸骨ってどうなのだろうか……。

 クアトロとしては呆れる思いだった。


「いやあ、だって皆さん楽しそうにしているから。私も皆さんの仲間ですからね」


 いやいやこの居候骸骨、いつから仲間になったのだろうか。

 図々しいにも程があるだろう。


「トルネオさん、今は大事な話をしていたのですよ」


 ヴァンエディオがトルネオにやんわりと注意をする。だが、そんなことを気にするトルネオではないようだった。


「ほう、大事な話ですか。じゃあ、あれですかな……天使降臨」


「ほう……」


 ヴァンエディオが呟く。その端正な顔に冷たく鋭利なものが浮かんだ。


「いやいやヴァンエディオさん、そんな怖い顔をしないで下さいよ。たまたまですよ。配下の不死亀虫が、私に教えてくれましてね」


 不死亀虫って……。


 あまりりにふざけているので、言うのも面倒になってクアトロは言葉を飲み込んだ。


「そうなのですね。トルネオさんは、色々と情報網をお持ちのようで」


「まあ、二百年の間、特にやることもありませんでしたからね。あちらこちらに不死亀虫を放って、遊んでいた感じでして」


 トルネオはそう言って胸を反らす。二百年もの時を無為に過ごしてきた骸骨が、無為に過ごしてきたそのことを誇っている。

 

 この骸骨がいると本当に疲れると思うクアトロだった。


「ヴァンエディオさん、天使降臨とは、一体どういうことなのでしょうか?」


 アストリアが疑問を口にした。


「エミリー王国に天使が降臨し、聖戦を命じたとのことです」


「天使様……聖戦……」


 言葉を繰り返しながら、アストリアは信じられないといった表情をしている。


「エミリー王国は、特に神や天使への信仰が厚いと聞きます。そこに天使が現れて聖戦を命じたとなれば、それを無視するような真似はしないかと」


「確かにそうですね。ですが、天使様の降臨も俄には信じられないのに、聖戦となると……」


「そうね。だから、それを確かめて来ようかなって」


 マルネロが赤い瞳をアストリアに向けながら、さらに言葉を続けた。


「天使が嘘なのか、聖戦が嘘なのか。全てが嘘なのか……あるいは全てが本当なのかね」


「マルネロさん……全てが本当だったら?」


「そうね……数百年ぶりの魔族と人族との大きな争いになるでしょうね」


 あっさりと言い放つマルネロの言葉を聞いて、アストリアは表情を沈めてしまう。


「アストリア、落ち込むのは早い。だからそれを確かめにいくのだ」


 そんなアストリアを見てクアトロは口を開いた。


「クアトロさんも行くのですか?」


「そのつもりだ。ヴァンエディオは反対のようだが……」


 クアトロはそう言ってヴァンエディオの顔を伺う。ヴァンエディオの顔には、すでに諦めに似たものが浮かんでいるようだった。


「では私も行きます」


「アストリア様、危険では!」


 アストリアが決意を込めた様子で言うと、ダースがすかさず止めに入った。そんなダースにアストリアが視線を向けた。


「人族の国に行くのであれば、私やダース卿がいた方が何かと都合がいいはずです」


「いいんじゃない、ダース。アストリアも行きたいと思うわよ。それに魔族の王がいて、四将の二人がいて、護衛の騎士までいるのよ。危険なことなんてないわよ」


 意外にマルネロはアストリアを援護するつもりのようだった。


「は、はい……」


 マルネロにそこまで言われてしまうと、ダースにも返せる言葉はないようだった。


「それよりも私とクアトロが、魔族だって知られることなく、エミリー王国に潜入できるのかを心配するべきかもね」


「そうですね。エミリー王国はダナ教が盛んで信徒も多いと聞きます」


 アストリアがマルネロの言葉に頷いている。


「ダナ教は、極端な魔族排斥主義だもんね」


 マルネロが少しだけ顔を歪めた。それも無理はなかった。魔族排斥主義と言われれば、魔族としてはかなり気に入らない部類に入る宗教である。


「エミリー王国はほぼ純粋な人族で占められていますから、その赤い瞳では目立ってしまいますよね」


 アストリアの言葉にクアトロは無言で頷いた。確かに王国へ紛れ込んでの情報収集は、簡単にはいかないのかもしれない。


「おやおや、何やらお困りのようですな」


 トルネオが、ずずいっと話に割り込んでくる。


「ふむふむ。魔族特有の赤い瞳が問題だと」


 誰も何も言ってはいないのに、トルネオが勝手に話を進め始める。


「そんなお困りのあなたに、お勧めの秘密道具があります」


 トルネオはそう言うと、某所から訴えられそうな節をつけながら、とあるものを取り出した。そうまるで猫○ろぼっとのように。


「たらた○った○ー! さんぐらすー」


 皆、トルネオが得意げに取り出した黒い物体を凝視する。


「これは西方の某所から伝わった舶来品です。両耳に引っかけ、鼻に載せて装着する道具なのですよ。そしてこれをつけると、何と瞳の色が外から見えなくなるのです!」


 トルネオはそう言って。自分の顔にさんぐらすとやらを装着する。が、骸骨なので耳も鼻もなく……。


 皆、何となく気まずさを覚えて視線を逸らす。


 トルネオは軽く咳払いをして、さんぐらすをクアトロに差し出した。


 クアトロはそれを受け取って、顔につけてみる。確かに黒の半透明なので、外側からは目の色など見えないのだろうが……。


「それ……駄目ですよね」


 トルネオがあまりに得意げだったためか、アストリアが申しわけなさそうに言う。


「え? 何でですか?」


「え? そんなものを使っている人なんていないので、かえって変に目立ってしまうかと……」


「……」


 トルネオは無言でクアトロからサングラスを受け取ると、無言でそれをしまい込む。


「まあ……色々あるとは思いますが、エミリー王国でダナ教が盛んだと言っても、魔族の血を引く人族が全くいないわけではないかと。なので、私は大丈夫だと思いますよ」


 あ、一般論で無理矢理まとめやがった……。

 どうやらトルネオは、今の一件をなかったことにしようとしているらしい。


「さあ、とりあえず皆さんで行くとしましょうか」


 トルネオはそう強引に話をまとめてしまうのだった。





 「で……何で、お前までいるんだ?」


 エミリー王国の王都マカティアで、クアトロは隣のトルネオに向かってそう言った。


「しかも、そんな変な仮面までつけて」


「嫌ですよ、変だなんて、クアトロ様。ワタシが仮面をつけないでこんな所にいたら、大騒ぎになるじゃないですか」


 言われるまでもなく、骸骨が街中にいたら騒ぎになるだろうとクアトロも思う。


 しかし、だからといってその派手で、とんちきな仮面は何なのだろうか。仮面なんぞをつけていれば、ただでさえ人目を引くというのに、その仮面が奇抜で奇妙なものであれば尚更だ。


「隠そうとして中途半端にしてしまうと、逆に怪しいですからね。やるのであれば、徹底的にといった方がいいのですよ」


 トルネオはよく分からない理屈を言って、頭を左右に振る。そうすると、仮面の頭頂部につけている長い羽飾りも右に左にと揺れる。それを見せられていると、馬鹿にされている気がして腹が立ってくる。


「ト、トルネオさん、逆に目立っていますよ」


 アストリアがそう言っても、トルネオは頭を左右に振る奇妙な動きを止めようとしない。


「目立つぐらいがいいのです。まさか、こんな目立つ格好をしているのが、不死者の王なんて誰も思わないでしょうから」


「は、はい……」


 いやいや違うぞ、アストリア。何を納得しているんだ。隠したいのは俺やマルネロが魔族だということであって、不死者の王を隠したいわけじゃない。

そもそもトルネオがついて来なければ、それを隠す必要はないのだ。

 

 スタシアナはどこかこの状況を楽しんでいる節があるし、マルネロやダースは呆れてこのことには触れたくないといった感じだった。


 何かまた頭が痛くなってきたと思うクアトロだった。


「情報を集めるのなら、冒険者組合かしらね」


 この状況を完全に無視すると決め込んだらしいマルネロがそう提案する。


「そうですね。冒険者なら情報通も多いでしょうからね。さ、行きましょうか」


 奇妙な仮面をつけたトルネオが、そう仕切って皆を促したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ