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魔王の花嫁  作者: yaasan


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トルネオの秘密道具

「トルネオさん、いきなり失礼ですよ」


 隣のアストリアが流石にトルネオを諌めている。十二歳の少女に怒られる齢二百年だか、三百年だかの骸骨ってどうなのだろうかとクアトロは思う。


「いやあ、だって皆さんが楽しそうにしているので。わたしも皆さんの仲間ですからね」


 いやいやこの居候骸骨、いつから仲間になったのだろうか。図々しいにも程があるだろう。


「トルネオさん、今は大事な話をしていたのですよ」


 ヴァンエディオがトルネオをやんわりと諌める。


「ほう、大事な話ですか。じゃあ、あれですかね……天使降臨」

「ほう……」


 ヴァンエディオが呟く。その端正な顔に冷たく鋭利なものが浮かんだ。


「いやいやヴァンエディオさん、そんなに怖い顔をしないで下さいよ。たまたまですよ。たまたまです。配下のゾンビカメムシがわたしに教えてくれましてね」


 ……ゾンビカメムシって。


 余りにふざけているので言うのも面倒になって、クアトロはその言葉を飲み込んだ。


「……そうですか。トルネオさんは色々と情報網をお持ちのようで」

「まあ、二百年以上の間、特にやることもありませんでしたからね。あちらこちらにゾンビカメムシを放って遊んでいた感じでして」


 トルネオはそう言って胸を反らす。二百年もの時を無為に過ごしてきた骸骨が、無為に過ごしてきたそのことを誇っていた。

 この骸骨がいると本当に疲れるとクアトロは思う。


「ヴァンエディオさん、天使降臨とは一体どういうことなのでしょうか?」


 アストリアが疑問を口にした。


「エミリー王国に天使が降臨し、聖戦を命じたとのことです」

「天使様……聖戦……」


 ヴァンエディオの言葉を繰り返して、アストリアは信じられないといった表情を浮かべている。そのような顔のアストリアも美しかったのだが、皆に怒られそうなのでクアトロは感想を口にはしない。


「エミリー王国は特に神や天使への信仰が厚いと聞きます。そこに天使が現れて聖戦を命じたとなれば、それを無視する流れにはならないかと」

「そうかもしれませんね。ですが天使様の降臨も俄には信じられないのに、聖戦となると……」

「そうね。だからそれを確かめて来ようかなって」


 マルネロが赤い瞳をアストリアに向けて言う。


「天使が嘘なのか、聖戦が嘘なのか、全てが嘘なのか……あるいは全てが本当なのかね」

「マルネロさん……全てが本当だったら?」

「そうね……数百年ぶりになる魔族と人族との大きな争いになるでしょうね」


 マルネロの言葉を聞いて、アストリアの表情に暗い影が差す。


「アストリア、落ち込むのは早い。だから、それを確かめに行くんだ」

「クアトロさんも行くのですか?」

「そのつもりだ。ヴァンエディオは反対のようだがな」


 クアトロはそう言ってヴァンエディオの顔を伺う。ヴァンエディオの顔には諦めに似たものが浮かんでいるようだった。


「では、私も行きます」

「アストリア様、それは危険では」


 アストリアが決意を込めた様子でそう言うと、ダースがすかさず止めに入った。


「人族の国に行くのであれば、私やダース卿がいた方が何かと都合がいいはずです」

「いいんじゃない、ダース。人族としてアストリアも行きたいと思うのは当然よ。それに魔族の王がいて、四将の二人がいて、護衛の騎士までいるのよ。大丈夫よ。危険はないわ」

「は、はい……」


 マルネロにそこまで言われてしまうと、ダースにも返せる言葉はないようであった。


「それよりも私とクアトロが魔族だって知られずに、エミリー王国に潜入できるのかを心配するべきかもね」

「そうですね。エミリー王国はダナ教が盛んで信徒も多いと聞きます」


 ダースもマルネロの言葉に頷く。


「ダナ教は極端な魔族排斥主義だものね」


 マルネロがそう言いながら少し顔を歪めた。その顔から分かるように、魔族のマルネロとしてはかなり気に入らない部類に入る宗教である。


「エミリー王国はほぼ純粋な人族で占められていますから、その赤い瞳では目立ってしまいますよね」


 アストリアの言葉にクアトロは無言で頷いた。確かに王国へ紛れ込んでの情報収集は簡単にいかないかもしれない。


「おやおや、何やらお困りのようですな」


 トルネオが、ずずいっと話に割り込んできた。


「ふむふむ。魔族特有の赤い瞳が問題だと」


 誰も何も言ってはいないのに、トルネオが勝手に話を進め始める。


「そんなお困りのあなたに、お勧めの秘密道具があります」


 トルネオはそう言うと某所から訴えられそうな節をつけながら、とある物を取り出した。

 そう。まるで猫○ろぼっとのように。


「たらた○った○ー! さんぐらすー」


 トルネオが得意げに取り出した黒い物体を周りの皆が凝視する。


「これは西方の某所から伝わった舶来品です。耳に引っかけて、鼻に載せて目に装着する道具なのですよ。そして、これをつけると何と瞳の色が外から見えなくなるのです!」


 トルネオはそう言って、自分の顔にそのさんぐらすとやらを装着しようとした。が、骸骨なので耳も鼻もなく……。


 皆、何となく気まずさを覚えて視線を逸らす。


 ……トルネオは軽く咳払いをして、さんぐらすをクアトロにさしだした。


 クアトロはそれを受け取って付けてみる。確かに目の前が黒の半透明で覆われるので外側からは目の色など見えないのだろうが……。


「……それ、駄目ですよね」


 トルネオがあまりに得意げだったためか、アストリアが申し訳なさそうに言う。


「え、何でですか?」

「え? いえ、そのような物のをつけている人なんていないので、かえって目立ってしまうかと……」

「……」


 トルネオは無言でクアトロからさんぐらすを受け取ると、何事もなかったかのようにそれを再びしまい込む。


「……まあ色々あるとは思いますが、エミリー王国でダナ教が盛んだと言っても、魔族の血を引く人族が全くいないわけではないでしょう。ですから、わたしは大丈夫だと思いますよ」


 あ、一般論で無理矢理まとめやがった。何かトルネオ、今の一件をなかったことにしようとしている。クアトロはそのようなトルネオの様子を見ながら心の中でそう呟く。


「さあ、とりあえず皆さんで行くとしましょうか」


 トルネオはそう強引に話をまとめるのだった。





 「……で、何でお前までいるんだ?」


 エミリー王国の王都マカティアで、クアトロは隣のトルネオに向かってそう言った。


「しかも、そんな変な仮面までつけて」

「嫌ですよ、変だなんて、クアトロ様。わたしが仮面をつけないでこのような所にいたら、大騒ぎになるじゃないですか」


 言われるまでもなく、こんな骸骨が街中にいたら騒ぎになるだろうとクアトロも思う。しかし、だからと言ってその派手でとんちきな仮面は何なんだと思う。仮面なんぞをつけていれば、そうでなくても人目を引くというのに。その仮面が奇抜で奇妙なものであれば尚更だ。


「隠そうとして中途半端にしてしまうと逆に怪しいですからね。やるのであれば、徹底的にやる方がよいのですよ」


 トルネオはよく分からない理屈を言って、頭を左右に振る。そうすると仮面の頭につけている長い羽飾りも右に左にと揺れる。それを見せられていると馬鹿にされている気がして、腹が立ってくる。


「ト、トルネオさん、逆に目立っていますよ」


 アストリアがそう言っても、トルネオは頭を左右に振る動きを止めようとしない。


「目立つぐらいがいいんですよ。まさか、こんな目立つ格好をしているのが不死者の王だなんて誰も思わないでしょうから」

「は、はい……」


 いやいや違うぞ、アストリア。何を納得しているんだ。隠したいのは俺やマルネロが魔族だということであって、不死者の王を隠したいわけじゃない。そもそもトルネオがついて来なければ、それを隠す必要はないのだ。

 

 スタシアナはどこかこの状況を楽しんでいる節があるし、マルネロやダースは呆れていて、このことには触れたくないといった感じだった。何かまた頭が痛くなってきたと思うクアトロだった。


「情報を集めるのなら、冒険者組合かしらね」


 この混沌とした状況を完全に無視すると決め込んだらしいマルネロがそう提案する。


「そうですね。冒険者なら情報通も多いでしょうからね。さ、行きましょうか」


 混沌の中心である奇妙な仮面をつけたトルネオが、そう仕切って皆を促すのであった。

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