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魔王の花嫁  作者: yaasan


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不死者の王2

「こ、これはいささか乱暴なお話で驚きましたな。何も得がないのにも関わらず、私が一国の皇女を害した者になれと」

「お前に得がないのは分かっている。だからこうして頼んでいる」

「いやいや、無茶苦茶な話かと。もし拒否したら?」

「燃やす」

「浄化です。びよーんです」


 マルネロとスタシアナが即答する。


「も、燃やすって……。いや、それではまるで、たちが悪いや○ざと同じでしょう。脅しじゃないですか。地回りのや○ざよりもたちが悪い」

「脅しではないぞ。頼んでいるんだ」

「はあ? いい加減にしろ。そういうのを脅しと言うんだ!」


 トルネオが語気を荒げて立ち上がった。


「不浄な存在のくせにうるさいのです。もう浄化するんですよー。消滅!」


 スタシアナが両手を前に差し出す。たちまちトルネオが金色の光に包まれる。


「ち、ちょっと待って。き、消えてしまう。消えちゃうから!」


 トルネオが悲鳴を上げる。


「待て、スタシアナ! マルネロ、止めるんだ」


 マルネロが慌てて立ち上がり、スタシアナを羽交い締めにする。


「き、消えかかりましたよね。私、今、びよーんって消えかかりましたよね。びよーんって問答無用で消そうとしましたよね?」


 魔法の発動を途中で止めたため、急速に薄れていく金色の光の中でトルネオが叫び声を上げている。


「い、いや、そんなことはないぞ」


 トルネオの余りの剣幕に、クアトロは視線を逸らして取り敢えずそう言ってみた。実際は上半身が消えつつあったのを見たような気がする。


「いや、いや。消えかかっていましたよ。今、意識が飛びましたよ。死んだ母親が川の向こうで手招きしているのを見ましたよ!」


 いや、お前は既に死んでいるのだから、その感想はおかしくないかとクアトロは思う。


「あんたら、頭がおかしいんじゃないか? いきなり人の所にやって来て、言うことを聞かなければ消そうとするなど!」

「あらあら、なんか地が出てきたみたいだけど」

「当たり前だ。消されかかったんだぞ。死にかかったんだぞ!」


 トルネオはマルネロの言葉に反論する。

 いやいや、だからお前は死んでいるだろう。

 クアトロは心の中で呟く。


「クアトロさん、私たち、かなり酷いことをしている気が……」


 ダースもアストリアの言葉に、うんうんと頷いている。


「酷いだと? 当たり前だ! 酷いなんてもんじゃない。不死者の王を脅すなどと、人が下手に出ていれば舐めおって!」


 トルネオはそう叫ぶと両手を上に挙げた。やがてトルネオの姿が歪み始め、ゆらゆらと消えて行く。


「転移魔法か。面倒な魔法を使う奴だ。逃げたのか?」


 すると建物の外からトルネオの笑い声が聞こえる。


「はっはっはっは。この不死者の王、トルネオに対する傍若無尽な行いの数々。後悔するがよい。死んだ後は不死者として復活させ、この不死者の王が永遠に使役してくれるわ!」

「ク、クアトロさん、もの凄く怒って、外で何かもの凄く怖いことを叫んでいるんですけど……」


 アストリアが顔を引きつらせながらそう言う。


「い、いや、アストリア様、あれでは流石に怒りますよ……」


 ダースも呆れた様子でアストリアに同調している。


「仕方ない。外に行くぞ」


 クアトロはそう言って、やれやれ面倒なことになったと思いながら椅子から立ち上がるのだった。





 館の外で不死者の王トルネオは仁王立ちとなっていた。怒っているのだろうが、骸骨なので全く表情が読み取れない。顎の骨が、かくかくと小刻みに動いているのが怒っている証なのだろうか。クアトロはそんなことを思っていた。

 

 トルネオは再び両手を上に突き出した。また転移魔法かと思ったが、どうも違うらしい。


「古の邪竜よ。我との盟約に基づきその姿を見せよ!」


 トルネオの言葉が終わると、地面に巨大な魔法陣が出現した。やがて、その魔法陣の中心から骸骨竜が姿を現す。さらに骸骨竜を中心として魔法陣が複数出現した。その数、三十、いや五十かとクアトロは思う。


 出現した多数の魔法陣からは、長剣と盾とを携えた人型の骸骨兵たちが現れる。


「アストリア、少しだけ下がっていてくれ。ダース、アストリアを頼む」


 ダースは軽く頷くと、アストリアを伴って後方へと移動する。

 古の邪竜と言ったか。それにしても大きい竜だとクアトロは思った。白い骨だけなのだけれど……。


「単なる骸骨竜ではないぞ。かつては邪竜だった骸骨竜だ。そして、現世では英雄と呼ばれた者達を元とする骸骨兵たち。一筋縄では行かぬからな!」

「邪竜の骸骨竜ね……」


 マルネロが一歩踏み出して、そう呟く。


「邪竜の骸骨竜は炎に絶対的耐性を有している。貴様の得意な爆炎魔法など、露ほども効きはせぬぞ!」

「私、別に炎の魔法しか使えないわけじゃないし」


 マルネロの反論にトルネオは高笑いで答えた。


「爆炎魔導師の二つ名で呼ばれるぐらいだ。炎属性の魔法が得意なのは分かっているぞ。それ故の骸骨竜だ。不得手な他の属性のお粗末な魔法など、この骸骨竜には効きはせぬぞ!」


 ああ、それって爆炎じゃなくて爆乳の間違いだよねとクアトロは思う。

 マルネロは片手を突き出すと呪文の詠唱を始める。ゆったりとした黒色の服の中でも存在感を主張する、たわわな胸が揺れている。体内での魔力の上昇に伴ってマルネロの赤い髪が宙を舞う。やがてマルネロが閉じていた赤い瞳を開いた。


「真雷撃!」


 凄まじい轟音と目が眩むような黄金色の光と共に、巨大な稲妻が骸骨竜を襲った。土煙りが周囲に立ち昇る。


「なっ……」


 トルネオが絶句している。


「残念ね。別に他の属性の大魔法か扱えないわけじゃないの。私は単に炎系魔法が好きなだけだから」


 土煙りが収まると、そこには無残に崩れ去った骨の山が残されていた。


「な、な、なぜ? 炎系魔法しか上手く操れない故の爆炎魔導師と言う二つ名ではなかったのか……」


「爆炎じゃないわよ。爆にゅ、にゅ、爆乳魔導師よ!」


 マルネロが顔を赤らめながら言う。


「なっ……」


 トルネオが口をあんぐりと開けた。骸骨なので、そうしてしまうと何とも滑稽な姿だった。それにしても、どんな勘違いだよとクアトロは思う。


「ま、まだ骸骨兵たちが……」


 トルネオは呼び出した骸骨兵たちの方へと顔を向けると、更に口をあんぐりと開けた。顎の骨は骨が外れるとこんな感じになるのかといった見え方になってしまっている


「不浄な者は浄化しますよー。ぼくが浄化するんですよー。びよーんですよー」


 そんなことを口走りながらスタシアナが、とてとてと駆け回っていた。骸骨兵たちが次々と瞬時に浄化されていく。しかもアストリアは杖を特に意味もなく、ぐるぐると振り回している。


「骸骨竜と骸骨兵たちが一瞬で……化け物か」


 骸骨に化け物呼ばわりされてしまった二人だった。





 何か少しだけ可哀想になってきたとクアトロは思う。不死者の王トルネオは口をあんぐりと開けたままで両膝を地面につけている。


「で、頼みごとなのだが……」

「酷くないですか? いや酷いでしょう。いきなり人の家にやって来て、皇女を殺す犯人になれなんて……」


 トルネオが喘ぐようにしながら言う。トルネオの言葉にお前は人ではないのではと、どうでもいいことをクアトロは思う。


「い、いや、ま、まあな」

「それで拒否したらあんな魔法をぶっ放して、言うことを聞けだなんて……私、消えるところでしたからね。母親が川の向こうで手招きしているのが見えたんですから」

「ま、まあそうだな」


 そこまで言われてしまうと、流石にクアトロも言い淀んでしまう。


「うっさいわね。泣く子も黙る不死者の王なんでしょう。さっきからぐだぐだと。で、もう終わりなわけ?」

「終わりですよ。終わりに決まっているじゃないですか。骸骨竜も骸骨兵たちもいなくなっちゃって……」


 ……不死者の王、何か泣き出しそうだ。

 クアトロはそう思う。


「情けないわね。不死者の王なんだから、もっと配下の者がいるでしょう。屍食鬼とか吸血鬼とか」

「はい? 簡単に言わないで下さいよ。屍食鬼は腐っているから凄く臭いんですよ。それに知能が低いから、直ぐに生みの親である私を食べようとするし!」


 トルネオが語気を荒げてマルネロに言う。


「え、そうなの? そ、それは嫌だし、大変な感じね……」

「吸血鬼は骸骨兵と違って知能は高いけど、知能が高い分、隙があればすぐに裏切るんですよ。あいつらすぐ主人の私を害して、私に取って変わろうとするんです!」


 既にトルネオの言葉には泣き声が混じっていた。


「ま、まあ、ならば人型の骸骨兵を増やせばいいじゃないか」


 何で自分がトルネオを宥めているのだろうかとクアトロは頭の隅で思う。


「骸骨兵は知能が低すぎて、言うことを聞かないんですよ! かつての英雄とか質のよい骨を使って、辛うじて言うことを聞く骸骨兵たちだったのに。あなた方が全てを消し去ったんですよ!」


「そ、そうなの? そう言われると俺たちも悪かったような……」

「私の二百年が今の一瞬で、全て消え去りましたよ!」


 クアトロが半分涙声のトルネオに押されている中、スタシアナが、とてとてとやって来た。


「この骸骨、うるさいのです。もう、ぼくが浄化しますよー」

「ま、待って。待って下さい! 浄化は止めて下さい。本当に死んでしまうから!」


 いや、お前、もう死んでるだろう。骸骨なのだからとクアトロは思う。


「もう、ぼくが消すんですよー。クアトロを虐めようとしたし」


 スタシアナが手にしていた杖の先で、地面に両膝をついているトルネオの頭をぽてぽてと叩いている。

 相変わらず杖の使い方がおかしいな、スタシアナさん。クアトロがそう思っているとトルネオが半ば泣き声を上げた。


「もう止めて下さい。分かりました。私がアストリア皇女殺害の汚名を着ますので。あ……あ、もう杖で叩かないで……浄化しないで。お願いします……」


 この日、記録上では不死者の王による元ベラージ帝国皇女アストリア襲撃事件が勃発したのだった……。

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