43.新たな仲間
「グルルル、なんと悪運の強い女。まあ、俺もそうだがな」
暫く後、雪の中から這い出したモンスターは、足下に開く永久凍土のクレパスを振り返った。後もう少し雪崩れが続きモンスターを流していれば、哲生の計画は完璧だった。
「しかし、あの男がジェット・ヘリのタービンの回転数まで計算をしていたとはな、恐れ入ったぞ」
周波数に反応して爆発する「周波数感知爆弾」のかけらをクレパスに投げ入れ、サーベルタイガーは迎えのスノーモービルに乗り込んだ。
「おや? もう一台はどうした」
サラを乗せ帰るために用意していたもう一台のスノーモービルが見えなかった。
「あの雪崩れで、やられた様です」
「まあいい、作戦は失敗だ。俺は日本に向う、亜矢共々サラを手にして究極のシード・モンスターとなるために」
スノーモービルが雪原を去って行った。彼らの残した二本のレールをたどり、黒い影が近づいて来た。それは大型のオオカミ犬だ。サラの飼い犬だった「ニケ」に違いない。ニケはそれから数分かかり、ようやく哲生の体を掘り当てた。哲生の頬に赤みが戻ったころ、遅れたスノーモービルが彼方に見えた。
「ありがとう、おまえがニケか。ちょうど素敵なお迎えが来た」
哲生は物陰に隠れながら雪焼けした顔で笑った。
「パラサイトは成長が終わると、『マスター・シード』と花粉を残して死ぬ、子孫としてこの二種を残すのだ。不思議なのはそのシードはやがて消えてしまう。実はシードは再び次の寄り代の中で成長を続ける、その成熟した姿のひとつがシード・モンスターなのだ」
善三は美樹に自分が解明したバラサイト・シードの生態を話していた。
「ある種の苔にも似たような繁殖方法がある、しかし大きく違うのは栄養は『ルナティ86』と言う波長の満月の光に多く含まれる光であり、その吸収率は成長に伴い上昇することと、どうやらもう一度成長をすることだ」
「お義父さん、それは亜矢の中の『香矢』に関係しているということですか?」
美樹はそう尋ねた。
「ああ、おそらくあの『変異細胞』は急激にミトコンドリアが発達して出来上がったものだ。それが証拠に此れを見てみなさい」
善三が指し示す、「ルナティ86」の地球に降り注ぐ量と吸収され、消え去った場所のデータを見ながらこう善三は言った。
「ラビの作ったデータでは地上へ届いた86は日本で6割近くが消滅している。そしてその場所はこの屋敷、つまり亜矢の中の『香矢』、いや『シノ』という名の『マスター・シード』が取り込んでいることになる……」
黙り込んだ二人に、警戒音が聞こえた。ジェット・ヘリの青い機体が音速から通常速度に変わり、着陸のためにエンジンの角度を変えるのが見えた。
「どうやら、新しいお客様が着いたわ。新しいチモシーも用意しなくちゃあ」
「わしは濃いめのコーヒーでお願いしよう、美樹さん」
善三は美樹が見えなくなると、そっと心臓を押さえた。
「もう少し、待ってくれ『ラグ』。ほんの少しだけでいいんだ、亜矢が起きるまで、あとすこし……」
だが善三は美樹の入れたコーヒーを二度と飲むことはなかった。




