44.山崎の機転
善三の死後、亜矢の後見人となった美樹はそのまま屋敷で暮らしていた。それにもう一人、執事の山崎がいた。彼は信頼できる男だった。善三は亜矢に新しい記憶を刷り込む時にも彼の進言を聞き、雄馬の兄弟にも亜矢の特殊な能力について正確に伝えていた。
「旦那様、亜矢様の安全が第一です。ご兄姉を亜矢様に近づけてはなりません、亜矢様の体の真実を知りそれでも近づくとしたらそれは敵だということです」
「新たなモンスターだということか?」
葬儀のあと、早速差し向けた殺し屋が行方不明になり、光子は震え上リ、もう二度と亜矢の事は口にしなくなった。そして、また満月が近づいた。嫌な予感のする夜がまた始まった。
「ここか、お嬢様が住んでいるお屋敷は」
「ああ、どうだ監視システムは抜けれるか?」
「まあ待て、雑音が入る。ふむこれは特殊な波長が絡み合っている」
特殊な「暗視ゴーグル」をかけ、「収音機」を耳に当てた男が「橘健吾(雄馬の弟)」の雇った元「特殊部隊」にいた男だった。彼はレコーダーを握ると離れて止めていた健吾の車にそっと戻った。
「何とかなりそうか?」
「多少日にちがかかる、おまけにこれは絶えず組み替えられている、パスワードが監視システムをコントロールしている代物だ、こいつを作ったのは相当のものだ。尊敬するよ」
「大金を払っているんだ、必ず解除してみせろよ。ギブソン」
「尊敬はするが、屈服はしない。俺の腕を見せてやる、ミスター・健吾」
「そうか、安心した。家に戻ろう、和子はともかく光子には知られたくない」
「あっさり引き下がったのは妹を油断させるためか?」
「当たり前だ、いいか。亜矢を傷つけてはだめだぞ、俺が亜矢を助けるんだ」
「そして新たな後見人となる、そう言う筋書きか?」
「ああ、そして俺は和子とおさらばさ、大金を手に入れ美樹を手に入れる」
「まったく、付き合いきれんな。あなたの空想は」
「そう言うな、こんなことを話すのはおまえを信頼しているからだぞ、ギブソン・ヒラー」
そんなことは知らない、ラビとサラはあの「はじまりの別荘」にいた。山崎が二人に別荘に行くように言ったのだ。
「まだあなたのくみ上げたセキュリティー・システムは一度も稼働していない。亜矢様を狙っているのはそのサーベル・タイガーとドク、ノアだけではありません。先日は殺し屋が現れました。まずはこの屋敷を手薄にして危険を取り除こうと思います」
セキュリティー・コードは別荘からコントロールできる、しかもサラをドクから隠すにはちょうどいい。二人は亜矢に合うと翌日にはすでに屋敷から消えていた。
さすがのギブソンは2日後にようやく数千種のパスワードを全て拾った。
「あとはこれを次のパスワードに変更される前に当てはめるだけだ」
覗き込む健吾は彼に尋ねた。
「それを入力するのか、大変だな。まさかタイピングではないだろうが」
「ハハハッ、ご名答タイピングだよ。だからこれを作った奴を尊敬するのさ」
「ところでパスワードだが、次の変更までの時間はどのくらいなんだ?」
「きっかり1分、な、尊敬するだろう?」
「……」
「まあ、最終的には500程度にはしぼられると思うが、とにかく腱鞘炎でもうこの仕事はできないな。ちゃんと面倒見ろよミスター・健吾」
彼はこの課題の出口を感じ、満足げな笑いを浮かべていた。




