25.ピン・プラグ
エレベーターが開き、そっと由樹が駐車場を見回した。
「ラビ、怪我は無い?」
「ママったら、逃げなかったの?」
「ごめんね、戻ってきちゃった……」
由樹の手には、アルミ合金製の警棒が握られていた。そんな物ではあのヤモリの怪物を倒せるはずは無い。しかし、ラビは内心では嬉しかった。
「ママ、ありがとう。でも私が逃げてって言ったら、絶対に逃げなきゃ駄目。約束して」
「今度はそうするわね。さあエレベーターに乗って、亜矢に紹介するわ」
「きっとびっくりさせちゃうわね」
「親戚のお姉さんて事でいいかしら?」
「オーケイ、ママ。それでいこう!」
エレベーターの中で、二人の話はそう決まった。
「ママ、お帰りなさい。あれっ一人じゃあなかったのね」
亜矢が緑色の髪と瞳を持つ「ラビ」を丸い瞳で見た。
「亜矢ちゃん、初めまして。『ラビリンス・ラビアン』縮めてラビ。ヨロシク」
「お姉ちゃん、外国の人? でも日本語上手ね。ママ、ずっとお姉ちゃんと一緒だったの?」
「ええ、そうよ。そのうちパパもお客様と一緒に戻ってくるわ。心配しなくていいから、お姉ちゃんとお部屋に戻っていなさい」
「ハーイ、さあいこう、ラビ」
「そうね、亜矢」
早速二人は名前で呼び合いながら、笑いながら亜矢の部屋に消えた。
その頃、日高達の乗った車は寂れた漁港にある、魚市場に入っていった。そこは数日前まではセリ声が聞こえた市場だった。床の黒いシミは集まっていた仲買人のものだった。
車から降りると巨大な冷凍庫の中に彼らは消えていった。それが地下に作られた彼らの「アジト」だった。
「趙の娘は、哲生が連れ去ったのか。ZIGも間の抜けたことだ」
「まあ、あの娘も長くは持つまい。実験終了後は処分される予定だったし、何より次の『ロイヤルスーパームーン』までの命だからな……」
二人の話を怪物は聞いているようだった。
「雄馬は『ルナティー86』の秘密をつかんでいる、早いうちに始末するしかない」
日高のつぶやきに答えたのは、すでに次の寄り代を選んでいた「杢原ノア」だった。
「今度のモンスターは、子ウサギなどたちどころに追いつめるだろう、音もなく忍び寄り最後の『マスター・シード』を奪ってくるのだ」
ノアが手にしたのはさび色の「DNA」入りの「ピン・プラグ」だった。それを青いライトに透かして見て日高は満足そうにこう言った。
「ノアの『DNA』抽出の腕は素晴らしい。そのおかげで俺の作り上げた怪物に特別な能力を与える事ができた。こいつがマスター・シードから産まれたものなら、さらに強力な『生物兵器』となるだろう」
伊織が頷き、こう言って追従した。
「そのためにも、橘雄馬の持つ『マスター・シード』を手に入れなければならないと言う訳ですな」
ノアはモンスターの首筋に「ピン・プラグ」を埋め込んだ。モンスターはやがて首筋から次第にさび色に染まり始めた。新しいモンスターのうめき声が漏れ出した。
「雄馬、こいつが完全に変異するまでの一週間は生かしておいてやろう。だが、それ以上の延長はない」
日高はそう言うと別室へ入っていった。




