26.スーパー・ムーン
「『ルナティー86』の秘密を雄馬もおそらくつかんでいる、早いうちに始末するしかない」
伊織がそう言ってノアをせかした。すへて作戦の指揮はノアがとっていたのだ。ノアはZIGからの通信をこう日高に伝えた。
「全ては86を発見した、ドク。日高さんのおかげだと、ZIGも伝えてきております」
「ああ、そうか」
日高はノアからそう聞いても、気のない素振りでそう言っただけだった。
「雄馬にも伝えていない、86の恐ろしさは全人類に及ぶ。ほんの一握りの人間だけしか残っていない地球、あの日偶然その光景を俺は覗いてしまった……」
日高はそれに続く言葉を飲み込んだ。彼は再び冷たい眼差しを次第に変異していく「怪物」に向けた。新たな『怪物』は鋭く曲がったくちばしを持つ。ノアの手により、新たな変異生物として変異を遂げた。かん高く、それはまるで笛でも吹くような、叫び声をあげた後。フクロウのモンスターは「ノア」から新しい名前を呼ばれた。
「木霊フクロウよ、次の満月まで森に待機していろ」
「満月の光の力を、増幅させる『ルナティー86(エイト・シックス)』を手に入れるまで、こうして満月を待たなければならないのがけっこう煩わしいが……」
ノアが「木霊フクロウ」を見送りながら苦笑いをした。
「なあに、こちらは時間のかかるものが多い。やっと86を貯める『レッド・サファイア』の取り出しを終えたばかりだ。一度こいつに充填した86は簡単に減ることはない」
「やれやれ、ドクもノアも『スーパー・ムーン』か、しかし実際にそれほどのものなのか?」
伊織は科学にしろ、医学にしろおおよそ「学」には縁のない男だった。ドクこと日高が「スーパー・ムーン」について簡単に説明した。
「地球の衛星、月は楕円の軌道だ。地球に最も近い満月のとき『スーパー・ムーン』と呼ぶ。満月がいつもより大きく見えるからその名を知らない者は少ない。その時の表面積が通常の130%だとして、その明るさは150%に達する。不思議だと思わないか、伊織?」
「ドク、何か不思議なことが起こるとでも?」
「いや、何も起こらないことが不思議だとドクはおっしゃるのだよ……」
鈍い伊織に向ってノアがそう言った。
「オオカミ男くらいだ、有名なのはな。いや、あれも『シード』から変異したものではない。あの『怪物』の方がまだマシだ」
「86(エイトシックス)が生き物のミトコンドリアに受け継がれた遺伝子情報を紐解く。そしてそれは活性化して新たな細胞を構築する。そうしなければ86の光で死に絶えてしまう、延々と続くその繰り返しの中、耐性を持ったのがカンブリア爆発以後生き残った、ひと摑みの生き物だ。人類などその末裔に過ぎない」
日高は、さらに話を続けた。
「しかし、86を糧とした生き物もまた存在したのだ、それが『ラグ』と言う『パラサイト・シード』の成体なのだ。伊織それにノア、それをよく覚えておけ」
「スーパー・ムーン」それは地球が衛星として「月」を捕まえた時から始まった。
スーパームーンの放つ「ルナティー86」から、逃れようと地球の一箇所に、ある生命体が集まってきた。
「ラグ」それは原子生命体の集合体に他ならない。「スイング・バイ」という地球の重力を使い太陽系さえ離脱可能な航法を「ラグ」が知っていたとは考え難い。しかし結果的に地球の一部が重なる偶然によって、地球から分割され「スイング・バイ」をおこなった。ラグを乗せたまま地球の一部はむしり取られた。
「……しかし、それは外宇宙にまでは旅立つことはできなかった。それが月、地球の兄弟星だ」




