14.亜矢の急成長
「その顔だと、うまくいかなかった様ね」
雄馬が由樹の運転する車に乗り込むと、普段はあまり人前では吸わない煙草に火をつけた。今日の会議ではさんざんだった。「シード」が長い間生き続けていた「証拠の資料」は全て無くなり、冷凍保存された「マスター・シード」を見せて、雄馬がいくら熱弁を振るっても、それを聞くうちに明らかに役員は嘲笑していた。
「こういうことですか? そのなんとか『シード』というのが実は生き物でそれが寄生すると、宿主はたちどころに無敵の体になると……」
別の役員が続けて雄馬に言った。
「しかもそれは宿主の寿命を餌にしているんだと、いやはや何とも……」
「そもそも、日高からはそんな報告はなかった。ヘリをハイジャックした男は何故その「シード」を見逃したんでしょうね。別のファイルが目的だったのでしょう。もっと現実的に金になる「再生細胞」のファイルがね。『第六室長』は疲れていらっしゃるんですよ。それに所員の遺体とともに戻る研究員たちの話では、日高はシェルターに逃げていて無事だったそうです。二・三日内にはここへ来ます。そのときまたお話でもいたしましょう。橘雄馬『第六室長』」
そう話を終わらせたのは、副社長の宮内だった」
「帰ったか?」
宮内卓はNACの最上階の副社長室で秘書の返事を待った。
「はい、とてもご立腹でしたが、先ほど奥様の車で」
「うむ、この件は明るみに出してはならん。善三様にも影響がある。雄馬君もやがて分かってくれるだろう。それから、役員におかしな奴が紛れ込んでいたろう?」
「はい、2名は見た事がありません、ひょっとして『Z研』のものでしょうか?」
「おそらくはな、それに既に『ZIG』なる組織に膨れているらしい。尾行を続けろ、今度は失敗するな。日高が戻るまでは研究員たちの『会社葬』は待つことになっている、くれぐれも『遺体』の安置をしっかりな。三戸」
「はい、葬儀は三日後ですね。副社長」
「ああ、善三様は出席できないが、落ち度の無い様にとのことだ」
「承知いたしました」
帰宅した雄馬はソファーに座ると幾分落ち着いた。役員は「馬鹿馬鹿しい」とは口にこそ出さなかったが、やはり馬鹿馬鹿しい話に違いない。
「あの映像があればまた違っていたろうに、まあ仕方ない。日高が帰ったらもう一度役員に話そう。そうだ、由樹。亜矢のことだけれど、やっぱり手術で摘出してもらおう。それから香矢を供養してやろうと思うんだ」
「そうね、亜矢を今まで守ってくれたのだものね、お姉ちゃんとして」
「じゃあ、社葬が終わってからだな、今度の土曜日にするか」
そう言うとすぐに雄馬は、ボイスコマンダーを使い、メディカルセンターに予約を入れた。亜矢のベッドに近づいた雄馬はもう眠っているはずの娘を見た。次の瞬間雄馬はぎょっとした。寝息を立てている亜矢は丸い眼を開けたままなのだ、あわてて由樹のところへいった。食器には「ディッシュ・ウォッシャー」を使わない由樹はタオルで両手を拭きながら笑って雄馬に言った。
「あら、この間からずっとそうよ。それに身長だって本当に伸びてたでしょ?」
「確かに、20センチは伸びている……。いつからだ?」
「あなたがオロスに行った時からかしら、私もびっくりしたからお父さんに相談したんだけれど、よくあることだからって。目を開いたまま眠るのはそのうち閉じるって。成長期にたまにあることなんですって」
「ならいいけどな、びっくりしたぞ」
「それより、社葬には私も列席するの?」
「もちろんさ、亜矢は美樹さんに見ていてもらってくれ、すまないが」
「解りました。いいのよ、どうせ美樹は暇なんだし」
「彼は行方がまだ解らないのかい?」
「ええ、美樹はもう諦めたらしい。もう結婚はしないって」
「そうか、折角復縁のチャンスだったのにな」
「そうね」
雄馬がもう一度亜矢を見ると、なるほど亜矢の両目はすでに閉じられていた。




