第60話(最終話) これからも、一緒に
陽太の歓迎式典を終えて、数日が過ぎた。
朝。
王城の執務室。
机の上には、いくつもの書類が積まれていた。
陽太は資料へ目を通し、小さく頷く。
「市場通りはこのままでいいと思う」
向かいでは、エリシアも同じ資料を見ていた。
「私も同じ意見です」
エリシアが資料から顔を上げると、陽太と目が合った。
どちらともなく笑う。
二人で考えることが自然体になっていた。
◇ ◇ ◇
午後。
二人は王都を歩く。
完成した橋には、多くの人が行き交っていた。
市場には活気ある声と笑顔があふれている。
子どもたちが元気よく駆け回る。
「陛下ー!」
「陽太さんー!」
手を振る人々。
エリシアも笑顔で振り返す。
「こんにちは」
陽太も少し照れながら手を振った。
「エリシアは人気者だね」
「陽太さんの方こそです」
二人で笑う。
◇ ◇ ◇
王城へ戻る途中。
エリシアが立ち止まった。
隣を歩く陽太の顔を見つめる。
「陽太さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
突然だった。
「皆様へ何度も言いました。
国民にも。議会にも。配信でも」
真っ直ぐ陽太を見る。
「ですが、一番お伝えしたかった相手へ、
改めてお伝えしたいのです」
少し照れながら笑う。
「私の隣へ来てくださって、本当にありがとうございます」
陽太も微笑む。
「俺の方こそ」
空を見上げる。
「誘ってくれてありがとう。
俺一人だったら、見られなかった景色ばかりだ」
エリシアも同じ空を見上げる。
「陽太さんに見せたい景色は、まだまだたくさんあります」
「うん、一緒に見よう」
「はい!」
エリシアの笑顔がはじけた。
◇ ◇ ◇
夜。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:こんばんはー
:おつ王ー!
:きたーー!!
「皆様、こんばんは」
いつもの挨拶。
そして。
「さて、今日からは」
エリシアが隣を見る。
「『太陽さん』改め、陽太さんも一緒です」
「どうも、こんばんは。陽太です」
コメント欄が一気に流れ始めた。
:きたあああああ
:距離近いww
:マジだ!!
:ほんとに異世界にいる!
:幸せそう
陽太は笑う。
「皆さん」
少しだけ照れながら頭を下げた。
「アルヴェイン王国に来ました。
俺がここまで来られたのは、皆さんがいたからです」
エリシアも頷く。
コメント欄が祝福で埋まる。
:こちらこそありがとう!
:異世界は本当にあったんだ
:泣くわ
:最高だった!
エリシアは嬉しそうに微笑んだ。
「これからも」
陽太と目を合わせる。
「皆様と一緒に、この国をもっと良くしていきたいと思います」
陽太も頷く。
「よろしくお願いします」
二人の声が揃った。
:おつ王ー
:おつ王!!
:おつ王!
◇ ◇ ◇
配信が終わる。
王城のバルコニー。
二人は並んで夜空を見上げていた。
澄んだ空に、いくつもの星が瞬く。
「最初の配信、視聴者、四人だったよね」
陽太が笑う。
「はい」
エリシアが微笑む。
「皆様、私をまがい物だと思っておられました」
「懐かしいな」
二人で笑い合う。
静かな風が吹く。
エリシアが、そっと陽太の手を握った。
少しだけ冷たくなった手に、じんわりと温かさが広がる。
「陽太さん」
「ん?」
「これからも」
少し照れながら。
「一緒に考えてください」
陽太は優しく握り返す。
「もちろん」
迷いなく答える。
二人は夜空を見上げた。
画面越しにしか届かなかった想いが繋がり、
今は隣で、同じ景色を見ている。
生まれた世界が違っても。
立場が違っても。
一人では届かなかった未来も。
誰かと一緒に考え、支え合えば、きっと前へ進める。
これは、一人の若き王と、一人の若者が。
画面越しの出会いから始めた、小さな奇跡の物語。
共に悩み。
共に考え。
そうして、自らの選択を正解に変えていった物語。
アルヴェイン王国は、今日も少しずつ前へ進んでいく。
そして。
夜になれば。
【エリシア・アルヴェイン 配信開始】
:おつ王!
:おつ王ー
:こんばんは!
画面の向こうには、変わらず笑顔の人たち。
画面のこちら側にも、笑顔の二人。
「皆様、こんばんは」
「こんばんは」
今日もまた。
世界を越えた配信が始まる。
── 完 ──




