表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/20

第1話 同時視聴者数 四人

 レポートの締め切りは明日の昼。


 佐藤陽太さとうようたはノートパソコンの画面を睨みながら、小さくため息を吐いた。


 大学の講義で出された課題。

 テーマは地方行政と地域振興。


 文字で埋め尽くすべきレポートの四分の一がまだ白いものの、

 幸いにも終わりが見えてきた。


「……ちょっと休憩!」


 キーボードから手を離し、椅子の背もたれに身体を預ける。


 午後十一時四十分。


 コンビニで買った缶コーヒーはすでに空だ。


 ラストスパート前の息抜きのつもりで動画サイトを流し見する。


 ゲーム実況――

 音楽――

 切り抜き――


 代わり映えのしないラインナップの中、ふと指が止まった。



【ライブ】接続試験


 同時視聴者数 3



「……なんだこれ」



 サムネイルを見て首を傾げる。


 綺麗だった。

 とにかく綺麗だった。


 CG……ではなさそうだ。


 銀色にも白金にも見える長い髪。

 透き通るような青い瞳。


 整いすぎていて、むしろ現実味がない。


 (企業勢の新人か)


 だが、チャンネル登録者数は0人。


 意味が分からない。

 思わずクリックした。



 画面に広がる、奥行きのある、石造りの部屋。

 壁に掛けられた古ぼけた銀の燭台。

 

 がっしりとした大きな木の机。

 窓の向こうには澄んだ夜空。



 妙に立体感がある。

 それもまた作り込みなのだろうか。



「■■■■■■■■■■■」



 何かが聞こえた。



「ん?」


 陽太は眉をひそめる。


 言葉のようだが意味が分からない。

 英語ではないし、聞きなれない、不思議な音だった。


 コメント欄が流れていく。


:音声バグ?

:接続不良か


 画面の中の少女が焦ったように何かを操作する。


 そして。



「……聞こえますでしょうか」



 ようやく聞こえた。


:オッケー

:直った

:聞こえるよー


 少女はほっとしたように胸を撫で下ろした。

 心から安心した顔だった。


 妙に自然で、陽太は少しだけ感心する。

 演技が上手い。


「良かった……」


 少女は小さく微笑む。


「それでは、始めさせていただきます」


 数秒沈黙。


 そして。


「皆様のお住まいの地域では、小麦は栽培されていますか?」


「は?」


 思わず声が出た。


:いきなり?

:美少女農業チャンネル?

:どんな世界観だよ


 少女は真剣な顔をしていた。


「発育に良い肥料はご存知でしょうか……?」


:自分で調べろ

:知らね

:そもそも誰?



「あ……失礼しました。申し遅れました」


 少し俯きかけていた少女は、コメントを見て姿勢を正した。


「私はエリシア・アルヴェインと申します。

 アルヴェイン王国の第一王女であり――」


:よろー

:王女様設定ジワる



 少女は少しだけ言葉を止める。

 そして静かに続けた。


「三か月前より、国王を務めています。」


:女王じゃないんだ

:細かい


「私は国を救いたいのです」


 静かな、それでも力の籠った凛とした声だった。


「そのために、皆様のお知恵をお借りしたく」



:視聴者参加型ね

:壮大。面白そう

:異世界王国育成企画?


 少女は再び首を傾げる。


「育成……?」


 陽太は少しだけ笑った。


 天然なのか。

 設定なのか。

 まだ分からない。



「初めてなので、まず何をすればよいのか分かりません」


 コメント欄が一気に流れる。


:雑談

:自己紹介

:質問コーナー

:歌枠

:腹筋


「ふっ」


 思わず吹き出した。


 腹筋ってなんだ。

 新人配信者の洗礼かよ。


 少女は本気で悩んでいる。

 たぶん、腹筋も候補に入れている。



 コメントを読みながら悩んでいる様子は、配信者というより、生徒だった。

 まるで、授業を受けている学生のような……


 少しだけ考え、陽太が打ち込み、送信した。



:とりあえず自己紹介の続きでいいと思います



 別に深い意味はない。


 なんとなくだ。

 なんとなく放っておけなかった。


 少女の視線がコメント欄へ向く。

 数秒考える。


「……なるほど」


 小さく頷いた。


「ありがとうございます」


 その声は、緊張もほぐれ、先ほどより明らかに柔らかかった。

 そして。


「では改めまして」


 姿勢を正す。


「エリシア・アルヴェインです」


:名前はもう聞いた

:知ってる


 透き通るような青い瞳が画面越しにこちらを見る。


「どうか、よろしくお願いいたします」



 レポートは残っている。


 眠い。明日も講義がある。

 なのに。


「なんだ、この人」


 なぜだろう、陽太はブラウザを閉じられなくなった。


 この日、

 同時視聴者数四人の配信を見つけたことが

 自分の人生を変えることになるなんて。


 佐藤陽太は、まだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ