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 最終回です。

 湖の村を出てから一週間もかからなかった。地図ではまだまだ人の住んでいない場所が続くはずだったのに、その地は突然私たちの目の前に現れた。ただしその前兆は確かにあった。


「水も木の実もとてもおいしくなったと思っていたら……」


「ここがその源だったんだ」


 水や食べ物だけではない。空気に気候、全てが最高だ。この場所こそ私たちが求める『楽園』……。




「………いつ以来だ?外からの者が来るのは……」


「100……いや、200?忘れちゃったね」


 私たちが楽園に入るのを阻むかのように、二つの影が現れた。この二人は気配のないところからいきなり出てきた。


「……!」


 私はイヴの前に立った。とはいえ、この二人は私よりも遥かに強いことがひと目見ただけでわかってしまった。相手がその気なら、私たちの首は一瞬で飛ぶ。



「……素晴らしい場所ですね。ここは」


「ああ。まさに楽園と呼ぶに相応しい」


 私たちを殺す気はないようだ。ただし今のところは、だ。行動や言葉に最大限の注意を払う必要がある。


「多くの人々が探し出して見つけようと思っても叶わない夢……生涯の全てを費やしても辿り着けずに死んでしまう。それなのにまだ若いあなたたちが……」


「楽園に行こうと思ってから一月もかからなかったよ。おねぇちゃんとわたしなら何でもできるからね!」


 勝ち誇るようにイヴが胸を張る。イヴに特別な能力があるとすれば、『楽園を見つけること』だったのだろう。



「姉妹か……血は繋がっていないようだが」


「あれ?わかるの?」


 門番の一人は剣を持っていて、目つきや話し方も少し怖い。もう一人は穏やかで優しそうだから、もし怖い方を怒らせても止めてくれるかもしれない。


「まあ大したことでもないか。この楽園の主は実の姉妹で結婚し、そこから何代も子孫を残しているのだからな」


「………!」 「………!!」


 姉妹で結婚、しかも子どもがいる。それを聞いたイヴの目はきらきらと輝いた。



「そんなことができるんですか……?」


「性別や種族、血の濃さに関わりなく健康な子を授かれる……素晴らしい魔法を生み出した人がいるんですよ、主のお嫁さんのうちの一人に……」


「あの方の妻となったのは妹や普通の人間たちだけではない。魔族どころかその親玉の魔王、下天した神までいるのだからスケールが違う。流石は世界を救った真の大聖女だ」


 大聖女が世界を平和にしたなんて、数百年は前の話だ。並外れた力を持っているとしても、人間なのだから寿命はあるはずだ。


「不老不死の魔法はありません。しかしこの地はいつまでも若いまま永遠に暮らせる不思議なパワーに満たされています」


「………なるほど、確かに楽園ですね」


 これまで私が考えていた『楽園』はあくまで比喩的なものだった。まさか本当に完璧な楽園がこの世に存在するとは……。




「それほどの場所となると、誰でも住めるわけではないですよね?現にあなたたちが門番としてここにいる」


「ああ。あの方とその家族が楽園の中心にいる。しかし私たちのようにあの方の仲間というだけでも住人になることが許されている。この地を見つけ出した以上、お前たちにもチャンスがある」


 門前払いではないようだ。むしろ私たちを中に入れようとしている。


「ぜひ主にお会いになってください。真の愛と優しさに満ち溢れる人ですから、必ず爽やかさと安らぎを感じることができますよ」


「……………」


 大昔に世界を救った大聖女はたくさんの人と結婚して、大勢の子どもがいるらしい。ただし楽園に住むためには大聖女の家族になることが条件でもないようで、話だけでも聞いてみる価値はありそうだと私は思っていた。ところがイヴの考えは違った。



「……おねぇちゃん、やめよう。わたしたちの楽園じゃないよ、これは」


「え?行かないの?」


 イヴの表情、そして声の様子から、目の前にある楽園への興味を失っているのは明らかだった。


「……いいのか?後で考えが変わって来た道を戻ってきたとしても、もうこの入口を見ることはできないぞ?自らの考えで退けたのだからな」


「へーきだよ。ここに用はないから」


 躊躇いは一切ない。しばらくしてから未練や後悔を感じることもないだろう。そう言い切れるほどイヴの意志は固かった。


「それでもおねぇちゃんが見てみたいっていうなら……」


「いや、私も同じ気持ちだよ。帰ろう」


 私がここを気に入ったとしても、イヴにその気持ちがないならそれは楽園ではない。ここはあくまでかつての大聖女たちの楽園だ。私たちだけの真の楽園はまた別のどこかにきっとある。それを探すための旅は始まったばかり、焦る必要は何もない。





「………久々に私たちの仲間が増えるかもと思ったが……」


「あの子たちならもっといい場所に巡り会えるよ。必ず」







 

 恵まれた暮らしをしていても、安定した毎日を過ごしていたとしても、その全てを捨てて自分と愛する者の『楽園』を探しに旅立つ人々がいる。その人々は口を揃えてこう言う。


『楽園を見つけた、エヴァーとイヴのように』

 ありがとうございました。元々は長編を書きたいと思っていましたが、体調の悪化のため完結を急がなくてはなりませんでした。最後の2話は特にそれが現れていて、突然打ち切りを伝えられた作家の気分になることができました。


 この最終話は私の別作品『大聖女の姉』の最終話ともなっています。よろしければぜひ読んでみてください。ただし私の作品はプロレスネタが多いため、野球をテーマにした『第三捕手のみっちゃん』や『飛び出せ!つばめ』のほうがオススメだったりします。


 私がいなくなっても残した作品は残り続ける……はずです。私はねこあつめ2の世界で余生を過ごしたいと思います。これまでの作品で高評価やブックマーク、コメントで支援してくださった全ての皆様、ほんとうにありがとうございました。

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