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全11話です。
「おねぇちゃんのドレス、素敵だなぁ……わたしにくれない?いいでしょ?」
「おい、聞いただろ。早くイヴにあげなさい」
毎度のことだからもう慣れている。むしろ今回はいつこうなるかと待っていたほどだ。
「……わかりました。ほら、イヴ」
「ありがとう!うん、やっぱりいいね、これ」
私が渡したドレスを早速着て、笑顔になるイヴ。その姿を眺めるお父様とお母様……正確にはお義父様とお義母様も満足そうだ。イヴも義理の妹で、私はこの家の人々とは違う血が流れていた。
私の名前は『エヴァー・エデン』。エデン家という貴族の娘、長女だ。ただし私は養子だから、『イヴ』が正式な長女、一人娘だと言えた。
結婚してしばらく経っても子どもに恵まれず、孤児の私がエデン家に迎えられてから一年もしないうちにお義母さんは妊娠した。そうなると夫婦の愛情は全て実の娘であるイヴに向けられるのは当然のことだ。
「フム……いつも思うことだが、同じ物でも着る人間が変わればここまで違うのか」
「ええ。さすが私たちの愛娘!」
二人に褒めちぎられてもイヴは全く表情を変えない。自分がかわいいのは当たり前だと思っているのか、もう慣れているのか。感情の変化をまるで感じられなかった。
「……素晴らしい。お義父様、お義母様……今すぐ画家を連れてきましょう。この美しい姿、形に残しておかなければなりません」
「おおっ!そうだな。おい、早くしろ!」
そして私もイヴを溺愛する一人だった。私と似たような境遇の人間は他の家にもいて、自分は冷遇されている、奴隷みたいな扱いを受けていると嘆く。でも私はそうは思わない。
「美しい、かわいい……いや、やっぱり美しいのほうが……」
イヴはほんとうにかわいく、そして美しい女の子だ。中途半端な褒め言葉で妥協はできない。仮に私がエデン家の実の娘でイヴがどこかから来た子どもとしても、イヴに全ての愛情を注ぐべきだと思う。
「うーん……『美しい』よりも『かわいい』のほうがうれしいかな」
「そうか!イヴ、かわいいぞ!」
一瞬だけ笑顔になったように見えたけど、お義父様にかわいいと言われたらすぐに元に戻った。
「………」
義理とはいえ姉としていつもそばにいるのに、イヴが何を考えているのかわからない時がある。かわいいだけでなく底知れない何かを秘めている、そんな予感がした。
「人類最初の夫婦は楽園で暮らしていた。でも神様から食べてはいけないと命じられていたものを食べたせいで追放されて、苦しい生活が始まったんだ」
「ふ〜ん……あれ?その二人はどっちも神様が作ったんだよね。だったら兄妹だったってこと?血が繋がっているかはどうでもいいとして」
私がいまだにこの家で暮らせているのは、イヴの教育係としての役目があるからだ。文字の読み書き、人類と世界の歴史、社会でのマナー……ほぼ全てを私が教えていた。
「そういうことになるかもね。でもこの話で大事なのはそこじゃなくて、決められたルールを守る必要があるってことだから……」
「わたしは好き勝手にしていても絶対に追い出されないけどね」
家のお金を全て使い果たす、怪しい男を連れてきてエデン家を乗っ取らせる……それくらいのことをしたらさすがのイヴでも駄目だろう。普通に考えたらやらないはずだけど、絶対やらないとは言い切れないのがイヴだ。いつかよくも悪くも大きなことをやりそうだと思っていた。
「なぜイヴはお前のものばかりをあんなに欲しがるのか、思い当たることはあるか?」
「さあ……誰の手垢もついていない新品のほうがいいに決まっているはずなのですが」
服、アクセサリー、雑貨など、なぜか私が数回使ったものをおねだりしてくる。その理由をいろいろと考えているうちに、私はある推論に至った。
「……本人にその気はないでしょうが、彼女には『支配者』としての資質があります。おそらく無意識のうちに私を毒見役として使っているのでしょう」
「なるほど。自分が手にするものが安全かどうか、お前を使って試しているというわけか。もしお前の言う通り自然にそんなことができるのなら大物だ!」
「あの子の力でエデン家の絶頂期が来るわ!」
最も栄えていた時代と比べると、エデン家の権力や財産は寂しい状態だと聞かされている。イヴが何らかの方法で復活させるのはもちろんのこと、これまでにない高みに導いてくれる……二人はそう信じていた。
「イヴに隣国の王家から縁談!?」
「王子が一目惚れしたらしい!まずは婚約からではあるが……きたぞきたぞ!」
エデン家が上昇する絶好のチャンスだ。しかもその王子は長男、次の国王だというのだからすごい話だ。
(やるしか……!) (ねぇだろッ……!)
「………え?私?」
両親の視線が私に向けられる。絶対に成功させるための鍵は私だった。そして念入りな打ち合わせを何度も繰り返し、家族で隣の国へ向かう日になった。
「む?私はイヴさんを……」
「私たちの慣習では、長女より先に次女を嫁に出すわけにはいかないのです」
そんな慣習はない。これは王子ではなくイヴを騙すための嘘だった。両家の関係者が席を立ち、私とお義父さん、王子とその護衛だけがその場に残ると、お義父さんは本当のことを話した。
「実はこうでもしないとイヴがあなたと結婚したがらないかもと思いまして……お許しください」
「……噂では聞いていましたが、結婚相手であってもお姉さんのものが欲しいと?」
「おそらくは……ですからひとまずはこのエヴァーとうまくいっているように演じていただくことで、イヴの心を動かしてもらえたらと……」
異例のお願いに王子は苦笑いだ。もしかしたらこれで気分を害するか、もしくはイヴの人間性を怪しむかで『なかったこと』にされる危険もあった。お義父さんたちはそれを恐れていたけど、私はそれならそれでいいと思っていた。
この程度でやめるようなら本気ではなかったことの証明になり、そんな男のもとにイヴが嫁げば不幸が待っている。
「ははは……面白い。いいでしょう、彼女を迎えるためだ、それくらいは喜んで協力しますよ」
「おおっ!あ…ありがとうございます!」
快く応じてくれた。これならいけるかもしれない。
「しかしエヴァーとやら……あなたが心配するべきなのは妹よりも自分の未来だ。あなたの境遇についても聞いたが、イヴさんがエデン家を去ればあなたの仕事は終わりになる」
「………」
「金と権力のために自分の娘を躊躇わずに私に売った両親……しかもあなたにとっては血の繋がりがない義理の親だ。気をつけたほうがいいぞ、はっはっは」
お義父さんを見ると、露骨に視線を逸らした。自分がしようとしていたことを言い当てられて、動揺を隠せずにいる。私としてはこうなるのは予想通りなので、そこまで驚きはなかった。役目を終えた養子にもう用はない。
「あなたも賢く優秀な女性だ。しかしイヴさんは何もかもが違う……彼女からは特別なオーラを感じる!」
「……やはりわかりますか」
「私はもうすぐ国王になる。彼女の力があれば必ず全世界は我が手に、私の名は未来永劫語り継がれることになるのだ!ガァ〜ハハハハ〜〜〜ッ!」
この人もイヴを利用しようとしているだけか。イヴの力がどんなものなのかわかっているような言葉は気になるとはいえ、これではイヴの結婚相手にはふさわしくない。
「……おねぇちゃん、どうなった?」
イヴが部屋に入ってきた。自分の命が危うくなるとしても、私はイヴを止める気でいた。
(よし、きたぞ……)
(いつものように姉のものを欲しがれ!それで決まりだ!)
皆の視線を一身に集め、イヴが私の前に立った。
「おねぇちゃん、この結婚なんだけど……待ってもらえないかな?わたしと結婚させてよ」
今回だけはそのわがままを受け入れるわけにはいかない。強い気持ちでイヴの願いを断ろうとしていたけど、私が何かを言う前にイヴは動いた。
「だっておねぇちゃんのもの……いや、おねぇちゃんは………わたしのものなんだからね――――――っ!!」
「え……え――――――っ!?」
私の手を取って走り出したイヴは、扉を蹴って部屋の外に出た。
エヴァーとイヴ以外の人間の名前は一切出てきません。




