復讐へ向かって
ユピテルを倒すと、周囲の木々が消滅……そして、壊れた家屋、ボロボロの闘技場が見えた。
私たちは変身を解く……服、ボロボロ。
「ほれ」
「え……あ、ありがと」
私は上半身の服がほぼ弾けとんだせいで、ほとんど裸……さすがに恥ずかしい。
でも、ハイドがジャケットを脱いで渡してくれた。意外にも紳士ね。
アレイスターは周囲を確認しつつ言う。
「さて、ユピテルは完全消滅してしまったなあ……脳を調べたかったのに。まあいい。アルティニアにいる『火星』のアイレースの脳でも同じことか」
「おい……オレの復讐を邪魔するなら、テメーも敵とみなすぞ」
「わかってる。僕の目的は脳だけさ。むしろ、手を貸してあげてもいい」
「……胡散臭いわね」
私、ハイドがジト目で見ると、ハイドは肩をすくめる。
そして、私たちをジロジロ見た。
「そういえば、神器と命を共有したようだねぇ。実に興味深い」
すると、『聖典ピカトリクス』がトリスに変わり、フンと鼻を鳴らす。
「おバカな神器たち。これであなた方は、もう次の主人に使ってもらうことができませんわ。持ち主の死に引っ張られ、消滅することになる」
オウマ、マキナも人の姿へ。
ハイドは驚愕し、マキナを見た。
「おい、マキナ……どういう」
「……ハイドを、助けたかったの。それに、ハイドが死ぬなら、わたしも死ぬ……」
「マキナ……すまねえ。いや……ありがとうな」
ハイドがマキナを撫でると、嬉しそうに顔をほころばせた。
私もオウマに言う。
「感謝するわ」
「おう……って、それだけかよ」
「他に言葉が必要?」
「……いーや、オマエらしいわ」
軽く拳を合わせる私とオウマ。
アレイスターはウンウン頷き、ポンと手を叩く。
「さて、次の目的地も決まったし、宿に戻って荷物を回収して行こうか」
「あ? んだよ、出発なんて明日でも」
「いいけど……僕ら、曲がりなりにも『管理者』の最高幹部の一人を殺したんだよ? のんびりしていると、この領内に常駐している異端審問官が大量に集まって来るよ?」
「……それは確かに困るわね」
「逆に、アルティニアまで行けば安心さ。異端審問官の管轄は決まってるからネェ。ここでは僕たちは最悪の異端者だけど、アルティニアでならまだ、ただの異端者さ」
「そういうモンなのか?」
「うん。『八極星』の縄張り意識はすごいよぉ? ユピテルは平和主義者だけど、他のところに行くときっと驚く。ワクワクするねぇ」
「……とにかく、行きましょう。木々も消滅したし、デュミナス帝国の魔法騎士たちが集まって来るかもしれないわ」
私たちは急ぎ、闘技場区画を出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
宿屋で荷物を回収し、そのまま出発することにした。
時刻はもうすぐ夕方……今いる区画でも、『闘技場区画で騒動があった』と騒ぎになっていたが、それ以外は普通と変わりない。
そのまま城下町を抜け、正門ではなく、闘技場区画とは反対側の門から抜けようとする。
途中、最低限の物資を買い、正門近くまで移動した時だった。
「……え、なんで」
「こっちに来ると思ってました」
門の近くに、シエスタ姫がいた。
アレイスターがハイドを掴み、「じゃ、お先に」と行ってしまう。
シエスタ姫は一人。近くには簡素な馬車があり、それに乗って来たようだ。
「……『木星』のユピテルを、倒したんですね」
「……ええ。問題になるかしら?」
「いいえ。少なくとも……他の『八極星』がどうするか決めるまでは平和でしょう。異端審問官の常駐もありますが……ユピテルがこの地を脅かすことは、もうありません」
「そう……よかった」
「イチゴ様。あなたには謝罪を、そして……感謝を」
「謝罪?」
「はい。あなたを見たときから、こうなるような気がしていました。私はそれに気づきつつも、何もしなかった……ごめんなさい」
「…………」
真面目なヒトだ。本当に。
私は、シエスタ姫に手を差しだした。
「全て、終わったことです。私たちは……アルティニアへ行きます。シエスタ姫、グレーテル姫にどうかよろしくお伝えください」
「はい。アルティニア……どうかお気を付けて。あの地には、得体の知れない『宗教』が軸となっているとお聞きします」
「……宗教?」
「ええ。詳しいことは不明ですが……」
手を離し、私は一礼する。
シエスタ姫も、スカートをつまんで一礼した。
「イチゴ様。また、お会い出来ますか?」
「ええ、必ず」
私は、シエスタ姫に微笑み、アレイスターたちの待つ外へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
それから、なるべく急いでデュミナス帝国から離れた。
異端審問官が私たちを捜索しているかもしれないし、移動のために走ることはできるけど、できれば戦いは避けたい。
それから、ひたすら走り……デュミナス帝国から離れ、ようやく歩みを止めた。
「とりあえず、ここまで来たなら問題なさそうね……ふう」
すっかり夜。
森の中、近くに川が流れ、身を隠すにはもってこいの場所ね。
「ここで野営だねぇ。あ~疲れた。食事を取ろう……トリス」
「はい、ご主人様。食事の用意をしますね」
「てつだいたい」
「ええ、お願いしますわ」
人の姿になったマキナが手伝い始めた。
オウマがジロジロ見る。
「……何」
「いや、おめーは手伝わねえのかなって」
「女だから料理しろって?」
「へいへい。おめーはそういう奴だよ」
ハイドはテントの用意をしてるし、アレイスターは自前の椅子テーブルで紅茶を飲んでる。
私も何かすべきかな……でも、料理なんてできないし。
トリスをジッと見ていると、めんどくさそうに睨まれた。
「あなた、水浴びしてきなさい。臭いわ」
「なっ、く、臭くないわ!!」
「汗だくじゃない。私やマキナとは違って老廃物で汚れるんだから、素直に従いなさい」
「むぅぅ……」
言い返せない。
私は着替えを手に、ハイドとオウマを見る。
まあ……覗きなんてするヤツらじゃないし、別にいいか。
◇◇◇◇◇◇
私は一人、水浴びをしていた。
ムカつくけど、トリスの言う通り……けっこう汗臭い。
身体と髪を洗い、川の少し深い部分で仰向けになって浮いていた。
「ふう……」
私は、ユピテルとの戦いを思いだす。
オウマの能力を使っての斬撃。不思議な感触……肉だけじゃない、命を斬るような感覚。
「……もっと、強くなれる」
私は、空を見上げた。
空には星が瞬き……。
「…………え?」
私は、おかしなモノを見た。
あまりにも堂々とし過ぎて、全く気付かなかった。
「……何、あれ」
こうして、私の最初の戦いは終わり……早くも次の戦いが始まるのだった。




