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剣の存在しない魔法世界で、私だけが「斬る」という概念を持っている~刀姫転生、世界法則を一太刀で否定する~  作者: さとう
第二章

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BOSS・『木星』のユピテル③

 バラバラになったユピテルが落下していく。

 私は変身を解き、斬心……呼吸を整える。

 全力で斬った。肉の感触……今でも、手に残ってる。

 すると、足から火を噴いて飛ぶハイドと、銀色の蠅を足場にしたアレイスターが私の元へ。

 太い木の枝に着地し、二人は変身を解く。


「イチゴくん、言うことはあるかい?」


 いきなりアレイスターが言う。

 私は無視しようと思ったけど、言わなきゃ言わないでネチネチ言われそうだったから言う。


「足場をありがとう。はい、おしまい」

「適当だねぇ」


 一応、感謝はしている。

 あの銀色の足場……やっぱりアレイスターだった。

 あれがなければ、二度目の斬撃は打てなかった。そこは感謝する。

 そして、ハイド。やや興奮している。


「イチゴ、すげえな!! 今の一撃、ゾクゾクしたぜ」

「ありがとう。私も……手ごたえを感じたわ」

「やーれやれ。死体は下まで堕ちたねぇ。脳は無事かなあ」


 アレイスターは勝利の余韻などどうでもいいのか、枝から下を覗き込んでいる。

 今現在、私たちがいるのは、闘技場に生えた巨大な木。その枝の一つだ。

 枝といっても、幅は三メートル以上あるし、長さも五十メートル以上ある。ここから闘技場の区画を見渡せるくらい高いけど……もはや、ただの森にいるみたいだ。

 もう、辺り一面が樹木しかない。


「とりあえず……終わったわ。ハイド、あなたの敵だけど……」

「この国の隣にある、アルティニアだったか?」

「ええ……そこに、『火星』のアイレースと、アルシエノがいる」

「……感謝するぜ。イチゴ、ついでにアレイスター」

「感謝はまだ早いわ。ふふ……私、あなたの復讐に付き合うって決めたし、お礼は全部終わってからでいいわ」

「……物好きなやつ。でも、ありがとよ」

「……フフフ。アルティニアねえ」


 アレイスターは、帽子を深く被り口元をニヤリと歪めた。

 なんだかムカつく……私は軽く睨んで言う。


「なに、その顔」

「いやあ。フフ、きみらはこの国の外……いや、『八極星(ベツレヘム)』の管理する世界を知らないんだっけ。きっと驚くよぉ?」

「……そのもったいぶる言い方、ムカつくぜ。ちゃんと言え」

「どうしようかなあ。おやぁ?」


 すると、アレイスターはニヤリと口を歪めて両手を広げる。

 私も、ハイドも気付いた。


『イチゴ』

『ご主人様』

『ハイド』


 神器たちが、揃って声を出した。

 私たち三人は同時に変身する。

 そして……枝の下から、何か輝くモノが飛んで来た。


「……ふう、こんなにダメージを受けたの、初めてだなあ」


 ユピテルだった。

 身体がバラバラの状態だ。四肢を斬り落とし、首も切断した。

 翼も、四肢も、首も、切断された状態で浮かんでいる。


「私はさ、力があるけど……別に、力に頼らなくても臨んだことは全て叶う。戦いなんて野蛮なことは意味がないって思ってる」


 天力が膨れ上がる。

 今までも十分バケモノだったが、それ以上にバケモノの『圧』が増す。

 バキバキと、私たちのいる大樹から枝が、根が絡みつき、葉が吸収されていく。

 変貌が、始まった。

 私たちは、その変化を見ていることしかできない。


「随分と久しぶりだよ、こんな気持ちは」


 枝が鎧のようになり、皮膚と融合していく。

 翼が全て取れ、天力へと分解され、視覚化できるほど濃密な天力の翼へと代わる。

 ユピテルの身体は、完全に異形と化した。

 一言で例えるなら……『樹木の化身』だ。

 人の姿をしている。四肢があり、頭もある。

 でも、顔が……樹木と化し、顔の中央に窪みが一つあり、緑色の光点が瞬く。

 背中にはエメラルドグリーンに輝く光の翼が一対。

 身体は完全な樹木。だが二メートル近くにまで大きくなり、足からは根のようなものが伸びていた。


「神器。それは危険な力だ。これまでは何とも思わなかったけど……壊した方がよさそうだ」

「そう……できるならね」


 私は双刀を構える。


「ほほう、樹木との完全融合か。興味深いねぇ……キミの脳を調べたら、僕の研究も一気に進みそうだ」


 アレイスターは両手からドロドロした液体を滴らせる。


「フン。面白れぇ……完全決着といこうぜ」


 ハイドは、両手から蒸気を出し、拳を構える。


「さて、光栄に思いなよ? この『八極星(ベツレヘム)』の一人、木星(ジュピター)のユピテルが人間相手に全力を出すんだから」


 デュミナス帝国での、最後の戦いが始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ユピテルと樹木の融合……というか、木。


「穴だらけにしてやらぁ!!」


 ガコン!! と、ハイドの腕が変形する。


「『機神機関銃(パンク・ガトリング)』!!」


 ボボボボボ!! と、左腕の筒が回転し、小さな何方飛んで行く。

 その小さい粒? が、ユピテルに命中。言った通り身体中に突き刺さる、けど。


「無駄さ」

「なっ」


 めり込んだ粒が落ち、傷が一瞬にして再生した。

 アレイスターは興味深そうに言う。


「面白いねぇ。物理的な力では勝てそうにない。ハイドくん、イチゴ君、キミたちと相性最悪だねぇ」

「落ち着いてる場合かよ!!」

「ははは。そっちのガイコツくんは理解しているね」


 ユピテルが指をパチンと鳴らすと、私たちの立っていた枝が一瞬で枯れ、ボロボロに朽ちた。

 三人の重さを支えることができず落下。すると、アレイスターが銀色の足場を作り、木の幹に固定。

 そして、木の幹に触れて銀血を流し込むと、樹木が淡く輝きだす。


「ふむ、少し厳しいが……まあ、掌握できそうだ。この樹木に限り、ユピテルの力でどうにかすることはできないよ」

「ありがたいわね……」


 すると、翼を広げた樹木の怪物が私たちの前に降りてくる。


「フム、イチゴくんとハイドくんは脅威ではないが……アレイスターくんだったかな? キミのその力……脅威だねぇ」

「それは光栄、と言えばいいのかな? だが、意味はないよ。僕は狩人でも、復讐者でもない。ただの医師で、研究者だ。強さなんて求めていないし、この力はただの研究成果さ」

「ははは。なかなか面白い考えだ。きみは生かしてもいいけど……今の私は、少し乱暴だからね」


 アレイスターの触れていた木が脈動する。

 

「ほほう、僕の銀血を、樹木内に流れる水分を介して押し流そうとしている。しかも、激流で……ふふん、面白いね」

「確かに面白い。きみはヒトの身でありながら、私のいる位置まで登りつつある……異端者というのは、本当にすごい。そして、面白く、恐ろしい」

「うん。キミとは面白い話ができそうだけど……いいのかな?」


 私は双刀を真横から、ハイドは右拳を帯電させて背後から襲う。

 ユピテルは樹木で両手をさらに覆い、私の斬撃とハイドの拳を受け止める。


「……硬いわね」

「クッソが、燃えも、痺れもしねぇ。嫌になるぜ」

「そういうわけで、僕の相手をしてくれるのは嬉しいけど、二人の方が相手して欲しいようだね」

「ふむ、確かに。では……少し、強く行こう」

「ッ!!」


 ボコボコと、木が脈動をする。アレイスターの眉がピクリと動く。


「ハイドくん、痛いのは平気かな?」

「あぁ? ンなもん、平気に決まって──……」


 ハイドの真正面にユピテルが現れ、初めて攻撃らしい攻撃をした。

 何をしたのか? 簡単だ……ただ、両の拳を連続で叩きつけるだけ。

 だが、今のユピテルの拳は、一撃で岩を容易く砕く威力がある。

 そんな拳が、連続で、一秒に二十発以上の速度で、ハイドの身体に突き刺さった。

 叫び声も上げられずに吹き飛び、近くにあった樹木に覆われた建物に激突するハイド。


「がっっはぁ!?」

「ハイド!!」

『ハイドぉ!!』


 マキナの叫び。

 ハイドは血塗れで気を失っているのか、ピクリとも動かない。


「次はキミだよ」

「───」


 同じく、拳のラッシュ。

 でも、私は……見える。


「『伽楼羅舞(かるらまい)』!!」


 足運び、上半身の動き、そして動体視力を駆使した舞。

 そして、そこに斬撃を組み込む技。

 魔力操作による身体強化。それらを組み合わせ、踊る。

 拳のラッシュを回避し、斬撃を加える。

 さっきは斬れたのに、斬れない。

 柔らかい木の身体。斬撃が食い込むだけで、斬れない。

 くそ、さっき以上に研ぎ澄ましてるのに……!!


「さあ、速度を上げるよ」

「───ッッ!!」


 速度が増した。

 同時に、私の身体が悲鳴を上げる。

 十六歳の、未成熟の身体……魔力による強化で酷使した筋肉が断裂を始め、骨が軋み、内臓の細かい血管が裂け始めた。

 胃から何かせり上がって来る。口から洩れたのは血。


「う、っぶ……」

「辛いだろう? それに、きみは女の子だ。優しく殺してあげよう」

「───っ」


 膝が落ちた。

 そこに、カウンターで胸に拳が叩きこまれた。


『イチゴ!!』


 オウマが叫ぶ。

 黒衣が爆ぜ、背中に衝撃が突き抜けた。

 痛みがない。なぜ、私は空中を飛んでいるのだろうか。

 仮面が砕け、赤い血がキラキラ輝いている。


「さて、ここまでだ。アレイスターくん、諦めたらどうだい?」

「そうだねぇ。まあ、ここまでかな」


 アレイスターの声が聞こえた。

 そして、私は地面に落下。オウマが転がる。

 消えゆく意識の中、マキナが必死にハイドを起こそうとしているのが見えた。


「おいイチゴ、てめえ、こんなところで死ぬつもりかよ!!」

「…………」


 オウマの声が聞こえる。

 人型になり、私を抱き起す。

 そして、私の胸に触れた。


「クソが、心臓が破裂してんな……意識あるか? ったく、あーくそ……おいマキナ、そっちは」

「……心臓、止まりそう」

「やるしかねぇ。いいか、死なせたくないなら覚悟決めろ」

「え……」

「俺らの命を、こいつらと共有する。俺らの核を、こいつらの中に埋め込むぞ」

「……あ、そっか。その方法あった。でも……」

「ああ。こいつらが死ねば、俺らも死ぬ。普通、神器は所有者が死ねば、次の担い手が現れるまで眠りに付くが……核を移植すれば、俺らは消滅する。だが、救うにはそれしかねぇ」

「やる」


 声が聞こえる……でも、何を言っているのか、よくわからない。

 見えたのは……オウマと、マキナが、自分の胸に手を入れて、何か輝く球体を取り出した。


「クソが、一蓮托生になるとはな。感謝しやがれ、馬鹿イチゴ」


 何か、黒いのが……胸に入る。

 ハイドも、同じだ。何か、金色の球体が……身体に。

 そして、私は心臓が爆発するような感覚を感じた。


「ッっ!?」


 身体を起こし、胸を見る。

 黒衣が破れて胸が露出していたが、それどころじゃない。

 傷が消え、心臓が脈打つ。しかも、熱がすごい。


「なに、これ」

「いいか、二度目死ぬんじゃねぇ。俺も死ぬ」

「オウマ……」

「まだやれるな?」

「……ええ!!」


 立ち上がりる。すると、ハイドも同じだった。


「ありがとな、マキナ」

「うん……よかったよぉ、ハイド」

 

 ハイドも立ち上がり、私を見る。

 そして、顔を逸らした。


「お、おい……服」

「え? あ」


 私は胸を隠すと、オウマがゲラゲラ笑ったので軽く蹴る。

 変身すると、黒衣を纏い、仮面を被る。ハイドも同じく変身する。

 

『ハイド、死なないでね』

『おめーもだぞ、イチゴ』


 わかってる。

 私はもう、負けない。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 アレイスターは、両手を上げて樹木から手を離す。


「まあ、ここまでだね。さて……僕をどうするんだい?」

「当然、ここで殺すさ」

「そうかい。じゃあ一つ……聞いてもいいかい?」

「なんだい?」


 ユピテルは手を下ろし、腕組みをした。

 もう、余裕なのか、アレイスターを脅威としていないのか、隙だらけ。

 だが、アレイスターも隙だらけ。しかも、敵意もなく、攻撃の素振りもない。ユピテルはアレイスターが攻撃しないと判断し、いつも通りに戻っていた。


「神について、聞いてもいいかい?」

「…………」

「では質問。キミたちの神……『ジ・アース』について」


 アレイスターがそう言った瞬間、ユピテルは目を見開き、同時に周囲の木々が震えだすほどの敵意を見せ、さらに空間が歪むほどの天力が周囲に撒き散らされた。


「……貴様、どこでその名を!!」


 別人と思われるほどの変貌。だが、アレイスターは全く変わらない。恐怖もなく、死への恐れもなく、ユピテルと最初に対峙したアレイスターのままだった。

 アレイスターは言う。


「それは重要かい? フフフ……」


 ユピテルは、アレイスターの愉悦に染まった目を見て、初めて『恐怖』した。

 胸の奥から、黒い何かがせり上がる感触。

 不気味さ、そして得体の知れない『何か』だ。

 すぐに殺せる。そして、今すぐアレイスターを殺さねばまずい。

 そんな、脅迫めいた何かが、ユピテルを突き動かしていた。

 視野が狭くなっていたのに、ユピテルは気付いていなかった。


「隙だらけだぜ」

「ッ!!」


 背後からハイドが現れ、右手からチェーンを発射し、ユピテルを拘束する。

 不意打ち。普段なら問題ないが、今、頭に血が上った状態では恐怖でしかない。

 そして、もう一人。


「…………」


 イチゴ。

 静かに、双刀を両手に持っている。

 そして、二つの刀がドロドロに溶け始め、地面に吸収される。


「『抜刀』」


 イチゴが静かに呟くと、堅い地面が波紋のように広がり……地面から、一本の『刀』が現れた。

 美しい刀だった。

 銀に輝く刀身、波打つ刃紋、漆黒の柄、凶鳥を模した鍔。

 

「『六天魔王(ろくてんまおう・)逢魔ヶオウマガトキ』」


 チキ……と、静かな音がした。

 そして、イチゴが無音で、美しく、優雅に……ユピテルの身体を斬りつけた。


「『哭式(こくしき)鳳凰印(ほうおういん)』」


 無音のまま振られた刃。

 六天魔王の能力、『万物両断』が込められた、創造者である神すら斬る刃が、ユピテルの身体を斬り裂き、さらに『再生力』という概念を斬り、『不老不死』という限りなく現実に近い『事実』を斬り、ユピテルの『命』そのものを斬り裂いた。


「……そんな、嘘だ」


 ユピテルは、再生しない身体、すでに斬られた命、これから迎える消滅が受け入れられないのか、胸を押さえ、イチゴを見た。


「こ、これが、死?」

「違うわ」

「え……」

「私は、あなたの命を斬り、死そのものを斬った。あなたは死ぬけど、死なない。消滅するけど、消滅しない……永遠の『無』へ旅立つの」

「ど、どういう」

「行けばわかる」


 サラサラと、ユピテルの身体が消滅していく。

 そして、ユピテルは手を伸ばし、イチゴに触れようとした。だが、手が完全に消滅した。


「なんで、こんな……これは、何だ? 何をすれば、こんな」

「大したことじゃないわ」


 イチゴは変身を解き、ユピテルに向けて小さく微笑んだ。


「私は、ただ『斬った』だけよ」

「───…………」


 ユピテルは口を開けたが、何か発することはなかった。

 こうして、『八極星(ベツレヘム)』の一人、木星(ジュピター)のユピテルはこの世界から完全に消え去った。

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