File:019 ジョンの食堂
感想ありがとうございます!
始めて2週間で丁度1000PV突破しました!
昨日に至っては1日で150PV近く行っており、嬉しい限りです。
これからも応援よろしくお願いします!!
ビル同士の連絡路を、ルシアンと並んで歩く。
後ろにはケンがついてきていた。
護衛の二人は帰らせたらしい。
「ケン。お前はいいのかよ?部隊のリーダーなのに付いてきて」
「彼はむしろ今日これから休みの時間だったのに、つき合ってくれてるんだよ。
黄色の隊のリーダーだから、他の子たちと比べても忙しい方なんだけどね」
「こちらも楽しませてもらっているので、気にしないでください」
「ホワイト企業なのか、部下が有能なのかわかんねぇな」
そうぼやきながら、次の連絡橋を渡る。
周囲はガラス張りの連絡通路。
改めて見回すと──これは、もはや要塞だった。
構造もスケールも、現実の建築ではありえない。
「……でも、これもホログラムだろ?」
呆れたように言うと、ルシアンは首を振った。
「いや、違うよ。これは現実だよ」
冗談だろ?脳が追いつかない。
「これだけの質量のものを、世の中にバレずに現実空間に置けるのか?」
「そりゃ、地上や地下ベースならね」
「……どういう意味だ?」
「もうちょっと貢献したら、情報を教えてあげる」
「ちぇっ、ケチだな」
そう言いながら歩いていると、周囲が少し賑やかになってきた。
「…無駄に建物が多いだけで、人数が多いわけじゃないんだな」
「みんな一緒にいたがるからね。居場所が偏るんだ。
もともと人数だって、そんなに多くないから」
ほどなくして、「食堂」の表示が目に入る。
中へ入ると、子どもたちの視線が一斉にこちらを向いた。
ルシアンと前崎が入ってくると、人の道が自然と開く。
ざわめきと、いくつかの小さな挨拶の声。
「ここだよ。ここで好きなご飯を選んで。お、今日は週1の豪華メニューの日だ。前崎君ツイているね」
前崎は掲示されたメニューを見て、思わず眉をひそめる。
【北海道産ボンゴレの濃厚黒スミパスタ ~海の香りと共に~】
【シチリア直送・本マグロの握り三貫盛り ~柚子胡椒の香りを添えて~】
【完熟イタリアントマトと放し飼い卵のふわとろオムライス ~隠し味は3種のチーズ~】
【神戸牛A5ランクのレアステーキ ~特製ガーリックソースと山葵のアクセント~】
【“ジョンさん農園”直送・有機野菜のシーザーサラダ ~焼きチーズと胡桃を添えて~】
【カレー】
【季節限定・青森産紅玉りんごとキャラメリゼのアイスブリュレ】
前崎は目を細めてメニューを二度見した。
「……なんだこのメニュー。
北海道、シチリア、神戸にイタリア……和洋折衷どころじゃねぇな。
フルコースどころか、国際会議の晩餐会かよ。
……で、カレーだけ“カレー”って。カレーだけ何のこだわりもないな」
その場にいたルシアンとケンが、同時に肩をすくめる。
「カレーは常設メニューなんだよ。
人気でずっとある感じ。シェフのジョンも"もう俺の魂はそこにない"って嘆いてたね」
調理場には、小太りの少年──シェフのジョンの他に、3人の少女が慌ただしく動いていた。
カウンターに並び、前崎が選んだのは:
・カレー
・シチリア直送・本マグロの握り三貫盛り ~柚子胡椒の香りを添えて~
・“ジョンさん農園”直送・有機野菜のシーザーサラダ ~焼きチーズと胡桃を添えて~
・神戸牛A5ランクのレアステーキ ~特製ガーリックソースと山葵のアクセント~
・季節限定・青森産紅玉りんごとキャラメリゼのアイスブリュレ
「……頼みすぎじゃない?」
ルシアンが思わず突っ込む。
「これぐらい食わないと、大人は体動かねぇの」
シェフと目が合う。先ほど調理場にいた小太りの少年だった。
前崎に向けて包丁を突き付ける。
「……残したら、お前を食材にしてやる」
「美味かったらな」
前崎はそう言い残し、やけに大きいトレイを持って席へ向かった。
そのトレイの上は──色彩も高さもバランスも、何もかもが破綻していた。
黒光りするステーキに、マグロの艶、サラダの緑、ブリュレの焼き色、そして“普通すぎる”カレー。
まるで理性を吹っ飛ばした大人が、目についた“好きなものだけ”を一心不乱に載せたような構成だった。
食卓にその皿が並んだ瞬間、周囲の子どもたちのトレイとの差は一目瞭然だった。
量も、種類も、派手さも──完全に異質だった。
ちなみに、ルシアンとケンが選んだのは、
【北海道産ボンゴレの濃厚黒スミパスタ】──それ一品だけだった。
「意外と大人なものを食べるんだな」
「こうしないと子供に舐められるからね」
「同じく。隊に示しがつきません」
……なんだそのプライド勝負。
前崎は無言で一口、ステーキを口に運ぶ。
──噛んだ瞬間、目が見開かれた。
「……う、うめぇ……!」
その一言のあと、完全にスイッチが入った。
フォークとナイフがまるで武器のように動き出し、皿の上の食材が瞬く間に消えていく。
次にマグロ。さらにカレー。ブリュレもサラダも容赦なく胃に吸い込まれていった。
その勢いに、ルシアンもケンも言葉を失う。
ただひたすら、前崎の“食う”という行為だけが、場の空気を支配していた。
動物にエサを与える感覚。
サファリゾーンのコーナーのように少年少女が奇異の目で見る。
「ぷはぁ……食った……!」
腹の底からの満足を吐き出すように、前崎は背もたれに体を預けた。
皿はすでにすべて空。食材たちはきれいに姿を消していた。
そのままスッと立ち上がると、厨房の奥へ歩いていく。
「おい、ジョンとかいったかシェフ!」
小太りの少年──この食堂の若きシェフが顔を出す。
「お前、すげぇな。あれ、店出せるぞ。
マジで“ジョンレストラン”って看板立てろよ」
「え、そ、そんな……」
ジョンは一瞬戸惑ったが、耳が赤くなっていた。
「で、次は──」
前崎は空の皿を軽く掲げる。
「あいつらが頼んだボンゴレ。それと、あの卵のオムライス。追加で頼む。後デザートも」
「……まだ食うのかよ……」
そう言いつつも、ジョンの口元には小さく笑みが浮かんでいた。
不器用に、だが確かに嬉しそうに。
「わかったよ。すぐ作る」
「……まだ入るんだ」
ルシアンが呆れたようにこぼす。
「当然だろ。誰かさんのせいで血を作らないといけねぇからな」
そうやって左手の包帯をプラプラと見せる。
もぐもぐと前崎が食べ続けるのを、
ケンとルシアンはのんびりと眺めていた。
「……デザート食べたかったけど、前崎君の食べっぷり見てたらお腹いっぱいになってきた」
「同感です」
そんな中、「ボス、前失礼します」と声がかかる。
ルシアンが振り向く。
「お、君は……?」
現れたのは、ジュウシロウだった。
強化外骨格を装備している。
本来、食堂への装備持ち込みは禁止だ。
ジョンが「飯の場を汚すな」と怒って飯を作らなくなるから、というのが理由だ。
「隣、失礼する」
ジュウシロウは無言で椅子を引き、前崎の隣に腰を下ろした。
その動きは迷いもなく、静かだが確かな意志を感じさせる。
「……お前、生きてたのか。あのとき、確実に頭を踏み潰したはずだが」
前崎は、水を飲むような無感情さで言った。
遠慮も、驚きも、罪悪感すらない。
「ボスのおかげだ」
ジュウシロウは短く答え、カレーを無言でかき込む。
返事の内容よりも、声にこもった“納得”の響きが印象的だった。
しばらく沈黙が流れたあと、ジュウシロウが口を開く。
「前崎……さん。
いきなりで申し訳ないが、頼みがある」
「……なんだよ」
前崎は少しだけ眉をひそめた。
“なぜこいつが、そんなに丁寧なんだ?”
その違和感だけが先に立った。
「もう一度、手合わせをお願いしたい」
それは──まぎれもない、決闘の申し込みだった。
「これ…大丈夫なの?」
その様子をカノンは壁の端っこで見ていた。
周りの小説見るとこういうほのぼのとしたシーンが書けてうらやましい…!!