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【☆3.2万PV】アダルトレジスタンス   作者: オレノマツ
第二章 国家騒乱編
129/133

File:007 見過ごせない点

「フッ!!」


周囲を囲む5人の包囲網。

その中心、坂上は迷うことなく最短距離で正面のHound(ハウンド)へと肉薄した。

手にしたナイフが、冷徹なまでの最適解を描いて少女の細い首筋へと奔る。


――キンッ!


金属が激突する硬質な音。

少女が抜き放った小太刀のような刃が、坂上の一撃を事も無げに受け止めていた。


「うおッ……!?」


直後、坂上の巨体が後方へと弾き飛ばされた。

少女の華奢な外見からは到底信じがたい、重戦車に衝突したかのような質量。

神経外骨格が悲鳴を上げ、足元のアスファルトが衝撃で削れる。


(なるほどな。()()がバグってやがる……

 よかったぜ。ある程度、装備を()()()()()()


坂上は即座にプランを切り替えた。

力押しは分が悪い。

彼は翻身(ほんしん)すると、建物の影を縫うようにしてその場を離脱した。


Hound(ハウンド)たちは一言も発さず、影のように坂上の背を追う。


たどり着いたのは、近隣にある広大な総合公園だった。

広場には池や人工の小川が流れ、昼間は老人や子供たちの憩いの場となるその場所も、深夜の今は静まり返り、立ち並ぶ木々が不気味なシルエットを落としている。


坂上はこの場所を熟知していた。

かつて綾香の手を引き、何度も散歩した「庭」だ。


「木の後ろに潜んでいるのは分かっています。

 ……あなたともあろう御方が、逃げに転じるとは」


林の奥から、Hound(ハウンド)の挑発的な声が響く。

だが、暗がりに潜む坂上は、低く笑った。


「さっきの打ち合いもそうだが、

 お前らがこれまで制圧してきた揉め事を見ていてな、

 ずっと引っかかってたことがある。

 ……お前ら、なんで『銃』を使わねえ?

 舐めてんのか?」


「……」


返答はない。

だが、森の空気が一瞬だけ硬化したのを坂上は見逃さなかった。


「まあ大方の理由はわかるぜ?

 理由は二つ。一つは、民間人への流れ弾だ。

 前崎の野郎、表向きは『平和的な新秩序』を謳ってる。

 Hound(ハウンド)の少女が流れ弾で無関係なガキを殺しました、

 なんてニュースは、革命の汚点になるからな。

 ……図星か?」


実際、Hound(ハウンド)には前崎総統から厳格な『火器使用禁止命令』が下されていた。

弾痕や薬莢といった物的証拠を残すことは、クリーンな独裁を目指す彼らにとって忌避すべき事態なのだ。

だからこそ非致死性のブレードで基本対応している。


「そして第二。

 これは俺の推測だが――

 お前ら、狙って当てるほどの『射撃精度』に自信がねえな?

 フィジカルの出力と、気配を消した接近戦に特化されすぎて、

 コントロールが雑だ。

 違うか?狙って撃つ。

 それだけでも銃を扱うには意外と時間がかかるからな」


沈黙。それは肯定と同義だった。

わずか数秒のコンタクトで、自分たちの設計思想の根幹を見抜かれたことに、Hound(ハウンド)たちの間に微かな動揺が走る。


「教えてやるよ。

 お前らみたいな、決められたルールの中でしか動けねえ手駒のことを、

 世間じゃ何て呼ぶか」


坂上の背中で、神経外骨格が限界を超えた高負荷運転を開始する。


「――『アマチュア』だ」


声は、Hound(ハウンド)たちの真上から降ってきた。


「!? 上ッ!?」


反応が遅れた。

木々の枝を足場に、鳥のような跳躍を見せた坂上が、電子バリアで足場を作り重力加速を乗せたナイフをHound(ハウンド)の脳天へと突き立てる。


ドシュッ、と肉を裂き、骨を砕く鈍い音が夜の公園に響き渡った。


「まず、一人だ」


返り血を浴びた坂上が、無機質な手つきでナイフを引き抜く。

倒れ伏す少女の骸を見下ろす彼の瞳には、かつての虐殺を後悔する情も、少女を殺める躊躇(ためら)いも一切なかった。


「なんだ……。一億人の兵力がいるってからどんなものかと思えば。

 ただの素人が、分不相応な力を振り回してるだけじゃねえか」


坂上は手慣れた動作で血を払い、ナイフを構え直す。


「さて。指揮系統の『長』はお前だな。

 さっきから、お前だけが対等に喋ってる」


「……何のことでしょう?」


残る4人のうち、一人のHound(ハウンド)が問い返す。


「お前が他の4人を操作してるんじゃないのか?

 ハブか何かを経由して、端末(ドール)を操るみたいにな」


「……部分的には正解ですが、少し違いますね。

 私たちは個であり、全でもありますから」


「そうか。まあ、理屈はどうでもいい。

 お前には少し興味が湧いた。

 ついでに聞くが、死んでもお前らはやり直せるのか?」


「バックアップがあるという意味では、ええ。何度でも」


「ならいい。遠慮なく殺させてもらう」


坂上の体が不自然に揺らぐ。

歩法――『肢曲しきょく』。

加速と減速を極限まで織り交ぜ、残像を残しながら相手の感覚を狂わせる高等技術だ。

Hound(ハウンド)のしびれを切らしたの一体が、鋭い踏み込みと共に日本刀を振り下ろす。

手応えはあった。確実に捉えたはずだった。


だが、刃は虚空を切り裂き、直後、坂上のナイフがのHound(ハウンド)視界を奪う。

両目を潰し、そのまま頭蓋を横断するように切り裂いた。


「次だ」


続いて2人が同時に左右から襲いかかる。

舞うような、優雅ですらある連撃。

だが、自衛隊の訓練という名の地獄を這いずり回ってきた本職の軍人からすれば、それはただの「お遊戯」に過ぎない。


坂上は一体のフリルの裾を掴んで強引に引き寄せると、その刀を足で蹴り飛ばす。

さらにもう一体の刺突に合わせ、引き寄せた個体を盾にした。

――相打ち。


仲間を貫いた日本刀が背中から突き出る。

坂上はその死体越しに、隠し持っていた拳銃を迷わず放った。

至近距離での射撃。2人の頭部が同時に弾け飛ぶ。


「なんだ。お前ら人形共も、血はちゃんと赤いんだな。

 誰のクローンなんだよ、お前らは」


生き残った「指揮個体?」のHound(ハウンド)に、坂上がじりじりと詰め寄る。

仲間が無残に解体されても、その少女は動揺一つ見せず、ただ静かに刀を握り直していた。

ただ坂上は見逃さなかった。

その手がかすかに震えていることに。


「……やめた」


ふいに、坂上がナイフを鞘に収めた。

そのあまりに唐突な放棄に、ハウンドの無機質な瞳に初めて困惑の色が混じる。


「なぜ……?

 あなたなら、私を殺す見込みは十分にあったはずですが」


「お前らが()()()()()からだ。ヘドが出る」


「……どういう意味ですか?」


「言葉通りだよ。

 俺には、力を持たされただけの素人をなぶる趣味はねえんだよ。

 ……案内しろ。俺の気が変わらないうちに、国会議事堂までな」


坂上がスマホを取り出し、マップを検索しようとした、その時だった。


「!?」


先ほどまでとは比較にならない速度。

空気が爆ぜるような音と共に、Hound(ハウンド)の刀が坂上の眼前に迫る。

坂上は反射的に外骨格の出力を上げ、辛うじてそれを防いだ。


「あまり、舐めないことですね」


少女のフリルドレスが激しい動きで裂け、その隙間から「混じり気のない神経外骨格」が露わになる。

これまでの個体とは明らかに違う、特注のフレームだ。

その神経外骨格から赤く光る。


「ちなみに言っておきましょうか。

 私はクローンの兵ではありません」


「何……? じゃあ、お前はただの人間だってのか?」


「ええ。前崎総統に、間接的に救われた……とでも言うべきでしょうか」


「間接的? 他に誰かいるのか?」


「――カオリさんです」


「カオリ……?」


坂上の脳裏に、かつての苦い記憶がフラッシュバックする。

それは、彼がかつて戦った敵の名前のリストにあった……。


「アダルトレジスタンスの、あの女か!? 生きてやがったのか!?」


「さあ、どうでしょうね。

 あなたには関係のないことです」


少女は再び刀を構える。

その構えには、先ほどまでの「優雅な踊り」ではない、執念に似た重みが乗っていた。


「あなたの言う通り、私は戦いのプロではありません。

 ただの素人です。……ですが、何もしていなかったわけではない。

 ある程度、スポーツを嗜んでいた身ですので」


「殺しとスポーツを一緒にするな。反吐が出るぜ」


「気にしないでください。単なる独り言です。

 ……私は、ずっと男性が羨ましかった。

 女であるだけで、超えられない壁があるのが悔しかった。

 ……総統は、私にそれと同じ……いえ、それ以上の力を与えてくださったのだからッ!!」


裂帛の気合と共に踏み込む。

乱雑だが、暴力的なまでの質量を伴った一撃。

坂上はそれをすべて「受け流し」で捌いていく。

Hound(ハウンド)は唇を噛み締め、剥き出しの敵意で刀を振るい続けた。


だがこの男の前で見せすぎた。

坂上が横から、その高周波ブレードを足の甲で叩き、軌道を強制的に逸らす。


「な……!? 高周波ブレードを横から足で叩くなんて!」


「プロを舐めるなと言っただろ」


一瞬の隙。

坂上のナイフがHound(ハウンド)の手首を正確に断ち切り、返す刀でその腹部を蹴り飛ばした。


「く……っ、あ……っ!」


Hound(ハウンド)がそのまま慣性に従い地面を転がる。

だが、彼女の反応は異常だった。

手首を失うという激痛に対し、声こそ漏らすものの、恐怖や絶望による停止がない。


「手首を落とされてその程度の反応か。

 お前、脳でも弄られてるのか?」


「……ぐ……うああぁぁぁぁ!」


それでも獣のように噛みつこうとする少女。

坂上は冷徹に、その両足の腱をナイフで切り裂いた。


Hound(ハウンド)は、今度こそ地面に這いつくばる。


「さて。

 お前がここで野垂れ死ぬなり、煮るなり焼くなりコロ助なりは俺の自由だが、

 いくつか見過ごせねえ点があった。

 ……吐け」


坂上はHound(ハウンド)の背に馬乗りになり、その細い首筋にナイフの切っ先を深く突き立てた。

夜の公園に、男の冷たい尋問の声だけが響く。


Hound(ハウンド)は諦めたように体に力を抜いた。

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