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第六十五話 蔡家の「矛と盾」


「気絶している」


 晴人の声色がいつもと違う。

 感情のないまるでAIがしゃべっているようだ。


 ってそうか、今は月城一夜がそばにいるんだった。

 月城の目が光っているところで、洗脳が解けているのがバレるとまずいんだった。

 でも晴人が、あんな術を使えるなんて知らなかった。


 それにしても、蓮沼はなぜここに術が掛けられたまま、放置されていたのか。森の精は誰が持ち去ったのか謎が増えただけだった。


「では行きましょう」

「いやいやコイツをここに置いてったら、目を覚ました暴走族に私刑(リンチ)に遭うだろ?」

「いいでしょう。瑛守くんがおぶりなさい。まあ途中どこかで降ろせばよい話ですから」


 スポーツカーの助手席に蓮沼を座らせ、晴人と瑛守(オレ)は窮屈なスポーツカーの後部座席になんとかカラダを収めることができた。


 北に向かっている?

 名護市内を北向けに走らせ、途中バス停で蓮沼を降ろし、ベンチに寝かせて、さらに北上する。


 国道五十八号線は、名護を出ると大宜味村、そして沖縄本島最北端である国頭村へと続いている。


 ☯☯☯



「よーし、現行犯逮捕だな、そこを動くな」

「無理デース、何故ナラ、ボクガ強イカラー」


 沖縄本島南部、南城市にある斎場(セ―ファ)御嶽。

 神名は「君ガ嶽、主ガ嶽ノイビ」といい、琉球開闢に登場する六つの神域(イビ)からなるこの地は、琉球創世神「アマミキヨ」が創ったとされており、琉球王国最高の聖地として今日(こんにち)にいたるまで崇拝の対象となっている。


 斎場(セ―ファ)御嶽の最奥部に三庫理(サングーイ)というイビに通じている岩と岩の間にできた三角形のトンネルがあり、その右隣に「チョウノハナ」という、創世神がクバの木を伝って降臨したとされる斎場御嶽の中でもっとも霊格の高い場所で不審な男を発見した。


 トンネルの中をこちらに突撃してくるので、いったん広場まで撤退する。


 なにも持っていない。

 顔はロシアとかウクライナ、ベラルーシなどの東スラヴ系の人種にみえる。


 デカいな。

 身長百八十㌢の兄の蔡唐楽が見上げないといけない。


 しかし、こちらは三人。

 長兄になんとか踏ん張ってもらっている間に、世にも珍しいダブル当主である双子の術で、彫刻のような筋肉をしたマッチョ男の自由を奪う。



 ドッ


「突撃シマシタヨー」


 突撃したあとに言うなやッ!

 兄の唐楽が両腕で防御したが、タックルを受け、数㍍ほど後ろに吹っ飛ぶ。

 人間ってあんなに吹き飛ぶもんなん?


「紅琳」

「わーってるって」


 弟の碧巴の方が冷静。視界を塞ぐため、予備で準備していた小麦粉をかけられ「ナニコレミ見エナーイ」と焦っている。


 どうだッ悶絶しろッ!?

 金的を狙った前蹴りをあっさりブロックされた。


「ザーンネンデシタ♪」


 そのまま蹴り足を掴まれ、真横に投げ飛ばされ、岩壁に背中からぶつかり息が止まる。

 なんだコイツ化け物か?


 殴り合いでは、三人でも分が悪い。とにかくデカすぎる。

 碧芭まで、右ストレートの拳をモロに浴びるが、後ろに自分で飛んだ分、威力は殺せただろうが、それでも大男の拳は重すぎる。碧芭が面白いように吹き飛んだあと、地面を転がっていく。


 バシッ

「ワーォ、イイ蹴リネ」


 唐楽が立ち上がると、大男に膝を中心に蹴りで、動きを止めた。

 対悪霊用の一般的な術が使えない以上、歴代当主が継承してきた蔡家の「矛と盾」を出さなければならない。しかし対人用ではないため、使用を躊躇してしまう。


「早クシナイトコノ男、病院送リニナルヨ?」


 こちらの術を待つ余裕まであるのか?

 唐楽が必死に男をおさえているが、重量級と軽量級のような戦い。唐楽は倒されないというだけで、けっして互角に渡り合っているわけではない。


「来ナイナラ、コッチカラ行キマース」


 と言いながら、術を発動する。


 

「sglaz」


 大男の両目が紅く光る。

 唐楽のカラダがビクンとはねると動かなくなった。

 

「脳ヲ軽―ク壊シトキマスネー」

「させるか、アホ」


 百八十度に近い角度でハイキックを大男の頬に入れ、唐楽から視線を剥がした。

 大男はたいしたダメージは受けておらず、すぐに視線をコチラに向ける。


「アレ? オカシイナ?」

「もうお前の攻撃や術は効かないぜ?」


 理由は簡単。

 うしろで碧芭が瞳術で、大男の邪視系の術を無効化している。そして……。


「ナニコレ?」


 目の前にいる(こうりん)に殴る蹴るの動作を立て続けに行うが、届かない。

 蔡家が誇る盾。特位守護霊「萬亀」。これを発動したからには、あらゆる害意を弾く盾が自分達を守ってくれる。これを崩すのは大陸からやってきた大男でも困難だろう。


 大男の顔から表情が消える。

 埒があかないと、瞬時に悟ったのはさすがといえる。すぐさま踵を返し、逃亡を図る。 

 だが、蔡家には最強の盾のほかに、最強の矛がある。


「なぁーにバックれようとしてんだコラ?」


 動きは速いが、紅琳(わたし)の守護霊を呼び出す速度の方がはやかった。


 ──「嘴魚」

 カジキの特位守護霊が男の太ももに突き刺さり、その場で前のめりに倒れる。

 ──「輪緘」

 続いて、碧芭の「萬亀」で両手、両足を拘束した。


「秘技!? 十倍返しッ」

「ゴメンサナ……『アブッ』許シテオネガ……『アブッ』」


 無抵抗になった男に馬乗りになって、私は邪悪な笑みを浮かべる。

 実は秘技でもなんでもないが、拳でコテンパンにしておいた。

 あースッキリ。


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