第六十話【誠実経常】
「沖縄そばも美味しかった」
「北部のそばも美味しいから今度食べにきてね~」
「おまえ、ちゃんと仕事したんだろうな?」
「バッチリ、カンペキ、モーマンタイ♪」
「あははッ……三十点」
舜歌と話している日不見に小虎がツッコミを入れる。
このふたり、一見、仲が悪そうに見えるが実は気が合う。
──午後四時四十五分。
那覇空港の出発ロビーで小虎と日不見が琉球八社の浄化が予定より早く終わったため、東京へ日帰りすべく、羽田行きのチケットを片手に現地の協力者に挨拶する。
三十分前。
日不見がどうしても沖縄そばが食べたいとの希望で、那覇空港内の食堂で沖縄そばを食べることになったが、程舜歌、音無小春はお昼にステーキを食べたので、まだおなかに入らないとのことだったので、別行動になり、小虎と日不見、閏弥生朔、程順宋、蔡唐楽の野郎五人で食事をとった。
その際、日不見に舜歌と音無さんのどっちが好きなのか? と聞かれ、「今はまだちょっと」と、どっちつかずな返事をしたら「日本のすべての喪男に謝れ」とキレられた……。
食堂を出て、二階の出発ロビーの近くにある吹き抜けの大空間であるウェルカムホールで舜歌と音無さんと待ち合わせをしていたので、エスカレータが上がり切ったところで、舜歌と音無さんがナンパされているのがみえた。
オロオロと狼狽えている自分の後ろで他の四人が急に立ち止まる。
「え? ふたりのところに行かないの?」
「それはおまえの役目だろ」
「そうだ、このハーレム野郎」
小虎と日不見が当たり前だろう? という顔で自分を見ている。
どうやら順宋さんも蔡唐楽さんも同意見らしく、腕を組んで見守っている。
え~~ッ
相手は三人。二十歳は超えていそうで、三人ともかなり体格がよく、少しというより、かなりヤンチャな人種に見える。
自分とあまり変わらない体格の日不見は置いておくとして、残りの三人はすごく強そうにみえるのに助太刀なし?
でも……。
「ねーねーいいでしょ? レンタカー借りてるからドライブ行こうよ? ね?」
「あの……ちょっといいですか?」
「うん、なに?」
「そのふたり、ボクと待ち合わせしてたんです」
「へぇ~~そう、あッキミさ、ちょっとあっちに行こうか?」
「ちょッ、放してください」
三人組のうちのひとりが肩に手をまわしてこようとしたので、振り払う。
舜歌と音無さんをみると、怖がっている様子はないが、言葉を発しない。
「そーゆー態度取るんだ。ふーん……」
すぅっと三人が周りを囲む。いつでも自分に手が届く範囲。
もし手を出すなら出せばいい。周りには人が結構いるのですぐに警備員が駆け付けてくれるだろう。まあそれまで耐えられるか、が問題……。
「兄々たち、朔~に手を出したら、拳骨殴打するよ?」
殴るなら顔とか痕がハッキリ見えるところは避けるはずだ。おそらく胸よりも下。やらないよりはマシだろうと、息を吸って腹に力をいれて、拳や蹴りの衝撃に備えていると、舜歌がニコニコと男達に告げる。
「私も許しません」
音無さんも顔をキッと眦を吊り上げて、宣言する。
「女の子に、にゃにができるのかにゃぁ? にゃにもできまちぇんよねぇ~」
「ウケる~ッ、ってか拉致っちゃうよ、キミたち?」
「アンタたち、そんなに後生に逝きたいの~?」
ちょっちょーーーっとッ舜歌、ストォォップ。
相手はあくまで一般人だし、生きた人間。祓っちゃダメよダメダメ。
男達に揶揄われて、舜歌もニコニコと実行に移そうとしている。
オジーに殴られたらホントにあの世に行きかねんから怖い。
「ロリッ娘でも容赦しねェゾ♥」
「そっか♪ オジー」
ズドドドッ。
綺麗に三発、男達の股間に沖縄の最強霊体オジーの拳がめり込む……。
いやー、なんかゴメンね。わかる、わかるよその気持ち……。
男達はもんどり打ったあと、背中を小さく丸めて床をゴロゴロと転げまわっている。
「次は三倍のパワーで行こうかな~っ?」
「ひぃーーーーッ、殺されるぅぅーーッ」
男達からしたらオジーは視えないのでなにをされたかもわからないが、とりあえず目の前の幼女が危険であることに気が付いた。
内股のままで逃げていく男達の背中を見ていると、舜歌が自分に近づいてきた。
「朔~ありがとうね~誠実経常だね~ッ」
誠実経常? ナニそれ?
誠実経常は「常に誠実であれ」という裏・六言のひとつで、教えとともに、嘘を見抜いたり、幻惑を解いたりすることができる術名でもあるそうだ。
あとふたりが先ほど、ナンパされたのにおとなしかったのは、いつでも撃退できるが、自分がみえたので、ちゃんと守ってくれるか試したらしい。ひどい……。
そして三十分後。
「モテ男、耳かして」
「?」
「別嬪のお姉ちゃんには気をつけた方がいい」
「え?」
今のって、音無さんのこと?
どういう意味なのか訊き返したかったが、不知見は踵を返して自分から離れていく。
「それじゃまたな~」
「ばいばーい、いつか東京に行ったら観光案内してね~ッ」
「あいよ~、その時は若者の街から、悪霊が蔓延る街まで案内してあげるよ」
いやいや東京行ってまで悪霊祓うのは、さすがにちょっと。
舜歌と日不見が明るく別れの挨拶を済ませると、保安検査場の中に入っていった。
「それじゃ帰りますか」
『ドォドォールゥ♪』
ふたりを見送り、順宋さんと唐楽さんが車を停めている立体駐車場に戻る途中、壮大な曲が流れる。なんか聞き覚えはあるけど曲名はあんまり詳しくない。
「これはペール・ギュントの『山の魔王の宮殿にて』ですね」
音無さんが説明してくれた。
作曲家エドヴァルド・グリーグが、劇作家ヘンリック・イプセンの劇文学『ペール・ギュント』のために作曲した劇付随音楽で、『山の魔王の宮殿にて』では物語の主人公ペール・ギュントがトロールたちに囚われた夜の恐ろしい様子を描いているそうだ。
うーん二人とも、なんか知的にみえる……。
「私はちび〇〇〇ちゃんとか、〇たし〇ちの曲が好き~ッ」
よかった舜歌。
唐楽さんや音無さんより舜歌の方が共感を持てるよ。
「……わかったすぐ行く」
「どうした?」
緊迫した表情のまま通話を切った唐楽さんに順宋さんが訊ねる。
「ウチの双子がやられた」
え……。




