表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/71

第五十八話【やちむん】


「ふーん、焼き物の通りね~」


 車を移動させるため、別行動で舜歌の兄以外の三人は徒歩で国際通りを横切り、平和通りの中を通って、壺屋というところまで歩いてきた。


 壺屋やちむん通り。焼き物と書いて「やちむん」と読み、文字通り焼き物の町として知られる区画。

 

 壺屋の焼き物の歴史は沖縄の焼き物史に直接関わりがあるそうだ。一七世紀初めに大陸の陶工が招聘されたことが始まりで、湧田窯や知花窯、宝口窯などが那覇市壺屋に統合され、壺屋焼が誕生した。

 しかし明治以降、琉球王府の廃止や、本土から安価な焼き物が流入し、沖縄の焼き物文化は低迷したが、大正末期、民藝(みんげい)運動により、様式美としての価値が再評価され、低迷期を脱しものの、太平洋戦争で多くの窯場が破壊されてしまった。


 この時、「壺屋の入域」という歴史的な出来事が起きた。

 一九四五年、沖縄戦終戦。この時、那覇市全域が米軍の攻撃により、建物等そのほとんどが破壊されたが、壺屋地区は奇跡的に被害を免れた。

 しかし、那覇市は米軍の占領下にあり、住民は立ち入りが禁止され、住民のほとんどは沖縄本島北部の民間人収容所に収容され、食器や鍋などの日用品が不足していた。

 その状況に好機を見出した沖縄諮詢(しじゅん)会商工部が、米軍政府将校に働きかけて、壺屋で焼き物を作ることを交渉し許可を得た。商工部は、壺屋であればすぐに生産できると約束した代わりに、焼き物(やちむん)は焼き上がるまで徹夜が必要であると主張した。米軍将校はこれに同意し、一九四五年末に約一〇〇人ほどの陶工たちが「陶器製造産業先遣隊」として壺屋に戻ることを許可された。その後、壺屋では、食器やつぼなどの日用雑器だけでなく、米国人向けの土産物も作られるようになったことから、壺屋に多くの人が住むようになり、那覇市の復興につながっていった。この「壺屋の入域」は、焼き物という産業があったからこそ可能だった歴史的な出来事で、沖縄の人達が、戦後すぐに自分達の権利を掴み取った沖縄の重要な歴史の一コマである。


「ちょっと腹ごなしになんか作ろう」


 通りに幟旗(のぼりばた)が上がっている陶芸体験のできる窯元へと向かう。

 狭い路地を抜けると、平屋で(おもむき)のある造りの陶房(とうぼう)があり、その手前で人が行列を作っている。


 こういった陶芸体験も隠れた人気なのかと、考えながら行列に並ぶこと三十分。立ったまま入眠できそうな気がしてきた頃に自分達の番が回ってきた。


「体験は三名ね~、こっち~」


 繫茂期なのか、どう見てもこの陶芸をかじっているようにはみえない人が限りなく低気圧モードなテンションで接客している。こっちが高校生だからかな?

 Gパンに半袖と、ごく普通の恰好。


「手びねりの茶碗、コップ、点打ち絵付け、あとシーサーも一応できるけど、どうする?」

「じゃあ私シーサー作る」

「私も」

「自分はお皿で」


 店員にコースをどうするのかとの、問いに各々返事をした。二人はシーサーを選んだが、自分(ひみず)はシーサーなる人家の門や屋根に乗っている魔除けをまじまじと見たことがなく、狛犬的なヤツかな? ぐらいの情報量しか持ち合わせいないし、あまり手先は器用な方でもない。


「あ~、今忙しいから先生とかお弟子さんが、小学生に教えている時間がないけどホントにシーサー作るの?」


 勝手に作れってこと?

 見ると、この部屋には、他に二組の観光客のグループがいるが、皆、お皿を我流で作っていて、デコボコしたものを一生懸命こねている。


 子どもは手がかかると言いたげな男に抗議しようとしたが、舜歌に手で阻まれた。


「いいよ~♪ 兄々(にぃにぃ)も私達の邪魔をしないでね~」

「は?」


 店員が程舜歌を睨むが、彼女は涼しい顔で「早く粘土ちょうだい」と催促する。


「お子様には無理だろ?」


 険悪な空気が流れ、店員は拳大の粘土を三つ、板の上にドンと置く。

 うーん、なんでこんな人を雇っているんだろ?


 部屋と部屋をつなぐ扉が開いていて、あちらは陶房のお弟子さんらしき人が作務衣(さむえ)を着て、丁寧にお客さんに教えているのがみえる。


 ──三十分後。


「できた~ッ」

「私もできましたが、自信はちょっと……」


 うーん、自分もやったことのないお皿作りなので、でこぼこはしているが、手作り感があって割といい味を出している。


 音無小春の方は、自信がないと言っている割には売り物としても何の違和感もない程のハイレベルな仕上がり。うむ、素晴らしい。


 程舜歌の方はどうだろう?

 うッ! 

 ──これはッ!


 程舜歌のシーサーは、素人がみてもシーサーにはみえない。目が前に飛び出していて、口が大きすぎる。


「ぶわっはは、なんだコレ?」


 案の定、あの店員が大声でバカにしてきたが、程舜歌は「カワイイはゼッタイ、ニイニイ、イッサイ、カンケイナーイ♪」と店員の嘲笑に対して、韻を踏んで相手にもしていない様子をみせる。


「なんだ騒々しい。客に失礼だろッ」


 この陶房の窯元だろう主人がアルバイトの店員の大声を聞きつけて奥の方から顔を出した。


「すんません、この客が作った変な生き物が面白くて……くくッ」

「こ、これはッ!?」


「ね? 先生、面白でしょ?」

「この馬鹿者(フリムン)がッ」


 主人に思いきり頭を小突かれた店員は目を白黒させる。


「十年……いや、百年に一度の天才が現れおった」


 はい~~~~~~ッ


 その後、ふざけた店員は客を(ないがし)ろにした所業を他の客からのクレームでバレて、自分達の目の前でクビになり、程舜歌の国宝級と称された作品は、絵付けや釉薬(うわぐすり)を施したあと、窯元が責任をもって本焼きを行うので、後日、展覧会に出品したいと打診された。


 こんなことある?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ