第五十三話【めーごーさぁー】
「はい現行犯逮捕~ッ!?」
ん、なんだ。
このちっこいのは?
小学生くらいの女の子が洞窟の入口側の階段の途中でオレたち二人を指さしている。
階段の上、後ろに三人いて、その内の二人はオレたちと同い年くらいにみえる。
多分アレだな。
オレたちを死の獣と間違えてるだろ?
「おい、オレらは違……」
「問答無用ッ! 拳骨制裁」
他の連中はオレ達をどうこうするつもりはないらしい。
なら、ちっこいのを何とかすればいい。
小虎は、代々相伝された門外不出の術ではなく、一般的な陰陽術で迎えうつ。
式札に言霊を乗せ、息を吹きかけると、猿と鴉の式神として二体象る。
ちょっとイタイ目に遭うかもしれないが実力の違いをみせてやらんとな。
式神が天井すれすれと軽快な跳躍で女の子にジグザグに近づいていくが、慌てた様子もなく、突っ立っているので、逆にオレの方がドキドキしたが、大丈夫だった。
鴉と猿の式神の体に縦、横と白い線が走ったと思ったら、真っ二つにされた。
彼女の足元には黒猫が、その琥珀色の眼だけが鮮やかに輝いている。
降霊術師、か。
見たところ、意思をもっているから上位式神にもみえるが実体を持っていない。
おいおい……本部にもこんな術者、そういないけど?
霊体自体は動物霊なのにこれほどまでに昇華させることができる術師がこんな小さな島にいるとは驚きである。
少し遊んでやろうか、と軽い気持ちでいたが、どうやら全力を出すに値する強敵のようだ。
小虎は身構え、“虎法„の準備に掛かる。
みると相手も別の霊体を出すべく、片手で印を結んでいる。
『ゴスッ』
「いってぇぇッ……日不見、テメェ何しやがるッ!?」
「何しゃあがるのはおみゃーの方だッ」
後頭部を思いっきり連れの日不見に小突かれた。
「ごめんなせゃー、ワシらは本部から来た人間ですわ」
「そのマギーも?」
「オマエ、今オレの悪口言ったろ?」
日不見が誤解をとくと、沖縄の方言で何か言われたのですぐさま反応した。
マギーとは身体の大きい人のことを言うらしく、悪口ではないらしいが、なんか勘に障る。
後ろの二十代半ばくらいの男から説明を受けた。
そういえばさっき説明聞いたや。
ちっこいのは、車の中で教えてもらった沖縄五家のひとつ、「程」家の現当主で、沖縄特有の降霊術「魂使い」の最強の使い手。
どおりで強い。
奥の手がどんなモンか知らんが、もしやり合っていたらオレもタダでは済まなかったかもしれん。
コイツらが俺たちを死の獣と勘違いした理由。
それは、ここに来る前にオレ達をみて逃げ出したデカい男。山入端というヤツが間違った情報を流した張本人だそうだ。まったくいい迷惑。
「それよりお前らも手伝えよ」
「順宋いいの? 手伝って」
「彼らの管轄で彼らから要請があれば大丈夫だよ」
「じゃあ早く終わらせよーッ」
簡単に言ってくれるぜ……。
霊疵は、いわば人間で例えたら大怪我をした状態なので、サクッと治せるような代物ではない。
ちっこいのと他に二人、見た目がぱっとしない男子と、どこぞの女優かアイドルか? と疑いたくなるような美女が控えているが、後ろのヤツらも相当デキるが、五人掛かりでも一時間は掛かるんじゃないだろうか。
「お注射セットぉぉ~~~ッ♪♪」
わざわざ肩掛けのサコッシュをお腹の前に持ってきて、ネコ型ロボットの真似をしながら注射器を取り出す。
「ちっこいの、なんだソレ?」
「でっかいの、黙ってみとくといいよ~」
ぐッ……。
いちいち勘に障りやがる。
ちっこいのが、霊疵となっている三本の爪痕がある岩床にグサグサと注射器らしきものを刺していく。
「これは霊力注入器、そのまま注入しとけば明日には元通りになってるよ~」
霊力は一気に注入されるわけではなく、時間を掛けてゆっくり注入すれば、霊疵が消えてなくなるそうで、刺しとけばいいので、明日注射器を回収にくれば済むそうだ。
マジか?
そんなモン初めて知ったぞ。
やっぱりあれか。
沖縄の呪術体系は、日本はもとより中国やアジアから流れてきたものが、合わさって独自の発展を遂げているってホントなんだな。
だが、素直に感心などしてたまるか!?
なんか知らんが、このちっこいのとは生理的に合わん。
「ココ何か所目?」
「まだ一か所目だわ」
おい、日不見、余計なこと喋ってんじゃねぇよ。
「じゃあ、手伝うよ」
「それは助かるわ。よろしゅう」
「ちッ」
ちっこいのと日不見が勝手に話を決めてしまったのでそっぽを向く。
「手分けしようね~。デッカイのは朔~っと一緒で」
朔と呼ばれた後ろにいる男子はあたふたしている。
なんだ?
そんなにオレと組むのがイヤか?
「私と小春~と日不見~が一緒ね」
日不見、もうちっこいのに呼び捨てにされてる。
まあ、いいんじゃないか。
ちっこいのと一緒じゃなければ組み合わせはどうだっていい。
洞窟を出て、駐車場に戻ると、本島南部の協会員と小虎、やっぱり同い年だった朔という高二男子と三人で次の目的地に向かった。




