第三十七話【術合戦後半】
「じゃあ黒で♪」
舜歌は明るくそう宣言した。
中堅、実力は最強なのにジャンケンでこうなってしまった。
「ウガァァァ」
ビリビリと空気を震わせるほど咆哮した黒鬼は、高く飛び上がり舜歌目がけて金棒を振り下ろす。
「百脚千歩」
舜歌が札を自分の両足に貼ると、霞むほどの速さで金棒を避ける。
いやいや、ダメだってそれ、当たったら即死じゃないか……。
舜歌が今までいたところに振り下ろされた金棒は周囲を巻き込み爆発した。
クレーターができてる。ちょっと洒落にならないんだけど?
『ボボボボン』──いつの間に貼ったんだろ? 黒鬼の体に四枚の起爆札が貼られており、同時に爆発が起きる。
なにやってんだろ?
舜歌は爆発のことなどお構いなしに、札を大量にビーチの砂の上にばら撒いている。
爆発の煙の中から多少、ダメージを負った黒鬼が飛び出し舜歌に迫るが、舜歌の方が先に術を完成したみたいだった。
砂の上にばら撒かれていた札が磁石にくっつくようにピタピタと黒鬼の体を万遍無く貼っていくと煙を上げて倒れた。
「チビが黒なら私も黒でやったる」
えらく鼻息荒い蔡紅琳さんが、黒鬼を選択し戦闘が開始される。
紅琳さんって封印術が得意と聞いていたが、授業の時に使用した壺らしきものがどこにも見当たらない。
「壺? そんなの要らないわよ、私はコレ」
誰に聞かれた訳でもないのに、首に提げているガラスで出来た三つの小瓶の蓋を引き抜く。
風が渦を巻き、黒鬼を無理やり吸引しようとするが、黒鬼は足を踏ん張り耐えている。
「ちょっと弱らせないと無理か……」
紅琳は一度、吸引を止め、両手、両足に身に着けている手甲と脚絆であのバカみたいな力の黒鬼の懐に入っていく。
殴り、蹴り、また殴る。
紅琳さんの攻撃は確実に効いているが、黒鬼も黙って殴られているわけではなかった。
ザシュ、金棒をワザと砂を掬い、紅琳さんに向けてまき散らす。
危ない!?
金棒を持っていないもう片方の手で視界を一瞬奪われ動きを止めた紅琳さんを殴りつけ、吹き飛んだ紅琳さんは、波際の方まで吹き飛び、水しぶきを派手にあげる。
本当に寸止めするつもりがあるのか?
大きく跳躍して、紅琳さんの頭上へ巨大な金棒を振り下ろさんとしている。
「飛魚」
尻をつけた状態で半分ほど海水に浸かっている紅琳さんは、両手を海面に叩きつけると、二条の水柱が上空へ昇っていき、黒鬼を突き刺し斃した。
「はい、失格~」
「ちっ」
今のって紅琳さんの喚魂術だったんだ。魚の形をしていたから分からなかった。
舜歌に嬉しそうに違反を宣告されると、心底面白くなさそうな顔のまま、自分の座っていた場所に戻った。
「私も黒で」
中部の代表、林世沙さん。
車椅子に乗ったまま黒鬼と対峙する。
ちょっと自分が心配するなんて、おこがましいことは承知してるけど心配だ。
さっき、あの紅琳さんが喚魂術無しで勝てなかった相手。
なにより、世沙さんには移動の制限というものがある。
しかし杞憂だったことを知る。
「“縛„」
字術……。
沖縄で唯一の使い手とされる林世沙さんの技は非常に奇妙なものだった。
人差し指と中指を揃えて二本指で、空中に漢字を書くと、その効果が発現される。
黒鬼は即座に半透明な鎖に拘束されて砂浜の上に転がる。
「〝潰〟」
勝負がついた。
あまりの速さでの幕引き。
見ていた全員が歓声を上げるタイミングを逃し静まり返る。
凄いな。やはり三家に数えられるだけある。
──その後も術合戦は続き、副将として音無さんが出て、なんと青鬼を倒してしまった。南部、中部も銘苅さん、平安山さんが負けじと青鬼に挑みギリギリで勝利する。
そして大将戦、北部は閏弥生朔。
まあジャンケンでこうなっただけだけど……。
「朔~黒鬼いったらいいさ~♪」
「イヤです」
「なんでー? 朔なら勝てるのに」
そんな無茶な。
紅琳さんが勝てなかった相手に勝てる訳ないでしょ。
ハッキリいって、黒鬼に行ったら冥土に逝きそうで恐ろしい。
なぜか青を選んでしまった。
あ、いや、ちょっと間違えちゃった。
これはアレか?
舜歌がバカ高いハードルをみせられて感覚がおかしくなっちゃうヤツ。
ちょっと待ってくれと頼むが聞き入れてもらえない。
青鬼って、銘苅若菜さんや平安山さんがやっと勝てるような相手。真面目に修行始めて六日目の初心者が戦っていい相手ではない。
そう思っていたが、意外と善戦した。
ホント、自分でもビックリ。
廃村でトゲトゲの上位悪霊と戦った時に一時拝借した仙木剣、それを舜歌から譲ってもらったものが今、自分の手に収まっている。
なるほど。
さっきからみていて変だなと感じていた質量を無視した戦いは全て霊力が原因であることがわかった。
霊力を剣に込めれば込めるほど、青鬼を苦しめることができた。
トドメを刺そうとした時につまづいて、体勢を崩したところで、こめかみギリギリに青鬼の金棒が静止していた。
「ドンマイ朔~、でも実戦で油断したら大変なことになるよ」
いいところを見せられなかった。
どこかで慢心してしまったのかもしれない。完全に油断から生じてしまって手から勝利が零れ落ちてしまった。
この時点で北部は一〇㌽。中部が九㌽、南部が五㌽でまだ勝敗の行方がわからない状態。
残る二人は林世沙さんのお付きの人と蔡碧芭さん。
この後、自分の予想を裏切る結果が待っていた……。




