第二十四話【海の精】
「私と碧芭で三十四体、北部はどうなの?」
「えーっと、舜歌が十五、朔が四、小春~が十二で瑛守は二十三、順宋が五だから五十九体だね」
「クッ、アンタ達、野球部入れるなんてズルいわよ」
「瑛守のタマゴが途中で尽きなかったらもっと捕れてたのになー」
「二対五だから不利に決まってるじゃない」
「ほら始まった。負け惜しみ」
五人相手でも余裕で勝てると確かに始まる前にのたまっていたのを覚えている。
「なによ、あなた一人なら私に負けてるじゃない」
「本気出したらひとりで五十体は捕れたよ」
「嘘つくな、チビ」
いや、舜歌は嘘つくようなヤツじゃない。
マロちゃんだけ出して捕獲に協力してもらっていたが、「オジー」が出たらホントにそれくらいは余裕で捕えることができたんじゃないか?
中部の人達は別に競争しているわけではないので、虫かごに入った海の精を数えているわけではないが、ネズミ系を中心に大体七十体くらいは捕まえていると思う。
そういえば、林世沙さんがどういう風に捕まえていたのか見てなかったけど、彼女の手元の虫かごに二十体くらいを二つに分けて入れて持っているのがみえる。
やっぱりそれぞれの代表の家の人達ってなにか優れた特技のようなものがあるんだろうな……。
「海の精は中部の方で責任もって海に帰しておきます」
海の精に悪意はない。
しかし、この場所に溜まってしまうと色々なものが引き寄せられてしまい、巨大なエネルギーの塊になることがあるそうで、災害なんかもそういった場所で起こってしまうことが過去にあったそうだ。
海の精はちゃんと海に放してあげたら、潮の流れに乗って分散していくらしく、災厄は発生しなくなるそうだ。
それにしてもなんでこんなに砂浜もないところへ上陸して溜まってたんだろう?
その答えは舜歌や順宋さんも持ち合わせなく、中部の人達からもその部分に関する説明や質問も一切なかった。
「ところで舜歌さん、その三人も夏休みの合宿に参加するの?」
「うん、そうだよ~」
なに合宿って? 聞いてないんだけど。
って瑛守も合宿に行くの?
『ズズンッ』
地震?
撤収の準備をしていると突然、地震の様な揺れを感じた。
すぐにスマホをみると、マグニチュード三.五、沖縄本島中部で最大震度が三。
SNSなども覗いたが津波の心配は……なし。
沖縄に来る前は、千葉に住んでいたので震度三くらいならそこまで驚くことほどではないが、神奈川県出身の音無さん以外は結構、動揺している。
どうしたのか舜歌に聞くと沖縄本島は地震がほとんど大きなものが来たことがないらしく震度三でも皆、結構慌てるらしい。
確かにこの封鎖区域の外側にある建物からあちこち明かりがついて、マンションやアパートのベランダから人が出て辺りをキョロキョロし始めている。
「目立つから、即刻解散しましょう」
林世沙さんの呼びかけに皆、頷きそそくさと離散していく。
(朔、なんか感じる……)
「うん、なんかいるね」
寿姉の声に舜歌も同意する。
確かに何か不思議な感じがする。でもその不思議な感じの正体がなんなのかまでは理解できない。
駐車場に戻ろうとしていたが、角を曲がり海の方向へと向かう。
「皆さんも気が付きましたか」
装飾された柵を超えた先には青色と水色で着色された四脚消波石があり、下に降りれず少し遠目であるが確かにいる。
ザンを海に還そうしていた林世沙さんと車椅子を押している女性、他の術士二人の四人が隣で沖の方をみていた。
ボウッと淡く光る“ソレ„はここからでも数㍍はある巨大な魚であることがわかるが、瑛守や音無さん、順宋さんには視えていないらしい。ということはコチラ側の世界のものではない”ナニ“か……。
水深の浅い珊瑚礁のギリギリ外側をゆっくりグルグルと付近を回っている。
「おっ、なんだアレ?」
自分達に続いて蔡姉弟が海岸に到着して驚きの声をあげた。
誰も知らないその存在を眺めていたが、林世沙さんが何か気が付いたのか同行している術士二人に集めた虫かごから海の精をここで放すように伝え、次々に虫かごからザンを解放すると、浮いたり消波ブロックを這って海に飛び込んだりしながら、淡く光る“ソレ„の元へと集まっていく。
「順宋、なんか知ってる?」
「いくつか可能性があるけど、いずれも“神格化„されているモノばかりだね」
全ての海の精が光るソレに集まると、ゆっくり向きを変えて沖へと消えていった。
「地震ってアレが原因だったのかな?」
「それはわかり兼ねますが、その可能性はあるでしょう」
舜歌の質問に林世沙さんも首を傾げながら答えた。
この世の中には裏の守護者達にも分からない何かがいるということなんだろう。
不思議な感じだったが、イヤな感じではなかった。
超常的な何か。それが人に牙を剥いてしまったら……想像するだけでも恐ろしいが、理解の範疇を超えた事象を人は全て天災と捉えるが、もしかしたらこういった存在による影響もあるのかもしれない。
「海の精をみつけたら倒さず海に還すって教えはこれが理由なのかもね」
舜歌のボヤきに皆、口にはしないが納得した様子だった。




