第十六話【アカン、惚れてまう】
「“ウシ„という魔物は一般的な解釈でいうと死神のような存在」
公民館から借りた懐中電灯を片手に山道を登っている。
順宋さんが前を歩きながら、自分と音無さんに説明している。
順宋さんの説明によると“ウシ„は遺念火と呼ばれるヒト魂があがった家に現れ、寿命を迎えた人間の魂をあの世=後生に連れて行く役割を持っているそうだ。決して悪い魔物というわけではないらしく、ヒト魂も上がってないのに“ウシ„が現れることは普通ないそうで、なにか他に原因があると考えたそうだ。
何の力も持たない一般人は危ないということになり、現在、舜歌、音無さん、順宋さんと自分の四人で行動し、区長さんには公民館で待機してもらっている。
区長さんの話しによると一本道の先、山頂付近に昭和の時代に廃業したホテルの廃屋がそのまま残っていて、山の麓から見えるホテルの上階からヒト魂のような青白い光が見えるそうで地元の人達は恐ろしくて誰も近寄らないそうだ。
山の反対側から車で上がれる私道はあるようだが、五十年近く前に封鎖されており、草木に覆われ自然に戻っていて車では上がれなくなっているそう。この細い山道は、山の中腹にある”拝所„に祝女が行事の時に上がるくらいなのでそこから先は鬱蒼とした険しい山道になっていた。
先頭の順宋さんと舜歌の後ろで辺りをキョロキョロしながら歩いていると、舜歌が振り返る。
「ハブが怖いの? 大丈夫だよ、マロちゃんが追い払ってくれるから」
舜歌のいう“マロちゃん„とは猫の守護霊のような存在らしく寿姉と同じで舜歌を護っている存在らしい。
山の頂上に到達すると、所どころアスファルトを割って背丈を超えるほど大きくなった薄が、かつて駐車場だった場所を占拠し視界を狭めている。
順宋さんが薄の葉を三本引き抜き、適当な長さに千切り妹に渡すと舜歌がささっと、その葉を結っていく。
「小春~、朔~コレ持っといて」
渡されたのは、薄の葉を三枚重ねて腕の長さくらいの大きさに結ったもの。
「即席魔除けだから手放さないでね」
よくわからないけど、舜歌が作ったのだから効果は期待できるだろう。
左手に持って建物の中に突入する準備を整える。
その昔、ホテルだった建物はコンクリート造りの四階建てで窓はすべて割れている。外壁に拡がっている蔦が建物の中に入り込んでいて不気味さをより一層演出している。
足元を取られないように気をつけながら、入口からエントランスホールへと侵入する。
「一階にはいないね~普通の階段と非常階段で手分けして登ろう」
舜歌の提案に素直に了承できない。
誰が舜歌と離れるのか?
そう考えていると、あっさり班分けが決まった。
──舜歌、音無さんペアと順宋さんと自分。
イヤイヤイヤイヤイヤ……。
「視えない人」と「素人」の組み合わせっておかしくない?
だって舜歌は無双状態だから置いておくとして、音無さんさっき明らかに術のようなものを使ってたよね?
もし魔物と遭遇したら、寿姉が一人で戦うことになるけど?
組むんだったら自分と音無さんがいいんじゃないか?
いや……けっして他意など持ち合わせてないけど、ウン。
そんな自分の心の声が聞こええるはずもなく順宋さんが、いつも掛けているメガネを外し、霊視眼鏡に替える。頭にヘッドライトを装着し、右手に爆竹、左手にペットボトル。口にはタバコを咥えているのか白い煙が立ち昇っている。
──やる気みたいだけど、なんだろその恰好?
非常口のある裏の方にまわった舜歌たちと別れ、エントランホールから曲線を描いた大階段で二階へ上がっていく。
階段を曲がり終えた先、二階の少し先の廊下に頭だけが真後ろになっている人が立っている。
あ、これ無理なヤツ……。
順宋さんのヘッドライトと、自分が手に持っている懐中電灯の光が重なり、ありえないモノを照らす。
ぐぐぐぐぐぐぐぐっ、ぐるんッ!?
真後ろを向いていた頭が横に錆び付いたネジを回すように、ぎこちなく動いたかと思うと一気に頭が回転し、バネのように余韻を残しながらもこちらに顔が向く。
「ね゛ね゛ね゛ね゛ね゛ね゛ね゛」
「ぎゃあぁ~~~~~~~~~っ!?」
(きゃぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?)
ちょ、ちょっと寿姉、自分と一緒に怖がってどうすんの? 二人で両手を頬に当て恐怖の叫びをしている。
両目が真っ暗な空洞で黒い血の涙を流した濃色の上下で整えたホテルマンだったと思われる“ソレ„が滅茶苦茶な関節の動きを披露しながら走り寄ってくる。
ヂッ──バッ、パパパパパパパパパパン!
順宋さんが落ち着いた様子で口に銜えたタバコの火で爆竹に火を点け、狂ったホテルマンの足元に投げると、炸裂音が響き渡り、ホテルマンが怯んだところにペットボトルの白い粒が追い打ちをかける。ホテルマンに直撃すると黒い蒸気が吹き上がり、悲鳴を上げてブリッジするように後ろに倒れ、蜘蛛のように四つん這いになった状態であり得ない速度で廊下の奥の方へ逃げていった。
「朔くんビックリした?」
「はい……」
順宋さんが口に銜えていたものを左手の指二本でつまみ、口から離したのをよくみると、タバコではなく線香だった。!?──なるほど火種だったんだ。
「こういう幽霊屋敷みたいなトコロって本当に幽霊がいるから遊び半分で近づいちゃ駄目だよ」
「はい、今、ボクの心の奥底に刻みこんどきました」
「あははっ面白いことを言うね朔くん……あとキミも大丈夫?」
(コクンッ♡)
順宋さんの視線が隣にいる寿姉に向けられると、あれ、おかしいな。頷く寿姉の両目が♡に見える……。
にしても、順宋さんカッコイイ。
自分も惚れてしまいそう(おい)




