最期の言葉
奇妙な世界へ……
俺は津久井義彦。死の瞬間を見ている男だ。
俺はとある留置所の職員で、いつも死刑囚を腐るほど見ている。
なので、親の顔ほど奴らの最期の言葉を聞いてきた。ある者は『死にたくなーい!』、ある者は『ごめんなさい…ごめんなさい…』、ある者は何も言わなかった。
この仕事は結構精神に来るものがある。なんせ、人の死を見ることになるのだから。なので、一回死の瞬間を見たあとに辞めてしまう者もいる。しかし、俺は二十歳にこの仕事に就いてから、三十年間、辞めずに続けてきた。正直、精神が強いのだろう。本当に、人の精神というものは不思議だ。
そんなある日の事。囚人番号『964』こと、益子博司の執行が確定した。
益子博司は幼少期に貧困に住み、最終学歴は中学生だった。アルバイトをするも、教養の無さが仇になり、すぐに辞めていった。
そして、数年前の3月29日。それは起こった。益子が殺人を犯したのだ。
最初に殺したのは西見町に住む老夫婦だった。二人を殺す際、益子はこう言っていた。
「ヒャーハッハッハッハッ!俺は殺しても何も失わねぇ!ざまぁ!ざまぁ!」
何も失う事がない無職。それが社会とって怖いものであった。
そして、一年前、奴は人を殺していく内に、奴は捕まり、死刑判決を受けた。
これで今に至る。
俺は首に縄が掛かりそうな益子に声を掛けた。
「囚人番号964。何か最期に言う事はあるか?」
すると、益子は凄まった表情でこちらに言った。
「俺は!お前の孫に生まれ変わって!お前の親族を呪ってやる!」
「………わかった。じゃあ、開始しろ」
そして、奴は死んだ。3月29日、8時26分。この日はあの老夫婦が亡くなった日でもあった。
それから数日後、電話がかかった。
「なんだ?」
相手は息子の貴明だった。貴明は2年前結婚して、その奥さんである智恵が今妊娠しているのだ。
「どうした?貴明?」
「父さん、聞いてくれ、息子が…息子が産まれたんだ!」
「何!?産まれただと!?わかった、今すぐ病院に行く」
俺は電話を切ると、病院に向かい、貴明と智恵がいる病室に入った。
「赤ちゃんは!?」
俺は二人の元に駆け寄ると、智恵が赤子、所謂俺の孫を抱いていた。
「父さん、可愛い子だろう?」
「あぁ、可愛いなぁ」
俺が孫に笑顔を見せてやると、孫は『キャッキャッキャッキャッ』と笑った。
「それで、名前はもう決まったのか?」
「あぁ、博司だよ」
「博司かぁ…」
「由来は、博士のように賢く司る子でいてほしいからだ」
「そ、そうか……」
一瞬、益子の事が頭によぎったが、たまたまだと思い、博司に笑顔を見せた。
それから二週間後、智恵が退院し、三人は幸せに暮らしていた。
しかし、事態は起こった。それは智恵から電話があったのだ。
「はい、義彦だが」
「お義父さん!貴明さんが…」
「た、貴明がどうした!?」
「貴明さんが…車に轢かれて…」
「えっ!?」
「今、病院に緊急搬送されてて…」
「わかった!今すぐ行く!」
俺は所長に許可を取ると、智恵の言った病院に向かった。そして、廊下で智恵と博司を見つけた。
「貴明は…」
「命に別状は無かったわ…貴明さんは、飲酒運転の車に轢かれて…」
「そうか……」
俺は博司を見ると、何か、ニヤリと笑った気がした。
それから数カ月後、貴明は退院した。俺達は退院したことを大いに喜んだ。しかし、博司は喜んでいなかった。まぁ、赤子にはこういうのはわからないのだろう。
それから数カ月後、俺は休暇を取り、貴明達3人ととある墓場に行った。その墓場には、妻の京子の墓があった。
京子は俺のかけがえのない人だった。俺が30の頃、結婚した人でもあった。
しかし、京子は俺が40の頃、とある男に殺されてしまった。それが、あの男、益子博司だった。京子が一人で家に居たとき、益子に殺されてしまったのだ。俺は京子の死体を見たとき、俺は泣いた。体の水分が無くなるんじゃないかと思うくらい、泣いた。
そして、墓の前で、俺は手を合わせた。
(京子、天国で見守ってくれよ…最近、孫が産まれたんだ。名前は、博司だよ…)
その帰りの事。俺達は昼飯を食べた後、帰るために車に乗っていた。運転は、こないだ運転免許証を取った貴明だった。
「貴明!上手な運転じゃないか」
「いや〜それほどでも」
すると、走りがおぼつかない車が横に来た。
「なんだ?」
「走りからして、あおり運転だろうな」
「いやねぇ…」
すると、その車が前に出たかと思うと、急に止まり、俺達の乗っていた車にぶつかった。
「うわっ!」
「なんだ!?」
「キャッ!?」
「オギャーオギャー!」
博司は泣き始め、貴明と智恵は焦りだした。
「くっ…何なんだよ…」
すると、前の車から、一人の男が出てきた。その男は覆面を被っていて、バールを持っていた。
「な、何なんだ、アイツ!?」
すると、男はバールを振り上げたかと思うと、車の窓を割り、車のロックを開けたのだ。そして、男は俺を引きずり出したのだ。
「な、何を…」
「ケケケッ、俺は人を殺したくてしょうがないんだよ…俺はこの社会を恨みに恨んでいた……でも…神様がこうお告げしたんだ!『人を殺しなさい』とな!」
どうやら、男は狂っているようだ。
「だから、俺の成長の第一歩となってくれよぉぉぉぉ!」
そして、男はバールを横に振り上げ、俺の横腹に当てた。
「うっ…」
「ケケケッ、次は腕だ!」
今度はバールを腕に当てた。
「ギャッ…」
「ラストは頭だァァァ!」
そして、男は頭にバールを当てた。
「ぐっ…………」
そして、そのまま意識を失ってしまった。
「きて…起きて…起きて…」
「はっ!」
俺は病室にいた。
どうやら、奴のバールは、なんとかクリーンヒットせずに、なんとか助かったようだ。
「よかった…」
貴明が、俺を抱く。しかし、俺の目には嫌そうな顔をする、博司がいた。
それから、津久井家では、不幸が長け続けに起きた。仕事のミスや、事故等…俺の体はボロボロになりかけた。しかし、この時の俺は知らなかった。あんな不幸が起きるなんて。
この日は、博司の5歳の誕生日パーティーだった。しかし、そのパーティーには、貴明はいなかった。
「遅いわね、貴明さん」
「まぁ、仕事が忙しいんじゃないのか?」
「それにしても遅いわ。もう8時よ」
すると、俺のケータイに電話が来た。
「はい…」
「すいません、警視庁ですが…津久井貴明さんの親族でしょうか?」
「は、はい。貴明の父ですが」
「実は…貴明さんが…お亡くなりになり…」
「たっ、貴明が!?」
「はい。なので、警視庁まで来てください」
そして、電話が切れた。
「智恵、少し行ってくる……」
「どうしたんです?お義父さん」
「ちょっとだけ…な」
俺は家を出て、警視庁の慰安室に入った。
そこには、貴明の死体があった。
「貴明……貴明ぃぃぃぃぃぃぃ!」
俺は死体を見て、泣き出した。
どうやら、警察の話によると、夜、貴明が帰ってくる途中に何者かに襲われてしまい、その男に殺されてしまったのだ。
「ぐっ………」
俺は悔しさで、下唇を強く噛んだ。
そして、俺は心を癒やすために、有給休暇を取った。そして、家族葬を行った。
「貴明…」
「貴明さん…」
「ママー?パパは?」
「パパはね、天国って所に行っちゃったの…パパは、その天国から見守ってくれるから……」
俺は、博司を見ると、邪悪な笑顔を浮かべていた。
それから、7年後、博司も12歳になり、俺も、定年退職をしていた。
「おじいちゃん、はい、これ」
すると、博司がコーヒーを渡した。
「おっ、博司も気が利くなぁ…」
俺はコーヒーを一口飲むと、博司が耳元で呟いた。
「津久井義彦、俺は、益子博司だ」
「!?」
「最期に教えてやる。俺は、転生した。その時、神様がこう言ってくれたんだよ。『津久井家を不幸にする能力を授ける』とね。そのコーヒーにはね、猛毒が入っているんだ」
そう言われた途端、俺は呼吸が出来なくなった。
「じゃぁな、津久井義彦」
そして、博司、いや、益子博司はその場を去った。
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