ストレスガム
奇妙な世界へ………
俺は源田剛。会社と家庭でストレスを感じまくりの中年男だ。
俺の勤める会社の立場としては、課長だ。なので、無理な指示をする、部長。舐め腐った態度をとる一部の社員。それらが原因で、ストレスを感じまくりである。しかし、それだけではない。家庭では、冷たい妻と反抗期の息子がいるお陰で、家庭内でのカーストは、ペットの犬のジョンソンより下だ。
取り敢えず、俺の1日を教えてあげよう。
午前6時。俺は気づかれないように起きる。妻の栄子と息子の秀喜は俺がいると嫌な顔をするため、いつも朝は一人だ。
リビングに付くと、一人でコンビニのサンドイッチとコーヒーを食べて、二人が起きる前に俺は家を出る。
午前7時半。会社に付き、皆の到着を待つ。
午前8時。部長の矢部晃がやってくる。そして、俺に近づいた。
「源田くん、おはよう」
「矢部部長、おはようございます…」
「今日も業務をがんばってね……頑張らないと、給料減らすから」
「わ、わかっております」
「じゃ、今日もよろしく」
このように、矢部部長のパワハラに近い言葉(俺以外には言わない)によって、ストレスを感じていたりする。しかし、ストレスの原因はこれだけではない。
午前8時半。部下たちが一斉にやってくる。しかし、一人だけいない部下が無いことにいつものように気付く。
午前8時50分頃、遅刻ギリギリで一人の男がやってくる。その男は部下の一人、市川修だ。
「課長〜!おはようございま〜す!」
「市川…なんでお前はいつも遅刻ギリギリで来るんだ…」
「だって〜いっつも、電車が遅延してて〜」
「……お前なぁ、その言い訳、一週間前も言ってなかったか?」
「気のせいですよ、き、の、せ、い!」
「ぐっ………」
俺はダメだとわかっていてもコイツをぶん殴りたくなった。
午後19時、家に帰宅。ドアを開けても誰も出迎えてくれない。リビングに入ると、秀喜はスマホを見ていて、栄子は台所で料理を作っていた。
「おっ、この匂いはカレーか?」
「………そうよ」
栄子の冷たい声が俺の心を貫く。
そして、カレーが出来て、料理を待った。そして、テーブルに置かれたのはカレー。しかし、俺のカレーライスの量は秀喜と栄子の分より少なかったのだ。
「あの…これは?」
「見たら分かるでしょ。カレーライスよ」
「いやいや、そうじゃなくて…なんで、量が少ないの?」
「……早く食べて。冷めるから」
キャッチボールすらできていていない会話に、俺は少しのイライラを覚えた。
そして、カレーライスを食べ終え、風呂に入ろうとした時、秀喜が珍しく話しかけてきた。
「親父」
「ん?どうした、秀喜?」
「あのさ、風呂は先に入らないで」
「な、何でだ?」
「だって、親父が入ったあとの風呂、加齢臭がするだもん、カレーだけに」
「ププッ」
俺は二人のコンビネーションに若干悲しくなった。
午後10時、風呂を入り終え、寝床に就く。しかし、ベットには、栄子が占領していた。
「たくっ……」
俺は床に寝そべって寝ることにした。無論、寒いし床は硬いので、よく眠れない。本当、明日が休みで良かったと思う。
そう、これが俺の一日である。ストレスにまみれた一日であることは皆わかっただろう。しかし、そんな俺に転機が訪れる。
次の日、起きると、栄子と秀喜がいなかった。
(なんだ?家出でもしたのか…?)
リビングに行くと、一枚の置き手紙があった。
『あなた、秀喜と一緒にお父さんの所に行ってきます。なので、二日間くらい帰れません』
「くっ………」
せめて何か俺に言ってから行ってくれと、俺はテーブルに置かれたコンビニのサンドイッチを食べながら思った。
それから数時間後、暇つぶしにテレビを見ていると、インターホンの音がした。
「なんだ?何か頼んだ覚えがないが……栄子の物か?」
俺は不思議そうに玄関に向かい、ドアを開けた。そこには、七三分けのスーツを着た男がいた。
「誰だお前は!?」
「どうも。私、こういう者です」
すると、男はスーツの内ポケットに入っていた名刺入れを取り出すと、そこから一枚の名刺を取り出した。
『メンタル食品㈱ 営業担当 釘原純』
「メンタル食品?」
「はい。我社では、メンタルにまつわる食品を作っておりまして、今回紹介するために、セールスをしているんです」
「はぁ…今どきセールスなんて珍しい。で、何を紹介するんだい?」
「これですよ」
釘原はバッグから、小さな長方形の箱を取り出した。箱には『ストレスガム』と書かれていた。
「ストレスガム?」
「はい。このガムは、ストレスを感じた時に食べると、そのストレスをガムが吸ってくれるんです。飲み込んでも、吐いてもOKですよ」
「へぇ…」
「実は、そんな貴方にチャンスがありますよ」
「チャンスって?」
「はい。1週間、このガムを体験出来るんですよ」
「そうか…(確かに、俺はイライラした生活だからなぁ…体験してみても、損はないな)わかった、じゃあ、体験してみるよ」
「ありがとうございます。では、明日、ストレスガム1週間分を送らせていただきます」
そして、釘原はそこを去った。
次の日、俺宛に届け物が来た。それはもちろん、ストレスガムだ。
「よし、これでストレスから回避できるな」
そのまた次の日、会社に着くと、同時に矢部部長も着いていた。
「お、おはよう。源田くん」
「おはようございます」
「源田くん、お仕事頑張ってね。頑張らないと、そのうち、辞表を出すことになるからならねぇ…」
「……はい…」
俺は矢部部長が会社に入るのを見届けると、俺はバックの中から例のガムを取り出した。そして、その中の一つを取り出し、それを食べた。
(ふむ……なんか、爽やかな味だな…ミントみたいな…なんかこう…心がスゥっとしてくるような…)
そして、ガムの味が無くなる頃には、ストレスが無くなっていた。
(す、凄い!本当にストレスか無くなった!)
俺は爽やかな気分で会社に入った。
そして、遅刻ギリギリで市川も来た。
「課長〜〜おはようございま〜す!」
「あのなぁ…」
「すいませ〜ん、聞こえませ〜ん」
市川はおちゃらけながら自分の席に座った。
俺はまたガムを噛み、ストレスを無くした。
その夜、家に帰ると、いつものように二人は出迎えてくれなかった。
リビングに入り、秀喜が嫌そうな顔で見てくる。
「おかえり」
今度は、栄子が冷たい声で俺に言う。
「あなた、夕飯食べ終わったら二人で話し合わない」
「えっ…いいけど…」
俺は何か嫌な気を感じた。
夕飯の後、俺は栄子に呼び出された。
「それで、話ってなんだ?」
「これよ」
すると、栄子はとあるものを出した。それは、ストレスガムだった。
「あのねぇ、あなた、私に無断でこんなの買ったわけ?」
「い、いや、一昨日セールスマンが来て、これを買わされたんだよ。て、てか、無料だったからつい……」
「だからって、こんなの買っていいわけ?本当にくだらない亭主よ。離婚よ」
俺は栄子のくだらない言葉に嫌気が差し、堪忍袋の緒が切れた。
「……お前だって…俺に無断でバッグやらなんやら買ってたじゃないか!?」
「それは…アレよ、アレ。趣味よ」
「俺のやつとお前の趣味は違うって言いたいのか!?」
「えぇ、そうよ」
「ぐうぅ…離婚だ!離婚!そんなに別れたかったら、別れてやる!」
俺は怒り狂い、自分の部屋に入った。バッグの中から、ストレスガムを一個食べた。しかし、珍しく怒りは収まらない。俺は思わず、一箱分全部食べてしまった。
「はぁ…はぁ…はぁ…俺はなんで離婚って言ったんだろうなぁ…」
俺は自分のやったことに後悔した。
それから一週間後、俺と栄子は別れた。秀喜は栄子に取られたが、そんなのどうでもいい。しかし、重要なのはこれからだった。ストレスガムが無くなったからだ。
今までストレスガムに依存していた俺にとって、ストレスガムが無くなる事が一番のストレスだった。
「ウワァァァァァァァ!ギャァァァァァァァァァ!」
ストレスは血圧を上げる。そして、体調を悪くする。
その結果、俺は脳に異常をきたし、死んでしまった。
俺は死ぬ前にこう言った。
「ストレスがぁ………ストレスがぁ………ストレスガムをくれぇぇぇぇぇ………」
俺の人生はストレスに包まれた人生だった。
読んでいただきありがとうございました…………




