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古の魔法書と白ノ魔女  作者: 紀ノ貴 ユウア
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第15章、深い溝②

「だからといって、いきなり気を許しすぎでは…。」

 シェラトリスは、別にルチルとレノを信用していないわけではない。しかし、万が一ということもある。

「安心してくれ。」

 レノが表情を変えずに口を(はさ)む。

「俺たちもあんたたちと同じように、複雑な事情をよく知っている。王家とオルヴェーヌ家も、世間には知られていない秘密を抱えているからな。」

 レノの遠回しな言葉の意味を、ルチルが説明する。

「王家とクロノタトンが実はかなり親しい間柄(あいだがら)であるように、我々オルヴェーヌ家も王家と秘密の関係なのさ。もっとも、クロノタトンのように、信頼による絶対的な協力関係ではないけどね。」

「?」

 今一つ理解できない、奇妙な話だ。表向きに限っての話ではあるが、オルヴェーヌ家は、派閥(はばつ)に加わらず、どの家よりも王家に忠実であるはずだ。

「…我が(いえ)は、王家の忠実な家臣などではない。」

 そこでちらりと目を動かし、レノがアスカルトに視線を向けた。

「そうだね、オルヴェーヌ家は、言わば、王家の監視役だ。」

(王家の…監視役?)

 シェラトリスには初耳だ。

 アスカルトがシェラトリスらをイスに座るよう(すす)め、自らも席に着いて真面目な顔で話し始めた。

「大昔、ハーシュの生きた時代、ハーシュだけでなく王家も罪を犯したと言われている。以来、王族は自らを(りっ)するために、当時、ヴァリオ王子の側近だった者の一族に王家の監視を行うよう命令したらしい。」

「その王子の側近の一族というのが…」

「オルヴェーヌ家、というわけさ。」

 初対面の時に、オルヴェーヌ家がヴァリオ王子の側近の子孫だということ、シュアに関する記録が残されているということが告げられたことをシェラトリスは思い出し、それらが“王家の監視役”という話に結び付くのだと理解した。

(罪…?)

「王家の罪…について聞いても?」

傍系(ぼうけい)王族の暴走を止められなかったこと、そう王族(ぼくら)には伝えられている。最初の混乱はハーシュの起こしたものではなく傍系(ぼうけい)王族が起こしたもので、直系王族は力が弱かったばかりにその暴走を止められず、その後に大きな混乱をもたらしてしまった、これは大いなる罪である、(いまし)めよ、とね。王家に密かに監視役を設けているのは、この影響だろう。」

「なるほど…。」

「だが、そもそも、今の王家に伝わっている“歴史”は、ルヴァン先生の持つ〈古書〉や、オルヴェーヌ家の持つ記録の内容を真実と仮定した場合、その半分程度しか伝わっていない。これを踏まえると、王家の罪や監視役には、他にも意味があるのではと思うね。」

 そこでアスカルトが、ルヴァンとオルヴェーヌ姉妹を見た。


「「…。」」「“…。”」


 三人は少しの間、沈黙していた。

 しかし、誰も語り出さず、かと言って話題を変える様子でもない雰囲気(ふんいき)から、ルチルがそっと口を開いた。

「…その通りだ。傍系(ぼうけい)王族の暴走を止められなかったこと以外にも、王家には罪がある。…むしろ、そちらが本来の罪だ。」

 ルチルが複雑な表情でシェラトリスを見つめた。

「王家に監視役が設けられることになった(ゆえん)―――それは、ハーシュもといシュアを、みすみす死なせてしまったことだ。」


(…!!)


「王子の婚約者という立場にも関わらず、全てを背負わせて悪役として死なせてしまったことから……そういうシュアの死から……、王家が客観的に正しく物事を判断・行動できるよう、王子は、最も信頼する臣下の一族に、王家の判断を信用するなと命じたんだ。オルヴェーヌ家が王家を監視するというのは、そこから生まれた仕組みさ。」

 ルチルが力なく笑った。

 シェラトリスは黙り込んでいる。

(シュアの死は…王家に結構 大きな影響を残していたのね…。こんな仕組みができるほど…、彼女は…、本当は、大事に思われていたのかしら…。)

「アスカルト、王家には“シュア”の情報は残されていないのよね?」

「…“ハーシュ”ではなく“シュア”という意味でなら、そうだね。父上や王宮・宮殿の〈番人〉に聞いても、ルヴァン先生やオルヴェーヌ先輩方(せんぱいがた)にご協力いただいても、そういった情報は残っていない。」

「…オルヴェーヌ家でも、本当は秘匿(ひとく)され、長らく忘れられていた。だが、俺たちが隠し書庫を見つけたことで、オルヴェーヌ家でも何人かは歴史の真実を知ることとなった。」

 アスカルトに続き、レノもオルヴェーヌ家の(つか)んでいる情報を明かす。

「他にはどのような情報がありますか?」

 シェラトリスの問いに、ルチルは考える仕草(しぐさ)をする。

「…ここで明かすのもいいが、時間が足りない。別な機会に回そう。…そう言えば、王立研究院が我が家に残されていた資料とルヴァン先生の〈書〉を照らし合わせて、つじつまの合う事実(はなし)かどうか検証したいと言っていたし、その時がちょうどいいだろう。」

 どうやら、オルヴェーヌ姉妹は王立研究院とも顔見知りのようだ。

「…王立研究院の所長が、この部と共同研究の取引をしたと言っていた。共に検証の場に立ち会うことになるだろう。きっとそのうち、正式に呼ばれるはずだ。」

「なるほど、分かりました。」

(それまでに、心の準備をしなきゃ。)


 前回は、突然たくさんの情報を与えられ、その内容があまりに衝撃的だったことから、人前で動揺した姿をさらしてしまった。シェラトリスはそれを恥じていた。


「さ、シェラトリス、そろそろ他のメンバーも来るだろう。活動の準備を始めよう。」

 アスカルトの言葉に、シェラトリスは部長としての役割を思い出し、思考を切り替えた。

「ルチル先輩、レノ先輩、これからよろしくお願いします。」

 オルヴェーヌ姉妹は、シェラトリスに微笑(ほほえ)みを向けた。

「よろしく。」「…よろしく頼む。」



 こうしてシェラトリスは、予想もしていなかった心強い味方を手に入れた。

 しかし、中立を(かか)げていたオルヴェーヌ家の姉妹が、現在ホットな(うわさ)の対象であるシェラトリスの指揮する部活に入ったことは、思わぬ波乱(はらん)を巻き起こした。

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